新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
9 / 160
第六章その1 ~絶対勝てない!?~ 無敵の邪神軍団編

地獄に仏。みんなで拝もう

しおりを挟む
 機体を載せた輸送車両は、山あいの道をひた走った。

 本来ならとっさの機動力に優れる人型重機のみで行きたい所だったが、機体のダメージが少なからずあるため、付近まで車で送ってもらうのだ。

 道中は不安からの反動なのか、皆口々に会話していた。

「鳴瀬少尉の隊とも、かなり久しぶりですね。旧香川県の撤退戦以来ですか」

 画面に映る音羽但おとわただし曹長そうちょうは、そう言ってニヤリと笑う。普段は生真面目な彼の笑顔に、誠も釣られて笑みを浮かべた。

「確かそうだったと思う。あの時もかなりやばかったけど、結局生き延びられたし。音羽隊そっちの行いがいいのかな?」

「それは恐縮ですが、お姫様に怒られないですかね?」

 音羽氏の言葉に、鶴がすかさず調子に乗った。

「そうよ、まったく失礼しちゃうわ。この鶴ちゃんが真面目だから、こういういい事が起こるというのに」

「あれ、鶴っち元気になってきたやん。いつもの調子が出てきたなあ」

「そうなのそうなの、さっきからちょっとずついい感じなの。やっぱり行いがいいのかしらね」

「ああ、少し元気になるとすぐこれだよ」

 コマが呆れてツッコミを入れるが、口で言うほど鶴の具合が良くない事は、たぶんコマも分かっているはず。

 皆をなごませ勇気付けるために、鶴もコマも協力しているのだ。

 そこで画面の音羽氏が言った。

「まあ冗談はともかく、自分も何か不思議なご縁と思ってます。第5船団じもとで一緒だった皆さんと、この東海でお会いするなんて……それも偶然、退避中の皆さんを乗せるだなんて思わないじゃないですか」

「確かに、あの時は地獄に仏と思えたからなあ。有難い事だ」

 香川はそこで拝むような仕草を見せる。

「そーだな、俺も拝むぜ」

「うちも」

「わたしも」

 宮島、難波、カノンも手を合わせるが、香川は長年の経験で彼らの目線を感じ取った。

「いや、お前ら俺を見て拝んでないか? うわ、なんか音羽隊まで!」

 輸送班の皆も手を合わせたので、香川はかなり戸惑っている。

 大きく映った香川を中心に、周囲にミニ通信ウインドウが大量に開き、それぞれが目を閉じて手を合わせているのだ。

 まるで曼荼羅まんだらのような光景に、誠は思わず笑ってしまう。

 音羽氏は手を合わせたまま言った。

「人助けって、結局帰ってくるんですかね。向こうは復興かなり進んでるんで、こっちを手伝うために来てたんです。せまい避難所で窮屈だろうから、一刻も早く広い場所を建ててあげたいって。そしたらこんな事になるんですもん」

「そうね、もっとじゃんじゃん帰って来て欲しいわ。出来れば鶴ちゃん名義で」

「もう、また調子に乗ってる」

 コマのツッコミに一同は笑うが、そこで音羽氏が声を上げた。

「あれっ、あの車両は……!」

 車のスピードが急激に落ち、少し広い路肩で止まった。

 そこにいたのは数台のバスであるが、やがて人影が駆け寄ってきた。

 背の高いすらりとした女性であり、長い黒髪をうなじで結んでいる。

 彼女は感極まった表情で叫んだ。

「く、黒鷹様っ!」

「あっ、おおとりさん!? 今出ます! 良かった、無事だったんですね!」

 誠も操縦席の隔壁ハッチを開けるが、そこで見てはいけないものを目にした。

 鳳の足元から、子犬ほどの小さな生き物が、わらわら走ってくるのに気付いたのだ。

「うっうわっ、まずいっ! 早く閉めないと!」

 だがそれより早く、生き物たちは操縦席に乱入してくる。

「やいやい、このガンパチ様をしめ出そうとは、ええ度胸しとるんじゃい!」

「せや、ワイらの助けあってのお前やぞ!」

 眼帯アイパッチを付けたワイルドそうな狛犬、そしてキツネが誠に飛びつくと、後から牛と猿も続いた。

「モウ感動です! こんなところで姫様達とお会いできるとは!」

「さすがのあっしも、心がウキウキいたしやすぜ!」

「ぐはっ! あ、あれ、龍がいない……? まさか……!」

 再会の喜びも相まって、普段よりコミュニケーションが荒い神使達の攻撃に耐えながら、誠はふと不安を覚えた。

 まさか犠牲になったのかと心配したのだが、そこで猿がウインクする。

「心配いりやせんぜ、辰之助さんはパンク修理を手伝ってるんでさあ」

 よく見ると、龍はバスの片側を持ち上げ、タイヤ交換を手伝っていた。ジャッキも無しに持ち上げるとは、さすが肉体派の神使である。

「良かった……ぐはっ! いや、良くは無いけど、とにかぐほっ! ちょっと、喋らせろよお前らっ」

 誠が操縦席から逃げ出すと、鳳がすぐに近寄って来た。

「神使達も必死だったんです。最後のバスに乗り込み、しんがりで守ろうとしたのですが……敵が強すぎて牽制すら出来ず。もう駄目かと思っていたところ、彼方から何かの光が押し寄せて。餓霊がひるんだところを振り切ったんです」

 余程心細かったのだろう、鳳は少し涙ぐんでいる。

 誠はなぐさめる言葉を探していたが、そこでふと思い当たった。

「あれっ? あの餓霊が怯むほどの光って……もしかして千里眼が撃ったやつかな。最後の1射が外れてたけど、そんな都合よく……ぐはっ!?」

「そうね黒鷹。また私の行いの良さが出たわ」

 鶴は誇らしげに胸を張り、コマは呆れてツッコミを入れる。

「ほんとに調子に乗りすぎだけど……でも良かった、みんながいるなら心強いよ。僕だけじゃ、どうにもならないと思ってたんだ……!」

 コマも本当に安堵していた。

 たった1人で女神や鶴、そして被災者達を守らねばならない重責に押し潰されそうだったのだろう。

 神使達とコマは、嬉しそうにじゃれあっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...