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第六章その2 ~あきらめないわ!~ 不屈の本州脱出編

きりきり舞いの悪党ども

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「…………!?」

 餓霊達はようやく足を止めていた。

 逃げる車を追いかけていたら、いきなり光に襲われた。光が薄れたら車が消えて、獲物を見失ってしまったのだ。

 何が何だか分からない……が、次の瞬間。

「そこまでよ!」

 ふいに頭上から、勇ましい声がかけられた。

 見上げると、建物の上に数人の人影が見える。

「さあさあ、人の世にあだなす悪党ども、今日が年貢の納め時よ! 黒鷹、みんな、こらしめてやりなさい!」

 そんな勇ましいセリフとは裏腹に、奴らは次々物陰へ飛び降りていく。

(逃げるのか……!?)

(追わなければ……!)

 急ぎ後を追いかけるのだが、迷路のような居住区のせいで、たちまち姿を見失ってしまう。

「……?」

 周囲を見回し、懸命に相手を探した。

 いかなる音も聞き逃さぬよう、ただの1人も逃がさぬよう……そして相手を発見したのだ。

(!!!???)

 一瞬、餓霊達は面食らった。

 見つけたのはいいが、今度は数が多すぎるのだ。

 さっきより大きくなった神使にまたがり、突進してくる人間達は、数十、いや数百に及ぶ大軍だった。

 彼らはあっちの路地に消えたかと思えば、こっちの角から飛び出してくる。

 人間同士がすれ違い、気さくに声をかけあったり、世間話までする始末だ。

 追いかける餓霊や黄泉醜女ヨモツシコメは大混乱に陥った。

 つんのめり、餓霊同士が激突し、黄泉醜女ヨモツシコメに跳ね飛ばされる。

 そうこうするうちに、町の彼方に巨大な物が現れた。

 さっきまでそこには何も無かったはずだが、ともかくあれは、人間どもが使っていた人型の鎧だった。

 一同はそこに殺到するが、もうすぐ辿り着けるという寸前で、鎧は縮んで消えてしまった。

(……っ!?)

 慌てて周囲を見回すと、今度は別の所に鎧が現れた。

 めげずにそこに走っていくが、やはり到着寸前で消える。

 走っては空振り、追いかけては無駄骨。

 そんな事を繰り返すうちに、市街地にけたたましい音が響き渡った。

『バッカモーン!』

 そんな怒声と共に、火柱が立ち昇っていく。

 どうやら爆弾のようだが、その威力はとんでもない。

『ババババ、バッカモーン!』

 次々起こる大爆発に、さしもの巨体の餓霊達も吹っ飛び、転び、散々な目にあっている。

 更には爆発の合間を縫って、カラフルな生き物?がちょろちょろと走り出てくる。

 さっきまでの神使や人間達とも違う、かなり珍妙な生物だ。

 あの派手な赤い顔のヤツは、確か獅子舞ししまい……?

(??????????)

 餓霊も黄泉醜女ヨモツシコメも、もはやパニックに陥っている。



「いいわ、めちゃんこ慌ててるわね!」

 鶴はコマの背にまたがり、キャメラを掲げてドヤ顔した。

 手はずは簡単、まず敵を引き付けて居住区に誘い込む。

 それから町に隠れつつ、霊気で作った分身で引っ掻き回す。

 次に打ち出の小槌で人型重機を出し入れして、敵の目をあちこちに引き付けた。

 相手が混乱してきたところで、神器の爆弾で慌てさせる。

 さらに混乱に拍車をかけるべく、神使達が被り物を着て走り回るのだ。

 色とりどりの被り物は、各地のお祭りの祭具を模したもの。

 獅子舞や神楽装束が走ると、カラフルで愛嬌のある五つ鹿が続く。

 更には神使が大勢で操る牛鬼が、赤い巨体に長い首で暴れ回り、餓霊どもの度肝を抜いた。



 鶴はキャメラを自分に向けて、時折ナレーションを吹き込んでいる。

「まさに天才と言うほかはありません。ひたすら真面目で、素晴らしい聖女である鶴ちゃんによって、悪党どもはキリキリ舞いさせられていたのよ」

 キリッとした顔で語りを入れる鶴に、コマがたまらずツッコミを入れる。

「また勝手な事言ってるなあ。話を盛ってないで、そろそろ音羽さんと連絡とりなよ」

「いいところなのに、しょうがない狛犬ねえ」

 鶴は渋々神器のタブレットを取り出す。

 画面に映った音羽氏は、すぐにこちらに気付いて答えた。

「いけますよお姫さん、もう終わります! こっちはいつでもOKです!」

 周囲はかなり薄暗く、彼らはライトを付けながら素早く作業を行っていた。

 属性添加式ドリルで穴を開け、コード付きの何かを差し込んでは埋め戻していく。

 鶴の素人目から見ても、かなり慣れた様子であり、彼らが歴戦の工作班である事を如実に示していた。

「いい部隊だわ。鶴ちゃんが天下統一したら、配下に召し抱えたいところね」

 鶴は満足して頷くと、タブレットから一同に呼びかける。

「黒鷹、みんな、そろそろ仕上げよ!」
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