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第六章その4 ~ようこそ蝦夷地へ!~ スケールでかすぎ北海道上陸編
夜空の希望。ありがとうナギっぺ!
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『………………えっ、誰……???』
ふと女性の声が聞こえると、暗闇に文字が浮かび上がった。白い光で描かれた、小さな小さな文字である。
『今の何だ?』
『頭の中から聞こえたけど……』
声は次々響き、その度に光の文字が空に走った。
誠は呆然と立ち尽くしていた。
そもそもここはどこなのだろう?
先ほどまでいた艦内ではなく、床も壁も天井も無かった。ただ黒い空間が広がっているだけだ。
ライトはおろか、星や月明かりさえも無い……まさに絶望そのもののような光景の中、言葉は少しずつ空を彩り始める。
にわかに理解出来ない誠だったが、そこでふと、胸に温かい何かを感じた。
「…………?」
目線を落とすと、胸元にはうっすらと白い光の輝きが見えた。
「これってまさか……!」
そこで誠は理解した。
そう、これは岩凪姫の霊気である。邪神の卑劣な罠に落ち、命を落とした岩凪姫が、砕け散る自らの魂を分けてくれたものだ。
どういう仕組みで声が届いているのか、理屈は全く分からない。
けれど人々に吸い込まれた女神の魂は、こうして声を届けてくれたのだ。
『何があっても、決して望みを捨てるな。最後の最後まで生き延びて…………きっと幸せを掴むのだ』
そう言った女神の姿が、誠の脳裏に浮かび上がった。
「…………っっっ!!!」
こみ上げる感情を必死に抑える誠だったが、そこで傍らに鶴達が現れた。
「黒鷹、これってナギっぺよね?」
鶴はもう涙を浮かべていた。コマも隊員達もそれは同じだ。
鶴は胸に手を当てて、愛おしく語りかけるように言った。
「ほんとにもう、無器用すぎるわナギっぺは。やる事が遅いのよ……!」
「多分、ようやくみんなに馴染んだんだよ、岩凪姫様の魂が。だからみんな繋がって、こうして声が届いたんだ……!」
コマは前足で涙をぬぐいながら言った。
誠は何度も頷きながら、声を絞り出すタイミングをうかがう。
油断すると噴き出しそうな激情を抑え、誠は夜空に語りかけた。
「……皆さん、どうか声に出さずに、そのままで聞いて下さい。声に出さなければ、心で念じるのは構いません。敵に聞かれるといけませんから」
空には沢山の疑問符が浮かんだが、人々は耳を傾けてくれているようだ。
「この声は、通信とかじゃなくて、心の中で会話してます。何言ってるんだって思うかもしれないけど、本当なんです。うまく言えないけど……みんなを守ろうとした女神様がいて……その神様がくれた力なんです」
誠は懸命に説明した。
敵の情報撹乱のおかげで、長距離の通信が悪意に変わってしまっている事を。
だから本当は、争う理由なんて無い事を。
そしてこの力をくれた女神様は、皆を守るために命を落としてしまった事を。
いつの間にか鳳も傍にいたが、彼女もコマも、誠を止めはしなかった。
もう隠している場合ではない。もう『その時』が来たのである。
「だからもう一度、みんなで力を合わせましょう。力を合わせて、もう一度、あの懐かしくて幸せな世界を取り戻しましょう……!」
誠は天を見上げ、力強く言い放つ。
「そしたらみんなで、この力をくれた女神様に…………ありがとうって言いたいんですっ……!!!」
人々はしばし無言だったが、誰かがぽつりと呟いた。
『俺、信じるよ……』
『私も信じる。あの光が降りてきた時、すごくあったかかったもん』
『信じるなって言われても、聞こえてるのは確かだもんな』
『1人だけならともかく、みんな同時にそうなってるし』
声は次々繋がっていく。
やがて兵員らしき声も聞こえてきた。
『今までの非礼、大変失礼いたしました。当方現在、房総半島の南海上です。このまま北上し、そちらの避難区に合流します』
『こちらも合流いたします。それまでどうかご無事で……!』
彼らは次々情報を伝達していき、光の文字がどんどん空に描かれていく。
互いを励まし、思いやる言葉が空いっぱいにあふれ、最早眩しいほどだった。
絶望の闇を照らし出す、最後の希望の光である。
ふと女性の声が聞こえると、暗闇に文字が浮かび上がった。白い光で描かれた、小さな小さな文字である。
『今の何だ?』
『頭の中から聞こえたけど……』
声は次々響き、その度に光の文字が空に走った。
誠は呆然と立ち尽くしていた。
そもそもここはどこなのだろう?
先ほどまでいた艦内ではなく、床も壁も天井も無かった。ただ黒い空間が広がっているだけだ。
ライトはおろか、星や月明かりさえも無い……まさに絶望そのもののような光景の中、言葉は少しずつ空を彩り始める。
にわかに理解出来ない誠だったが、そこでふと、胸に温かい何かを感じた。
「…………?」
目線を落とすと、胸元にはうっすらと白い光の輝きが見えた。
「これってまさか……!」
そこで誠は理解した。
そう、これは岩凪姫の霊気である。邪神の卑劣な罠に落ち、命を落とした岩凪姫が、砕け散る自らの魂を分けてくれたものだ。
どういう仕組みで声が届いているのか、理屈は全く分からない。
けれど人々に吸い込まれた女神の魂は、こうして声を届けてくれたのだ。
『何があっても、決して望みを捨てるな。最後の最後まで生き延びて…………きっと幸せを掴むのだ』
そう言った女神の姿が、誠の脳裏に浮かび上がった。
「…………っっっ!!!」
こみ上げる感情を必死に抑える誠だったが、そこで傍らに鶴達が現れた。
「黒鷹、これってナギっぺよね?」
鶴はもう涙を浮かべていた。コマも隊員達もそれは同じだ。
鶴は胸に手を当てて、愛おしく語りかけるように言った。
「ほんとにもう、無器用すぎるわナギっぺは。やる事が遅いのよ……!」
「多分、ようやくみんなに馴染んだんだよ、岩凪姫様の魂が。だからみんな繋がって、こうして声が届いたんだ……!」
コマは前足で涙をぬぐいながら言った。
誠は何度も頷きながら、声を絞り出すタイミングをうかがう。
油断すると噴き出しそうな激情を抑え、誠は夜空に語りかけた。
「……皆さん、どうか声に出さずに、そのままで聞いて下さい。声に出さなければ、心で念じるのは構いません。敵に聞かれるといけませんから」
空には沢山の疑問符が浮かんだが、人々は耳を傾けてくれているようだ。
「この声は、通信とかじゃなくて、心の中で会話してます。何言ってるんだって思うかもしれないけど、本当なんです。うまく言えないけど……みんなを守ろうとした女神様がいて……その神様がくれた力なんです」
誠は懸命に説明した。
敵の情報撹乱のおかげで、長距離の通信が悪意に変わってしまっている事を。
だから本当は、争う理由なんて無い事を。
そしてこの力をくれた女神様は、皆を守るために命を落としてしまった事を。
いつの間にか鳳も傍にいたが、彼女もコマも、誠を止めはしなかった。
もう隠している場合ではない。もう『その時』が来たのである。
「だからもう一度、みんなで力を合わせましょう。力を合わせて、もう一度、あの懐かしくて幸せな世界を取り戻しましょう……!」
誠は天を見上げ、力強く言い放つ。
「そしたらみんなで、この力をくれた女神様に…………ありがとうって言いたいんですっ……!!!」
人々はしばし無言だったが、誰かがぽつりと呟いた。
『俺、信じるよ……』
『私も信じる。あの光が降りてきた時、すごくあったかかったもん』
『信じるなって言われても、聞こえてるのは確かだもんな』
『1人だけならともかく、みんな同時にそうなってるし』
声は次々繋がっていく。
やがて兵員らしき声も聞こえてきた。
『今までの非礼、大変失礼いたしました。当方現在、房総半島の南海上です。このまま北上し、そちらの避難区に合流します』
『こちらも合流いたします。それまでどうかご無事で……!』
彼らは次々情報を伝達していき、光の文字がどんどん空に描かれていく。
互いを励まし、思いやる言葉が空いっぱいにあふれ、最早眩しいほどだった。
絶望の闇を照らし出す、最後の希望の光である。
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