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第六章その5 ~恐怖の助っ人!?~ ディアヌスとの再会編

夢の結界攻略法

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「これで千里眼の攻略法は見えた……いやまあ、実際はぶっつけ本番なんだけど……とにかく、あとは②番の結界をどう突破するかだ。これが出来れば敵の館に近付けるし、何とか勝負に持ち込める……!」

 誠の言葉に、皆は再び思案し始めた。

 さっきの千里眼も難題だったが、こちらも負けず劣らず無理ゲーである。

 超広範囲に結界を張り、その強度はディアヌスですら破壊が難しいのだ。

 考え込む一同だったが、鶴は次第に居眠りを始める。

 コマがハッとして気付き、急いで鶴を揺さぶった。

「駄目だよ鶴、ちゃんと起きてよ」

「むにゃむにゃ……コマ、実はこれが夢の中よ。寝てるのはコマの方よ」

「ええっ……!?」

 混乱するコマの隙をつき、鶴はいつの間にか寝袋に包まれていた。

 そのまま宙に浮き上がり、すーいとどこかへ行こうとしている。

「こらっ、どこに行くんだ」

 コマは寝袋に飛び乗り、前足でバシバシ鶴の頬を叩く。

 鶴は浮いたまま寝袋を回転させ、コマを振り落とそうと試みた。

 コマは前足でしがみつき、落とされまいと後足をばたつかせていたが、たまらず棚に激突する。

 ガタン、ガラン、ガシャガシャン、と賑やかな音が響き渡った。

「ええい、遊ぶな貴様らっ!!!」

 ディアヌスが咆えたので、鶴はさっと寝袋から飛び出した。

「さ、冗談はともかく、真面目に考えるわよコマ」

「よくもそんな事を……」

 鶴達は床に飛び散ったパンフレットを拾い始める。

 誠も再び考えるのだったが、そこで鶴に肩を叩かれた。

「ん……?」

 鶴は妙に赤い顔で、かなり興奮しているようだ。

「さっきの今で何があったんだよ。また怒鳴られるぞ」

 誠は小声で鶴に言ったが、鶴はぷるぷる首を振った。

「何だ、違うのか?」

 鶴は無言で何かを差し出した。先ほど散らばったパンフレットの1つだ。

 誠が見ると、よくある博物館のイベント告知であり、古代の遺跡から発掘された、木製の壷が写っていた。

 材質は桐の木で、あちこち朽ちてはいるが、表面に美しい模様が刻まれている。

 壷といえば土器が普通であり、つまり実用ではない儀式物だろうが、それが発見された古代の神殿跡は、桐壺古墳と名付けられたらしい。

 今回の移動展示は、それらの珍しい木製発掘物が目玉であり、このパンフレットの期間中は、この『函館の』博物館に展示されていたらしい。

 展示には他にも鏡や銅剣など、多数の儀式物があるようだ。

「…………んっ?」

 誠は妙な胸騒ぎがした。

(函館……いや待て、函館? そして桐壺古墳??)

 改めてパンフレットを眺め、誠はそこで声を上げた。

「あああああっ!!?」

「叩き殺すぞ貴様らっ!!!」

 再びディアヌスに怒鳴られ、誠も鶴も飛び上がった。

 ディアヌスは怒りのオーラをみなぎらせ、ゆっくりとソファーから立ち上がった。

「一度ならず二度までも……そんなに八つ裂きにされたいか?」

 誠は完全に腰が引けながら、それでもパンフレットをディアヌスに差し出した。

「すっすみません、すみませんがちょっとこれを……」

「何だ……!?」

 ディアヌスは怒りの表情のまま、パンフレットを引ったくる。

 しばし表紙の写真を眺め、それから急に静かに言った。

「確かに……間違いなく桐壷……戸簾桐壷神とすきりつぼのかみのものだ」

「こ、これですね、これが古代の祭具ならですよ? これを使えば、逆にこっちから……いっその事……」

 誠はそこで考えを説明した。

 ディアヌスは腕組みしたまま聞いていたが、やがて頷く。

「恐らく可能だ。可能だが……貴様、面白い事を考えるな」

 ディアヌスは、牙を剥き出してニヤリと笑う。

「い、いえ、僕が考えたというか、鶴が思いついて見せてきたんですけど」

「そうそう、私も今、自分の凄さに打ち震えているところなの」

 鶴が調子よく言うと、コマが両の前足を上げて言った。

「酷すぎるよ……と言いたいところだけど、君はほんとに、とことん運だけは一流だね!」

「そうなのそうなの、ピンチの時こそ私なのよね」

 すまして言う鶴に、一同は少し笑った。
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