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第六章その7 ~みんなで乾杯!~ グルメだらけの大宴会編
最後の晩餐
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『いっただきまーす!』
すっかり日も暮れた午後7時。
と言っても日本全土が暗雲に包まれている今、昼も夜もあまり見分けがつかないのだったが……ともかく誠達は夕食を開始した。
場所は先ほどまで人型重機を整備していた格納庫。そこに折り畳みの椅子を並べ、輪になって座っているのだ。
佐久夜姫の提案により、決戦は明朝6時となった。どうやら奥の手とやらの関係らしい。
「腹減った、ずっと神経接続の調整ばっかやってんだもん」
宮島は過熱式携帯糧食収納箱で温められた弁当をぱくつきながら、しみじみ旨そうに味わっていた。
海棲小型生物を加工した携帯糧食は、ずっと誠達を支えてくれた馴染みの食事だ。
誠達は、しばしその味を堪能した。
絶望に沈みかけた日にも、何1つ明日が見えない日にも、変わらず腹を満たしてくれたその味を、最後に確認していたのだ。
そしてその絶望の日々を終わらせてくれたのは、誠の隣に座る鎧姿の姫君だったのだ。
「コマ、これすんばらしくおいしいわね」
「うん、おいしいね。オキアミで作ってるんだよね」
決して豪華な食事ではないが、鶴もコマも喜んでモリモリ食べてくれる。
ちなみに最後の晩餐という事で、飲み物は水ではなく、貴重なみかんジュースだった。
「けど他の船団の連中、今頃何しとるんやろな?」
練ったオキアミを揚げたカツ……海カツを箸でつまみながら難波が言った。
「最後の戦いの前やし、真面目にしとる……と見せかけて、案外シモネタで盛り上がっとったりしてな」
「や、やめなさいよこのみ」
カノンは赤い顔でたしなめるが、難波は更に悪ノリした。
「おっ、なんやカノっち、赤くなっとるやん? 鳴っち、何思い出したか聞いてみ?」
「やっやめてっ!」
カノンが難波の背を叩き、そのあまりの怪力に、難波は悶絶してうずくまった。
「まあ煩悩どうこうはともかく。それぐらいが頼もしいさ……おっ、そろそろいいかな?」
香川は立ち上がり、湯気の立つ鍋から麺を小鉢に取り分けた。
「よーしよし、やっぱり最後の晩餐はうどんだな! ほらみんな、器貸して!」
箸で麺に触れた途端、満面の笑みになるのはうどん県民の本能だろうか。
彼が麺を茹でていた鍋は、属性添加式・箱型補助ストーブ……通称『箱助』に乗せられている。
これも凍える夜の野営で、長年誠達を支えてくれたものだ。
「おおっうめえ! やっぱ香川のうどんは最高だな!」
子供のように喜ぶ宮島に、香川は得意げに胸を張った。
「だろう? そもそもうどんの開祖は弘法大師だからな。そりゃうまくて当然だ」
「お大師さんか。平和になったら、みんなでお遍路参りもいいかもね」
カノンが言うと、香川は身を乗り出して喜んだ。
「そう、そうだ! いい事言うなあ副隊長! お遍路を復活させてこそ、日本の復興もあるってものだ!」
鶴はうどんを食べながら満足げに頷く。
「お遍路って、お参りしながら美味しいものを食べるのよね。食べて拝んで、拝んで食べて。食べて遊んで、食べて食べて遊んで食べて」
コマは呆れてツッコミを入れた。
「酷すぎるよ鶴、煩悩を増やす道中じゃないか」
「甘いわコマ、歩くとお腹がすくものよ?」
「…………」
誠はしばし鶴とコマを見つめていた。
本音が喉まで出かかる誠だったが、思い直して別の言葉を口にした。
「……た、確かに他のみんなは何してるんだろうな」
この北海道の渡島半島避難区では、各船団ごとに分かれて滞在しているので、よそをのぞくのは気が引けるのだ。
そんな誠の内心を察したのか、カノンがまだ赤い顔で言った。
「そっとしといた方がいいわよ。地元の人と、積もる話もあるでしょうし……」
だが、カノンがそこまで言った時だった。
ふいにガサゴソ物音がしたかと思うと、物影から小柄な少年がおどり出たのだ。
「よっ、お前ら! この壮太様が来てやったぜ!」
よく日に焼け、短髪で男らしい顔立ちの彼は、九州で共闘した壮太である。
「こら壮太、来てやったはないでしょ。内緒でお邪魔してるんだから」
旅館の仲居のような格好の湯香里が言うと、他の面々も次々姿を現した。
「イタズラには定評のある私達デース!」
「祖父のトウモロコシ畑に潜って遊んだのを思い出すな」
元気なキャシー、長身のヘンダーソンが立ち上がると、後ろから八千穂と晶が顔を出した。
「あ、あの皆さん、決戦前にお邪魔します。こ、これ試作品のマンゴー改です」
「こっちはイカだ、今解凍しよう」
差し出される大量のマンゴーは色鮮やかで、前よりも大ぶりである。手にした途端、いかにもトロピカルな甘い香りが漂った。
更に晶が開けた冷凍ボックスからは、見事なイカが姿を現し、見る間に解凍されてみずみずしい色艶となった。
「おおっ、九州って事は、これ呼子のイカやろ? ええとこのヤツやん!」
「属性添加の超強力冷凍だからな。鮮度は俺が保証するさ」
晶はメガネの位置を直しながら誇らしげに言ったが、そこで女性が声をかける。
「ほれあんたら、盛り上がってないで手伝いな。長居しちゃ見つかるだろ?」
彼女は黒Tシャツの上から白衣をまとい、頭にバンダナを巻いている。
Tシャツには博多豚骨の文字が躍っており、つまりは九州で出会った女医の宗像さんだった。
すっかり日も暮れた午後7時。
と言っても日本全土が暗雲に包まれている今、昼も夜もあまり見分けがつかないのだったが……ともかく誠達は夕食を開始した。
場所は先ほどまで人型重機を整備していた格納庫。そこに折り畳みの椅子を並べ、輪になって座っているのだ。
佐久夜姫の提案により、決戦は明朝6時となった。どうやら奥の手とやらの関係らしい。
「腹減った、ずっと神経接続の調整ばっかやってんだもん」
宮島は過熱式携帯糧食収納箱で温められた弁当をぱくつきながら、しみじみ旨そうに味わっていた。
海棲小型生物を加工した携帯糧食は、ずっと誠達を支えてくれた馴染みの食事だ。
誠達は、しばしその味を堪能した。
絶望に沈みかけた日にも、何1つ明日が見えない日にも、変わらず腹を満たしてくれたその味を、最後に確認していたのだ。
そしてその絶望の日々を終わらせてくれたのは、誠の隣に座る鎧姿の姫君だったのだ。
「コマ、これすんばらしくおいしいわね」
「うん、おいしいね。オキアミで作ってるんだよね」
決して豪華な食事ではないが、鶴もコマも喜んでモリモリ食べてくれる。
ちなみに最後の晩餐という事で、飲み物は水ではなく、貴重なみかんジュースだった。
「けど他の船団の連中、今頃何しとるんやろな?」
練ったオキアミを揚げたカツ……海カツを箸でつまみながら難波が言った。
「最後の戦いの前やし、真面目にしとる……と見せかけて、案外シモネタで盛り上がっとったりしてな」
「や、やめなさいよこのみ」
カノンは赤い顔でたしなめるが、難波は更に悪ノリした。
「おっ、なんやカノっち、赤くなっとるやん? 鳴っち、何思い出したか聞いてみ?」
「やっやめてっ!」
カノンが難波の背を叩き、そのあまりの怪力に、難波は悶絶してうずくまった。
「まあ煩悩どうこうはともかく。それぐらいが頼もしいさ……おっ、そろそろいいかな?」
香川は立ち上がり、湯気の立つ鍋から麺を小鉢に取り分けた。
「よーしよし、やっぱり最後の晩餐はうどんだな! ほらみんな、器貸して!」
箸で麺に触れた途端、満面の笑みになるのはうどん県民の本能だろうか。
彼が麺を茹でていた鍋は、属性添加式・箱型補助ストーブ……通称『箱助』に乗せられている。
これも凍える夜の野営で、長年誠達を支えてくれたものだ。
「おおっうめえ! やっぱ香川のうどんは最高だな!」
子供のように喜ぶ宮島に、香川は得意げに胸を張った。
「だろう? そもそもうどんの開祖は弘法大師だからな。そりゃうまくて当然だ」
「お大師さんか。平和になったら、みんなでお遍路参りもいいかもね」
カノンが言うと、香川は身を乗り出して喜んだ。
「そう、そうだ! いい事言うなあ副隊長! お遍路を復活させてこそ、日本の復興もあるってものだ!」
鶴はうどんを食べながら満足げに頷く。
「お遍路って、お参りしながら美味しいものを食べるのよね。食べて拝んで、拝んで食べて。食べて遊んで、食べて食べて遊んで食べて」
コマは呆れてツッコミを入れた。
「酷すぎるよ鶴、煩悩を増やす道中じゃないか」
「甘いわコマ、歩くとお腹がすくものよ?」
「…………」
誠はしばし鶴とコマを見つめていた。
本音が喉まで出かかる誠だったが、思い直して別の言葉を口にした。
「……た、確かに他のみんなは何してるんだろうな」
この北海道の渡島半島避難区では、各船団ごとに分かれて滞在しているので、よそをのぞくのは気が引けるのだ。
そんな誠の内心を察したのか、カノンがまだ赤い顔で言った。
「そっとしといた方がいいわよ。地元の人と、積もる話もあるでしょうし……」
だが、カノンがそこまで言った時だった。
ふいにガサゴソ物音がしたかと思うと、物影から小柄な少年がおどり出たのだ。
「よっ、お前ら! この壮太様が来てやったぜ!」
よく日に焼け、短髪で男らしい顔立ちの彼は、九州で共闘した壮太である。
「こら壮太、来てやったはないでしょ。内緒でお邪魔してるんだから」
旅館の仲居のような格好の湯香里が言うと、他の面々も次々姿を現した。
「イタズラには定評のある私達デース!」
「祖父のトウモロコシ畑に潜って遊んだのを思い出すな」
元気なキャシー、長身のヘンダーソンが立ち上がると、後ろから八千穂と晶が顔を出した。
「あ、あの皆さん、決戦前にお邪魔します。こ、これ試作品のマンゴー改です」
「こっちはイカだ、今解凍しよう」
差し出される大量のマンゴーは色鮮やかで、前よりも大ぶりである。手にした途端、いかにもトロピカルな甘い香りが漂った。
更に晶が開けた冷凍ボックスからは、見事なイカが姿を現し、見る間に解凍されてみずみずしい色艶となった。
「おおっ、九州って事は、これ呼子のイカやろ? ええとこのヤツやん!」
「属性添加の超強力冷凍だからな。鮮度は俺が保証するさ」
晶はメガネの位置を直しながら誇らしげに言ったが、そこで女性が声をかける。
「ほれあんたら、盛り上がってないで手伝いな。長居しちゃ見つかるだろ?」
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