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第六章その6 ~最後の仕上げ!~ 決戦前のドタバタ編

泣いちゃうぐらい嬉しいけど、ここはあえて怒ります

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「うるさいよ。うるさいけど、確かにごうの言う通りさ」

 そこで着物姿の女性達が進み出た。

 同じく全神連・西国本部の筆頭の勝子かつこ因幡いなばである。

 勝子は勝気な顔で邪神を睨み、言葉を続ける。

「邪神だ何だといい気になってるけど、頭はてんでお粗末だねえ。知恵の方は大昔から変わってないかい?」

「そんなお目出度い頭だから、何千年も封じられていたのです。まさにいいとこナシ、かしら」

 因幡が微笑んで嫌味を言うと、邪神は怒りを表した。

「この無礼者どもがっ、神たるわらわを侮辱するか!!!」

 だがそこでようやく佐久夜姫が口を開いた。

 少し馬鹿にするように肩をすくめ、

「神ですって? ちゃんちゃらおかしいわ。あなたをあがめる者達は、もう生き残ってないようだけど……『自称神』の方がいいんじゃない?」

「ぐっ……!!!」

 一番触れられたくない所を突かれたのか、邪神は露骨に言葉に詰まったが、苦し紛れに周りを見渡す。

「……だ、だが威勢がいいのは貴様らだけだ。他の者は違うであろう? さあ言ってやれ、お前達は助かりたいと。こやつらに付き合って死にたくないと」

 だがそこまで言った時、近くにいた子連れの母親が口を開いた。

 手には絵本を持っており、我が子のために本を借りに来ていたのだろう。

「あの、私も誘いに乗らないべきだと思います」

「な、何だと……!?」

 予想外の言葉に、邪神は目を見開いて動揺した。

 虫けらのような人間など、脅しつければ簡単に言う事を聞く……そう考えていたからだ。

「じょ、冗談を申すな。折角わらわが慈悲をかけているのだ。己が助かればそれでいい、それが人というものであろう?」

 だが母親は首を振った。ぎゅっと子を抱き、真っ直ぐに邪神を睨みつける。

「いいえ、違います。そんな幼い子を犠牲にして生き残りたいとは、私達は思いません!」

 そこで別の男性が口を挟んだ。

「その人の言う通りだ。それにあのドクロの時だって、甘い事ばかり言ってたじゃないか」

「そうだ、ほんとに助けるつもりなら、あんな大勢殺すわけない!」

「助かるって嘘つけば、騙されるって思ってるのよ!」

「馬鹿にしやがって、そう何度も何度も騙されるかっ!」

 人々の怒りは次々に連鎖していく。

 勇気を振り絞った幼子を守ろうとする思いであり、恐ろしい敵に立ち向かおうとする勇気だった。

「……………………」

 誠は黙って人々を見つめた。

 かつてこの国の人々は、あの髑髏ドクロの誘惑に屈した。

 けれど長い絶望の日々を乗り越えてきた人々には、もうそんな手は通じなかったのだ。

「お、覚えておれ人間ども! 我が夫が戻れば、たちどころに滅ぼしてくれる!」

 邪神は逃げるように画面から消え去ったのだ。

 歓声を上げる人々をよそに、高山は振り返った。

 大和くんとすずちゃん……最早そう呼んでいいかも分からない2人の前にしゃがむと、じっと目を見つめる。

「お2人とも、大変ご立派でございました。ご立派ではございましたが……」

 そこで高山は、両手を少し左右に広げた。

 次の瞬間、ぱちん、と小さな音が辺りに響いた。

「!!?」

 誠達は動揺した。

 神使達も飛び上がって慌て、佐久夜姫と高山を交互に見た。

 高山の左右の平手が、それぞれ大和くんとすずちゃんの頬に当てられていたからだ。

 当の高山は、手を2人の頬に当てたまま語った。

「幼いながらにお役目を担われ、どんなに窮屈きゅうくつだったでしょう。あんな邪神に啖呵たんかをきって、どんなに怖かったでしょう。そのご成長ぶり、我輩は泣いちゃうぐらい嬉しいですが…………それでも、命を粗末にしちゃいけません」

 高山は本当に目が潤みかけていたが、そこをぐっと耐えて怖い顔を作る。

「どんなにご立派でも、子供は子供。今は生きて幸せを目指すんです。あなた達が幸せでないと、この国の祭祀さいしに陰りが出ます。だからもし、また同じ事をしたら、我輩は何度でも怒りますよ……?」

「………………」

 大和くんとすずちゃんは、無言のままに頷いた。

 高山は微笑んで、2人の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。

「それなら良かった。我輩が怒るならまだましで、勝子ときたらそれはもう恐ろしくて……」

「余計な事言うんじゃないよっ」

 勝子がゲンコツを入れ、高山は頭を押さえてうずくまる。

 大和くんとすずちゃんも笑ってくれたので、誠達はようやく金縛りから解かれたように動く事が出来た。

 鶴はついと進み出ると、神妙な顔で頭を下げる。

「数々のご無礼、ひらにご容赦を」

 誠もそれにならったが、すずちゃんは誠達の手をとった。

「そんな、こちらこそ感謝しかないですの。あなた達の頑張りで、沢山の人が守られたんですのよ?」

「そうです。それにお忍び、とっても楽しかったです」

 また出撃したいです、と言う大和くんに、神使達は「それは勘弁や!」と悲鳴を上げる。

 そんな賑やかな一同を、佐久夜姫は微笑みながら見守るのだった。



「あのっ……バカどもが次から次へとっ……! 館の守りを砕いたかと思えば、よりにもよってそこに触れたか……!」

 遅れて事を知った夜祖は、怒りに身を震わせていた。

「いらぬ挑発をしおって、これで総力戦は免れぬではないか……!」

 夜祖は片手で顔を覆い、歯噛みしながらそう呟く。

 他の邪神のように暴れる事は無かったが、その身を覆う邪気は乱れている。

 ともかく夜祖は苛立いらだっていたのだ。

 恐ろしいほどの悪手の連続に、足手まといにしかならない味方に。

 だから気付いていなかった。

 目立ちすぎる程に目立つ無能どもの暴挙…………その裏に隠れたごくごくわずかな予兆を、完全に見逃していたのだ。
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