新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第六章その6 ~最後の仕上げ!~ 決戦前のドタバタ編

お前たちの貴人をよこせ…!

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「聞け、愚かな人間ども。わらわはこの国を統べる神……中でも最も尊き一柱。疫病爪紅比売命えやみつまくれびめのみこと、またの名を仄宮である」

 邪神はそう言ってこちらをめ据えた。

 画面越しでも異常な程の眼力であり、彼女と目を合わせるだけで、誠は頭の芯に傷みが走った。

「邪神……それもとんでもなく高位のヤツか」

「そうね黒鷹。恐らく敵のきさきだわ」

「そんな相手が、なんで直接……」

 誠が言うと、邪神はあざ笑うように口元を緩める。

「もうじき闇の王がお戻りになる。その前に貴様らに慈悲をかけよう。わらわ直々に、生き残る術を教えてやるのだ」

『なっ……!?』

 一瞬、誠達は動揺した。

 助かる方法をちらつかせる……これは非常にまずい事だ。

 最後の戦いに向け、団結した人々の気持ちが揺らぐからだ。

 強力な餓霊、そして邪神達との戦いに赴くのは、正直言って相当の恐怖である。

 普段なら明らかに嘘と分かるような内容でも、騙されるやからが出るかもしれない。

 そんな誠達の動揺をよそに、仄宮は更にとんでもない言葉を発した。

「助かる道はたった1つ。貴様らが守る貴人きじん日御子ひのみこを生贄として差し出すのだ。さすれば慈悲をかけてやろう」

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 一同は戦慄した。

 日御子ひのみこという言葉の意味は分からなくても、直感で理解したのだ。

 日本を破壊しようとする邪神が欲する御子とは、それは……!

 邪神はなおも挑発を繰り返した。

「どうした日御子ひのみこよ。己が国土が滅びても、おめおめ逃げおおせるつもりかえ? それともそちらの民と同じく、貴様らも臆病者なのか?」

 ……だが、次の瞬間だった。

「逃げないのです!」

「そうですわ、逃げませんですの!」

 高らかに、凛とした声が響き渡った。まだ幼い子供達の声である。

 誠が視線を落とすと、いつの間にか傍らに、大和くんとすずちゃんの姿があったのだ。

 普段は無邪気な2人だったが、今は真剣な顔で画面を見据え、全身にうっすら白い光をまとっている。

 傍には鹿やその他の神使達もいて、慌てふためいている様子だった。

「おお、そこにいたか……本当に応えるとは豪胆ごうたんじゃ」

 2人の霊力で通信が繋がったのか、邪神もこちらを視認したようだ。

 青白い顔にぞっとするような笑みを浮かべ、ゆっくりと舌なめずりする。

「良い気勢じゃ、さぞやその血は甘かろうて……!」

「…………」

 佐久夜姫は黙って見守っていたが、誠は戸惑いながら2人に言った。

「や、大和くん、すずちゃん……? 危ないから、邪神と話さない方が……」

「そ、そうだわ……画面ごしでも、呪詛が来るかも知れないし」

 鶴も手を差し伸べるが、大和くんはその手を押しのけた。

「いいのです、ここは逃げたり出来ないのです」

 そう言って誠の前に進み出る。

「さて、逃げぬならどうする? 大人しくここに来るというのか?」

「上等です、行ってとっちめてやるから、正座して待ってるのです!」

「そうなのですわ! 私達ならともかく、皆さんを侮辱するのは許せませんわ!」

 2人がとんでもない事を言い出すので、その場の一同は騒然となった。

 ただやはり佐久夜姫だけは、黙って事の成り行きを見守っているのだ。

「む、無茶だ……いや、無茶です、そんな」

 混乱する誠達にウインクし、すずちゃんが思念で語りかけてくる。

(行って油断させてきますわ。そしたら隙が出来ますもの)

 およそ幼子とは思えぬ事を念じながら、すずちゃんはウインクした。

(そうなのです! 僕達の命でみんなの助けになるのでしたら、何の悔いもないのです!)

「………………」

 誠はあの全神連・西国本部での事を思い出した。

 2人とも愛称ニックネームで名乗り、本当の名は言わなかった。

 そして神使達も全神連も、常に2人を気遣い守っていた。

 つまりそれは……2人がそういう立場だという事。神代の昔から、人々が力を合わせて守ってきたこの国の証だという事だ。

 誰もが言葉を発せなかったが……その時。

 ふと一同の前に、1人の男が進み出た。

 ボサボサ頭に紺の作務衣さむえまとう中年男性で、全神連・西国本部のまとめ役たる高山である。

 高山は黙って大和くん達を見つめ、一礼した。

 それから画面の邪神に向き直ったのだ。

 次の瞬間、

「っっってめえっっっ、ふざけんのも大概にしやがれこのクソボケがああっっっ!!!!!」

 とんでもない怒声に誠達は戦慄した。

 いきなりの事態に、邪神も驚いて目を見開いたが、高山は止まらなかった。

「さっきから黙って聞いてりゃ調子こきやがって、どたまかち割って出直してこいや、ボテクリ回すぞくらあああっっっ!!!!!」

 高山は額の血管が切れそうになりながら、真っ赤な顔で怒鳴り続ける。
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