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第六章その6 ~最後の仕上げ!~ 決戦前のドタバタ編

これで丸裸だな

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「ざまはない。これで丸裸だな」

 壁が砕かれていく映像を眺め、ディアヌスはあざ笑うように言った。

 場所は定位置と化した図書館ロビーのソファーであり、どうやら座り心地が気に入ったようだ。

 誠は若干引き気味に呟く。

「……ひ、引っかかるもんですね。邪神って、案外単純なのかな」

「地の底にいて、学ぶ事すら無かったのだ。夜祖以外、頭の程は知れている」

 ディアヌスは上機嫌でそう言った。

「だが流石にこれで限度だろう。特に黄泉の軍勢は、どうやっても誘い出せん」

 ディアヌスは手の平を上に向け、黄泉の軍勢を映しながら言った。

 古代の鎧を身にまとうむくろ達は、誠が何度も苦戦した強敵だ。

「あれらは常夜命の直属だ。目的は主人の復活であり、それに繋がる事でしか動かん」

「……いえ、これで十分です」

 誠はゆっくりと首を振った。

 ディアヌスがしてくれた事は、計り知れない影響を持つ。

 こちらの武器や人型重機を超絶パワーアップさせ、戦力差を劇的に縮めた。

 邪神の一部を裏切らせ、また誘い出し、敵の本拠地を手薄にした。

 更には館の強固な備えをも砕かせたのだ。

 これ以上は望めないし、これで十分と考えるべきだ。

(ここまでお膳立てしてもらったんだ。これで覚悟を決めなきゃな……!)

 誠は無言で手を握るが、そこで佐久夜姫が、こちらの肩に手を置いた。

「そう気負わないで黒鷹くん。私達も一応、奥の手を準備してるから」

「奥の手ですか?」

 問う誠に、佐久夜姫はウインクして答える。

「そう、奥の手。用意に時間がかかるけど、決戦には間に合わせるから」

「中身は秘密って事ですかね?」

「一瞬しか出来ないから、敵に知られたら時間稼ぎされちゃうの。だからこれだけは秘密」

 佐久夜姫はそう言って、その場の一同を見渡した。

「みんなも希望を捨てないでね。神々も邇邇芸ニニギ様も、必死に手を尽くしてくれてるから。きっと大丈夫よ……!」

「分かったわサクちゃん。どんな秘策か、鶴ちゃんも楽しみにしてるわ」

 鶴はそこで得意げに鎧の胸を叩く。

「でもその前に、私が勝っちゃうかも知れないから。その時はドヤ顔を覚悟してね」

「お手柔らかに頼むわ」

 佐久夜姫の言葉に、一同は思わず笑ったのだが。

 そこでにわかに周囲が騒がしくなった。

 人々が慌てふためき、何かを叫びながら走って行くのだ。

「一体何が起きたの!?」

 雪菜が手近な兵を呼び止めると、彼は焦りながら答えた。

「そ、それが……詳しくは分からないのですが、敵から通信が入りまして。神だとか何とか言ってて、こっちの要人を差し出せと」

 そうこうするうちに、玄関広間ロビーに掲げられた大型モニターに女が映った。

 派手がましい衣装、髪や各所に飾られた宝玉の数々。

 肌は青白かったが、赤い縁取りが施された目はらんらんと輝き、一目で人ならぬ存在と分かる禍々しさだった。



 誠達が報せを聞くより少し前。

 信濃に築いた館の中では、今も宴が続いていた。

 会場の奥には仄宮が陣取り、取り巻きによる胡麻すり合戦が盛んに行われている。

 仄宮の装飾品への賛辞に始まり、彼女を褒め称える美辞麗句の数々。しまいにはこんな事まで言い出したのだ。

「そろそろ常夜様がご復活なさいます。どうでしょう、何か派手なにえが欲しいと思われますが」

生贄いけにえじゃと……?」

 仄宮は傍らの女官に酒を注がせながら、興味深げに繰り返す。

「はい、そうでございます。比類なき御方おんかたですから、生贄も特別なものがよろしいかと」

 邪神が耳元で囁くと、仄宮は目を見開いた。

「それは面白い……! 確かにそれならば命様もお喜びになられる。わらわがじきじきに呼びつけてやろう」

 よく考えれば悪手も悪手、天地開闢てんちかいびゃく以来の大失策である。

 後に夜祖を激怒させた茶番劇は、こうして幕を開けたのだ。
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