59 / 160
第六章その8 ~こんなはずじゃなかった~ 離反者たちの後悔編
魔族たちはおびえている
しおりを挟む
夜祖が他の邪神に目を向けるのを諦めた頃。
館を揺らす激しい振動に、さしもの魔族も辟易していた。
「ったく何だってんだよ。ひっきりなしに暴れやがって」
虎丸は部屋の入り口から顔をのぞかせ、周囲の様子をうかがってみる。
やや小柄だが、長い髪は大きく逆立ち、顔は派手な戦化粧で彩られている。人間ふうに例えれば、パンクロッカーのような印象だ。
「虎丸、やめなさい。外に出るなと言ったでしょう……!」
虎丸の後ろから、黒衣の女が怖い顔で睨んできた。
長い黒髪を伸ばした彼女は、土蜘蛛一族の纏葉である。
「夜祖様からのお達しです。火急の用が無いなら、決して出歩かぬように。荒ぶる神に目をつけられれば、身の保証は出来ないわ」
「分かった分かった、出たりしねえよ」
虎丸は大人しく踵を返し、彼女の指示に従った。
室内には虎丸のような獣人型の魔族をはじめ、角の生えた鬼神族、黒衣の土蜘蛛……そして人間風の衣裳に身を包んだ熊襲達がいたが、皆一様に不安げな顔をしていた。
本来彼らを守護する邪神……無明権現、双角天、熊襲御前といった祖霊神が、この館を留守にしているからだ。
そこで虎丸の弟の次郎丸が、巨体を揺らしながら歩み寄ってきた。
「しかし兄者よ。邪神の復活に尽力した俺達が、何で怯えて引きこもらにゃならんのだろうな」
「そりゃあお前……あれだろ、あれだ。あれあれ」
「そもそも粗暴な連中だし、子孫がいるのが妬ましいのよ」
言葉に詰まる虎丸に代わり、纏葉が答えた。
「だから難癖をつけて殺したり、取って喰おうとするかもしれない。夜祖様はそうおっしゃっていたわ」
「ふ、ふざけてやがる……!」
次郎丸はやや怯みながら呟くが、そこで熊襲の男が口を挟んだ。
「ま、今は我慢だわな。俺らの神が戻るまで、動かずじっとしてる事さ」
派手な紫のスーツを着た青年は、そう言って波打つ金髪を櫛で撫で付けた。
名を焔といい、熊襲一族でもかなりチャラついた人物だったが、そんな彼ですら、表情には緊張の色が窺えた。
「反魂の術が常夜命を呼び出したら、俺らも挨拶して里に戻れる。それまでの辛抱ってね」
焔の言葉に、虎丸達は頷いた。
皆あまり口にしなかったが、誰もが疑問を感じていただろう。
この館の居心地の悪さに。邪神どもの暴虐ぶりに。
本来ならさっさと逃げ帰りたいのだが、常夜命が復活した際、自分達が出迎えないのも流石におかしい。
だからこうして館に居るのだが、疑問はどんどん湧き上がってくるのだ。
『果たしてこいつらは、神と呼んでいい存在なのか?』
『こんな奴らを呼び出すために、自分達は命をかけてきたのか?』
封印から出た邪神達の振る舞いは、こちらの予想とは違っていた。
原始のままの蛮性と、強大な力を併せ持つ危険極まりない存在。
いわば癇癪もちの幼児が、重火器を手にしたようなもの。そんな連中がうよいよいる館で、あとどれぐらい耐えねばならないのだろう。
…………そう、絶対に言っていい事ではないが、全員がうすうす感じていた。
善神どもに隠れて過ごしていた頃の方が、まだ安全だったのではないかと。
世を統べるという一点においては、邪神より遥かにマシだったのではないかと。
館を揺らす激しい振動に、さしもの魔族も辟易していた。
「ったく何だってんだよ。ひっきりなしに暴れやがって」
虎丸は部屋の入り口から顔をのぞかせ、周囲の様子をうかがってみる。
やや小柄だが、長い髪は大きく逆立ち、顔は派手な戦化粧で彩られている。人間ふうに例えれば、パンクロッカーのような印象だ。
「虎丸、やめなさい。外に出るなと言ったでしょう……!」
虎丸の後ろから、黒衣の女が怖い顔で睨んできた。
長い黒髪を伸ばした彼女は、土蜘蛛一族の纏葉である。
「夜祖様からのお達しです。火急の用が無いなら、決して出歩かぬように。荒ぶる神に目をつけられれば、身の保証は出来ないわ」
「分かった分かった、出たりしねえよ」
虎丸は大人しく踵を返し、彼女の指示に従った。
室内には虎丸のような獣人型の魔族をはじめ、角の生えた鬼神族、黒衣の土蜘蛛……そして人間風の衣裳に身を包んだ熊襲達がいたが、皆一様に不安げな顔をしていた。
本来彼らを守護する邪神……無明権現、双角天、熊襲御前といった祖霊神が、この館を留守にしているからだ。
そこで虎丸の弟の次郎丸が、巨体を揺らしながら歩み寄ってきた。
「しかし兄者よ。邪神の復活に尽力した俺達が、何で怯えて引きこもらにゃならんのだろうな」
「そりゃあお前……あれだろ、あれだ。あれあれ」
「そもそも粗暴な連中だし、子孫がいるのが妬ましいのよ」
言葉に詰まる虎丸に代わり、纏葉が答えた。
「だから難癖をつけて殺したり、取って喰おうとするかもしれない。夜祖様はそうおっしゃっていたわ」
「ふ、ふざけてやがる……!」
次郎丸はやや怯みながら呟くが、そこで熊襲の男が口を挟んだ。
「ま、今は我慢だわな。俺らの神が戻るまで、動かずじっとしてる事さ」
派手な紫のスーツを着た青年は、そう言って波打つ金髪を櫛で撫で付けた。
名を焔といい、熊襲一族でもかなりチャラついた人物だったが、そんな彼ですら、表情には緊張の色が窺えた。
「反魂の術が常夜命を呼び出したら、俺らも挨拶して里に戻れる。それまでの辛抱ってね」
焔の言葉に、虎丸達は頷いた。
皆あまり口にしなかったが、誰もが疑問を感じていただろう。
この館の居心地の悪さに。邪神どもの暴虐ぶりに。
本来ならさっさと逃げ帰りたいのだが、常夜命が復活した際、自分達が出迎えないのも流石におかしい。
だからこうして館に居るのだが、疑問はどんどん湧き上がってくるのだ。
『果たしてこいつらは、神と呼んでいい存在なのか?』
『こんな奴らを呼び出すために、自分達は命をかけてきたのか?』
封印から出た邪神達の振る舞いは、こちらの予想とは違っていた。
原始のままの蛮性と、強大な力を併せ持つ危険極まりない存在。
いわば癇癪もちの幼児が、重火器を手にしたようなもの。そんな連中がうよいよいる館で、あとどれぐらい耐えねばならないのだろう。
…………そう、絶対に言っていい事ではないが、全員がうすうす感じていた。
善神どもに隠れて過ごしていた頃の方が、まだ安全だったのではないかと。
世を統べるという一点においては、邪神より遥かにマシだったのではないかと。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる