新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第六章その8 ~こんなはずじゃなかった~ 離反者たちの後悔編

魔族たちはおびえている

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 夜祖が他の邪神に目を向けるのを諦めた頃。

 館を揺らす激しい振動に、さしもの魔族も辟易へきえきしていた。

「ったく何だってんだよ。ひっきりなしに暴れやがって」

 虎丸は部屋の入り口から顔をのぞかせ、周囲の様子をうかがってみる。

 やや小柄だが、長い髪は大きく逆立ち、顔は派手な戦化粧いくさげしょうで彩られている。人間ふうに例えれば、パンクロッカーのような印象だ。

「虎丸、やめなさい。外に出るなと言ったでしょう……!」

 虎丸の後ろから、黒衣の女が怖い顔で睨んできた。

 長い黒髪を伸ばした彼女は、土蜘蛛一族の纏葉まとはである。

「夜祖様からのお達しです。火急の用が無いなら、決して出歩かぬように。荒ぶる神に目をつけられれば、身の保証は出来ないわ」

「分かった分かった、出たりしねえよ」

 虎丸は大人しくきびすを返し、彼女の指示に従った。

 室内には虎丸のような獣人型の魔族をはじめ、角の生えた鬼神族、黒衣の土蜘蛛……そして人間風の衣裳に身を包んだ熊襲くまそ達がいたが、皆一様に不安げな顔をしていた。

 本来彼らを守護する邪神……無明権現、双角天、熊襲御前といった祖霊神おやがみが、この館を留守にしているからだ。

 そこで虎丸の弟の次郎丸が、巨体を揺らしながら歩み寄ってきた。

「しかし兄者よ。邪神の復活に尽力した俺達が、何で怯えて引きこもらにゃならんのだろうな」

「そりゃあお前……あれだろ、あれだ。あれあれ」

「そもそも粗暴な連中だし、子孫がいるのがねたましいのよ」

 言葉に詰まる虎丸に代わり、纏葉が答えた。

「だから難癖をつけて殺したり、取って喰おうとするかもしれない。夜祖様はそうおっしゃっていたわ」

「ふ、ふざけてやがる……!」

 次郎丸はやや怯みながら呟くが、そこで熊襲の男が口を挟んだ。

「ま、今は我慢だわな。俺らの神が戻るまで、動かずじっとしてる事さ」

 派手な紫のスーツを着た青年は、そう言って波打つ金髪をくしで撫で付けた。

 名をほむらといい、熊襲一族でもかなりチャラついた人物だったが、そんな彼ですら、表情には緊張の色がうかがえた。

「反魂の術が常夜命を呼び出したら、俺らも挨拶して里に戻れる。それまでの辛抱ってね」

 焔の言葉に、虎丸達は頷いた。

 皆あまり口にしなかったが、誰もが疑問を感じていただろう。

 この館の居心地の悪さに。邪神どもの暴虐ぶりに。

 本来ならさっさと逃げ帰りたいのだが、常夜命が復活した際、自分達が出迎えないのも流石におかしい。

 だからこうして館に居るのだが、疑問はどんどん湧き上がってくるのだ。

『果たしてこいつらは、神と呼んでいい存在なのか?』

『こんな奴らを呼び出すために、自分達は命をかけてきたのか?』

 封印から出た邪神達の振る舞いは、こちらの予想とは違っていた。

 原始のままの蛮性と、強大な力を併せ持つ危険極まりない存在。

 いわば癇癪かんしゃくもちの幼児が、重火器を手にしたようなもの。そんな連中がうよいよいる館で、あとどれぐらい耐えねばならないのだろう。

 …………そう、絶対に言っていい事ではないが、全員がうすうす感じていた。

 善神どもに隠れて過ごしていた頃の方が、まだ安全だったのではないかと。

 世を統べるという一点においては、邪神より遥かにマシだったのではないかと。
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