61 / 160
第六章その8 ~こんなはずじゃなかった~ 離反者たちの後悔編
こんなとこ居たくないよ…!
しおりを挟む
室内に戻ると、部下の1人は座り込んで震え始めた。
「違う……あいつ欲しいなんて言ってねえよ。いきなり絡まれて、どの加護がいるか言えって言われて。いらねえっつったら、贈り物を断るのかってキレてよ。それでしゃーなしで選んだら、あんな事になって……!」
その場にいた彼は、相当の恐怖を味わったのだろう。目に涙を浮かべながらそう語った。
「変な光の玉みたいなの渡されて……そしたら血反吐はいて倒れちまって。俺ももう、何が何だか分からねえよ……!」
彼はそこで項垂れ、膝を抱えて黙り込んでしまった。
部下達は口々に騒ぎ始めた。
「なあ、なんかやばくねえか? あいつら頭おかしいぜ」
「その前もタカを切り刻んで殺してたし、大勢でその血ぃ飲んでたんだぜ?」
「こんなはずじゃなかったんだよ。何でこんな事になっちまったんだ?」
部下達の言葉は、そのままマキナが思っていた事だ。
人の世界が大嫌いで、何もかも壊れてしまえばいいと思った。
そうなれば面白い。そうなればスッキリすると思っていた。
……でもそれは間違っていた。自分は今まで、法や倫理で幾重にも守られた安全地帯で、無邪気に反抗していただけだった。
あの城で出会った長身の女……確か夜祖が岩凪姫という女神だと言っていたが、今になって彼女の言葉が思い出された。
『貴様の知る薄ら甘い地獄など、本当の闇は軽々と超えて来る。地の底で封じられているあ奴らが、この世に這い出たら何をするか。それを知ったら、お前は尻尾を巻いて逃げ帰るだろう』
「…………っ!」
マキナは爪を噛みながら、女神の言葉を反芻した。
あれは嘘やハッタリでは無かったのだ。
当時はあの女神が恐ろしく思えた。
勿論強さで言えば、それで間違い無かっただろう。直感を信じるなら、さっきの邪神どもより圧倒的に強い。
だがあの女神は叱っていたのであって、こちらを殺すつもりは無かったのだ。
人の命を玩具のように奪い取る邪神達とは、根本的に違う存在だったのだ。
だがその事に気付いたとて、今更どうする事も出来ない。
出来るとしたら逃げる事ぐらいか?
マキナは振り返り、部屋の奥の不是を見やった。
「ね、ねえ、やばいよあんた。こんなとこ居たくないよ……!」
「そうですよ不是さん。ずらかった方がいいんじゃないですかね」
部下達も不是に駆け寄り、口々に嘆願した。
「……うるせえよ。今更怖気づいたのか?」
壁際に座した不是は、そう言ってこちらを睨む。
邪神どもの暴挙に対し、微塵も恐怖を感じていない鈍感さ。
それは普段なら頼もしかったが、今は厄介でしかないのである。
「い、いや、あんたが強いのは分かってるよ。けどあいつらケタが違うじゃん」
「ですよ不是さん、相手は邪神なんだから……」
だが次の瞬間、不是の怒声が一同の耳を叩いた。
「うるせえっつってんだろうがっ!!!!!」
まるで巨獣の咆哮であり、マキナも部下達も後ずさった。
やがて不是は静かに言う。
「外見ろや、今更どこに逃げるってんだ。バケモンどもが這いずり回って、何でもかんでも喰い殺すんだぜ?」
「そ、それは……そうだけどさ……」
戸惑うマキナ達に、不是はなおも言い放つ。
「ここが一番安全なんだよ。ここにいれば、必ずあいつも来るだろうしな……!」
不是の顔は嗜虐の喜びに歪んでいた。
その表情は人間離れしていて、マキナは背筋が寒くなるのを感じた。
以前目にした、爪繰とかいう魔族が見せた笑みとそっくりだったからだ。
「違う……あいつ欲しいなんて言ってねえよ。いきなり絡まれて、どの加護がいるか言えって言われて。いらねえっつったら、贈り物を断るのかってキレてよ。それでしゃーなしで選んだら、あんな事になって……!」
その場にいた彼は、相当の恐怖を味わったのだろう。目に涙を浮かべながらそう語った。
「変な光の玉みたいなの渡されて……そしたら血反吐はいて倒れちまって。俺ももう、何が何だか分からねえよ……!」
彼はそこで項垂れ、膝を抱えて黙り込んでしまった。
部下達は口々に騒ぎ始めた。
「なあ、なんかやばくねえか? あいつら頭おかしいぜ」
「その前もタカを切り刻んで殺してたし、大勢でその血ぃ飲んでたんだぜ?」
「こんなはずじゃなかったんだよ。何でこんな事になっちまったんだ?」
部下達の言葉は、そのままマキナが思っていた事だ。
人の世界が大嫌いで、何もかも壊れてしまえばいいと思った。
そうなれば面白い。そうなればスッキリすると思っていた。
……でもそれは間違っていた。自分は今まで、法や倫理で幾重にも守られた安全地帯で、無邪気に反抗していただけだった。
あの城で出会った長身の女……確か夜祖が岩凪姫という女神だと言っていたが、今になって彼女の言葉が思い出された。
『貴様の知る薄ら甘い地獄など、本当の闇は軽々と超えて来る。地の底で封じられているあ奴らが、この世に這い出たら何をするか。それを知ったら、お前は尻尾を巻いて逃げ帰るだろう』
「…………っ!」
マキナは爪を噛みながら、女神の言葉を反芻した。
あれは嘘やハッタリでは無かったのだ。
当時はあの女神が恐ろしく思えた。
勿論強さで言えば、それで間違い無かっただろう。直感を信じるなら、さっきの邪神どもより圧倒的に強い。
だがあの女神は叱っていたのであって、こちらを殺すつもりは無かったのだ。
人の命を玩具のように奪い取る邪神達とは、根本的に違う存在だったのだ。
だがその事に気付いたとて、今更どうする事も出来ない。
出来るとしたら逃げる事ぐらいか?
マキナは振り返り、部屋の奥の不是を見やった。
「ね、ねえ、やばいよあんた。こんなとこ居たくないよ……!」
「そうですよ不是さん。ずらかった方がいいんじゃないですかね」
部下達も不是に駆け寄り、口々に嘆願した。
「……うるせえよ。今更怖気づいたのか?」
壁際に座した不是は、そう言ってこちらを睨む。
邪神どもの暴挙に対し、微塵も恐怖を感じていない鈍感さ。
それは普段なら頼もしかったが、今は厄介でしかないのである。
「い、いや、あんたが強いのは分かってるよ。けどあいつらケタが違うじゃん」
「ですよ不是さん、相手は邪神なんだから……」
だが次の瞬間、不是の怒声が一同の耳を叩いた。
「うるせえっつってんだろうがっ!!!!!」
まるで巨獣の咆哮であり、マキナも部下達も後ずさった。
やがて不是は静かに言う。
「外見ろや、今更どこに逃げるってんだ。バケモンどもが這いずり回って、何でもかんでも喰い殺すんだぜ?」
「そ、それは……そうだけどさ……」
戸惑うマキナ達に、不是はなおも言い放つ。
「ここが一番安全なんだよ。ここにいれば、必ずあいつも来るだろうしな……!」
不是の顔は嗜虐の喜びに歪んでいた。
その表情は人間離れしていて、マキナは背筋が寒くなるのを感じた。
以前目にした、爪繰とかいう魔族が見せた笑みとそっくりだったからだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる