新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
69 / 160
第六章その9 ~なかなか言えない!~ 思いよ届けの聖夜編

極北のキッス! 吹きすさぶ嵐のごとく

しおりを挟む
 女神と鶴が格納庫を去った後、女性陣はアイコンタクトを交わした。

(い、いきなり気を遣ってもらったけど……どうするこのみ?)

(いや、さすがに長居は出来んやろ。手短にせんと)

(そうよね難波ちゃん、鶴ちゃんと鳴瀬くんを優先しなきゃ)

 そんな以心伝心の末、難波達は覚悟を決めた。

 振り返ると、誠少年は手持ち無沙汰を極めすぎて、既に作業を開始していた。

 椅子に座って後ろ姿を見せた彼は、モニターを眺めながら情報をチェックしていたのだ。

 そして鶉谷司令が歩き出した。

 まだ人型重機の技術すら固まっていなかった頃から、命がけで戦い続けた偉大なレジェンドの彼女だったが、恋愛の方はからきしなのだろう。

 緊張のため、同じ方の手足が同時に出ていた。

 彼女の後ろには、付き添いを装った天草司令がついて行ったが、顔はトマトのように赤く、彼への好意が見え見えだった。

 こちらも恋愛下手の小学生のようだが、それも当然。

 幼い難波達を守るため、若い時間のほとんどを戦いに捧げた彼女達が無器用だろうと、一体誰が笑うものか。

「な、鳴瀬……くん?」

 少年の隣に立つと、鶉谷司令は後ろ手を組んだ。

 何度も呼吸を整え、勇気を出して少年を見つめる。

「……………………………………」

 しばらくの間、2人は何も言わなかった。

 この10年に及ぶ長い時間を、共に駆け抜けて築いた絆を、互いの表情で確認していたのだろう。

 やがて鶉谷司令は、困ったように微笑んだ。

「……戻ってきたら、鶴ちゃんを労わってあげてね」

 大人として精一杯の強がりを演じながら、それでも少しだけ本音を漏らす。

「……ほんとは、ちょっと……かなり期待したのよ?」

「…………ごめんなさい」

 誠少年は言い訳をせず、ただ頭を下げた。

 それしか言えないし、それ以上は何を言っても無意味だからだ。

 鶉谷司令は彼を気遣い、無理に明るい声で拳を握る。

「よしっ! それじゃ、明日は頑張りましょう!」

「はいっ……!」

 少年は力強く答える。

 天草司令は黙って2人を見守っていた。

 本当は何か言いたいのだろう。何度も口を開きかけているが、友人の鶉谷司令に遠慮して口を閉じる。

 ……結局何も言えないまま、天草司令は俯いた。

 やがて同じ方の手足を出しながら歩く鶉谷司令と、赤い顔の天草司令が戻ってきた。

「……よしっ」

 鶉谷司令は、自らを納得させるように呟いたが、少し目元が光っていた。

 次に進み出たのはカノンと難波である。

 背を向けた少年に歩み寄り、カノンはそっと声をかける。

「…………体、今は悪くない?」

「うん。カノンのおかげで」

「だったら嬉しいんだけど」

 カノンは微笑んだ。

 少年はそんなカノンを見つめながら、感謝の言葉を口にした。

「……長い間、待っててくれてありがとな。500年とか、ちょっと想像つかないけど」

「………………………………………………………………………………………………………………ぜんぜん平気。あっと言う間だったから」

 カノンは目に涙を浮かべながら、それでも気丈に首を振った。

 それからじっと彼を見つめ、震える声を絞り出す。

「頑張って……! 怪我したら、あたしが手術してあげるから……!」

「…………」

 それきり何も言えなくなる2人に、難波は見かねて口を挟んだ。

「ほな、手術したらうちが笑わせたるで♪」

「……縫ったとこ裂けるじゃんかよ」

 誠は苦笑したが、その顔に感謝の念が込められている事を、難波は敏感に感じ取った。

 しばしカノンの背を撫でる難波だったが、そこでいつの間にか近寄っていた鳳が言う。

「魔法傷なら、私がどれだけかかっても解毒しますから」

「ありがとう、鳳さん」

 誠は素直に言うが、鳳はそこでしゃがみ込み、片膝をついた。

「……黒鷹様。優しいお心遣い、感謝しております。作戦でも終始、姉の事に触れられませんでしたね」

「そ、それは……」

 誠は気まずそうに視線を泳がせたが、鳳は続ける。

「私は、船の人々を邪霊の襲撃から守らねばなりません。最後の戦いで、黒鷹様のおそばにいられないのです。ですからどうぞ、なにとぞ姉を……!」

「…………分かりました」

 誠は力強く頷く。

 難波達はきびすを返し、格納庫を去ろうとするのだったが…………そこでカノンが暴走した。彼の元へと駆け戻ると、無理やり唇を重ねたのだ。

「えええええっ!?」

 難波達は驚いたが、カノンは夢中でキスを続けた。

 誠は座ったまま固まっていたが、その動揺ぶりは見て取れる。

 やがてカノンが唇を離すと、今度は鶉谷司令が突進した。

 そのまま鶉谷スペシャルを駆使して回りこみ、負けじとキッスをお見舞いしたのだ。

「えええええっ!?」

 難波も鳳も驚いたが、そこで天草司令がダッシュしていた。

 鶉谷司令のキス終わりに低空ジャンプで滑り込むと、超速攻の着地&キッスを決めたのだ。

「えーっ!? えええええっ!? ひ、瞳っ、あなた???」

 驚愕きょうがくする鶉谷司令をよそに、天草司令は唇を離す。

 真っ赤な顔で彼を見つめ、何か言いたげな天草司令だったが、そこで鳳が割り込んでいた。

 普段冷静で自制心に満ちた鳳だったが、今は首まで赤くなりながら、夢中で彼に抱きついている。

 目を閉じ、少年の首に手を回して、何度も何度も唇を合わせて。

 じょ、情熱的……と呟く誰かの声をよそに、鳳はようやく彼を解放する。

 それに触発されたのか、2周目に行こうとするカノンだったが、そこで入り口から物音が聞こえた。

「!!!???」

 一瞬、鶴が戻ってきたかと思った一同だったが、そこには小さな白い生き物がいた。

「ごめんね、ちょっと早かったかな」

 コマがすまなさそうに言うので、一同は顔を見合わせて苦笑した。

「……そ、それじゃ、おやすみなさい」

 カノンは振り返らずに言うと、そのまま外へ歩き出す。

 歩きながらコマを抱え、格納庫の外へ……夜の闇へと消えて行ったのだ。

 鶉谷司令と天草司令も同様である。

 難波は肩をすくめ、固まったままの少年を見つめた。

(ほんま、最後まで面白いやっちゃな)

 難波はそこで周囲を見回した。

 格納庫には他に誰もいない。

 恐る恐る、少年に1歩近づいた。

(…………せや、最後やもん。別にバチは当たらへんやろ)

 そっとそっと……後ろ手を組んだまま、カニ歩きのように歩み寄る。

 何だか胸がドキドキしてきた。

 普段ふざけてばかりだから、こういう時はからきしなのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...