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第六章その9 ~なかなか言えない!~ 思いよ届けの聖夜編
極北のキッス! 吹きすさぶ嵐のごとく
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女神と鶴が格納庫を去った後、女性陣はアイコンタクトを交わした。
(い、いきなり気を遣ってもらったけど……どうするこのみ?)
(いや、さすがに長居は出来んやろ。手短にせんと)
(そうよね難波ちゃん、鶴ちゃんと鳴瀬くんを優先しなきゃ)
そんな以心伝心の末、難波達は覚悟を決めた。
振り返ると、誠少年は手持ち無沙汰を極めすぎて、既に作業を開始していた。
椅子に座って後ろ姿を見せた彼は、モニターを眺めながら情報をチェックしていたのだ。
そして鶉谷司令が歩き出した。
まだ人型重機の技術すら固まっていなかった頃から、命がけで戦い続けた偉大なレジェンドの彼女だったが、恋愛の方はからきしなのだろう。
緊張のため、同じ方の手足が同時に出ていた。
彼女の後ろには、付き添いを装った天草司令がついて行ったが、顔はトマトのように赤く、彼への好意が見え見えだった。
こちらも恋愛下手の小学生のようだが、それも当然。
幼い難波達を守るため、若い時間のほとんどを戦いに捧げた彼女達が無器用だろうと、一体誰が笑うものか。
「な、鳴瀬……くん?」
少年の隣に立つと、鶉谷司令は後ろ手を組んだ。
何度も呼吸を整え、勇気を出して少年を見つめる。
「……………………………………」
しばらくの間、2人は何も言わなかった。
この10年に及ぶ長い時間を、共に駆け抜けて築いた絆を、互いの表情で確認していたのだろう。
やがて鶉谷司令は、困ったように微笑んだ。
「……戻ってきたら、鶴ちゃんを労わってあげてね」
大人として精一杯の強がりを演じながら、それでも少しだけ本音を漏らす。
「……ほんとは、ちょっと……かなり期待したのよ?」
「…………ごめんなさい」
誠少年は言い訳をせず、ただ頭を下げた。
それしか言えないし、それ以上は何を言っても無意味だからだ。
鶉谷司令は彼を気遣い、無理に明るい声で拳を握る。
「よしっ! それじゃ、明日は頑張りましょう!」
「はいっ……!」
少年は力強く答える。
天草司令は黙って2人を見守っていた。
本当は何か言いたいのだろう。何度も口を開きかけているが、友人の鶉谷司令に遠慮して口を閉じる。
……結局何も言えないまま、天草司令は俯いた。
やがて同じ方の手足を出しながら歩く鶉谷司令と、赤い顔の天草司令が戻ってきた。
「……よしっ」
鶉谷司令は、自らを納得させるように呟いたが、少し目元が光っていた。
次に進み出たのはカノンと難波である。
背を向けた少年に歩み寄り、カノンはそっと声をかける。
「…………体、今は悪くない?」
「うん。カノンのおかげで」
「だったら嬉しいんだけど」
カノンは微笑んだ。
少年はそんなカノンを見つめながら、感謝の言葉を口にした。
「……長い間、待っててくれてありがとな。500年とか、ちょっと想像つかないけど」
「………………………………………………………………………………………………………………ぜんぜん平気。あっと言う間だったから」
カノンは目に涙を浮かべながら、それでも気丈に首を振った。
それからじっと彼を見つめ、震える声を絞り出す。
「頑張って……! 怪我したら、あたしが手術してあげるから……!」
「…………」
それきり何も言えなくなる2人に、難波は見かねて口を挟んだ。
「ほな、手術したらうちが笑わせたるで♪」
「……縫ったとこ裂けるじゃんかよ」
誠は苦笑したが、その顔に感謝の念が込められている事を、難波は敏感に感じ取った。
しばしカノンの背を撫でる難波だったが、そこでいつの間にか近寄っていた鳳が言う。
「魔法傷なら、私がどれだけかかっても解毒しますから」
「ありがとう、鳳さん」
誠は素直に言うが、鳳はそこでしゃがみ込み、片膝をついた。
「……黒鷹様。優しいお心遣い、感謝しております。作戦でも終始、姉の事に触れられませんでしたね」
「そ、それは……」
誠は気まずそうに視線を泳がせたが、鳳は続ける。
「私は、船の人々を邪霊の襲撃から守らねばなりません。最後の戦いで、黒鷹様のおそばにいられないのです。ですからどうぞ、なにとぞ姉を……!」
「…………分かりました」
誠は力強く頷く。
難波達は踵を返し、格納庫を去ろうとするのだったが…………そこでカノンが暴走した。彼の元へと駆け戻ると、無理やり唇を重ねたのだ。
「えええええっ!?」
難波達は驚いたが、カノンは夢中でキスを続けた。
誠は座ったまま固まっていたが、その動揺ぶりは見て取れる。
やがてカノンが唇を離すと、今度は鶉谷司令が突進した。
そのまま鶉谷スペシャルを駆使して回りこみ、負けじとキッスをお見舞いしたのだ。
「えええええっ!?」
難波も鳳も驚いたが、そこで天草司令がダッシュしていた。
鶉谷司令のキス終わりに低空ジャンプで滑り込むと、超速攻の着地&キッスを決めたのだ。
「えーっ!? えええええっ!? ひ、瞳っ、あなた???」
驚愕する鶉谷司令をよそに、天草司令は唇を離す。
真っ赤な顔で彼を見つめ、何か言いたげな天草司令だったが、そこで鳳が割り込んでいた。
普段冷静で自制心に満ちた鳳だったが、今は首まで赤くなりながら、夢中で彼に抱きついている。
目を閉じ、少年の首に手を回して、何度も何度も唇を合わせて。
じょ、情熱的……と呟く誰かの声をよそに、鳳はようやく彼を解放する。
それに触発されたのか、2周目に行こうとするカノンだったが、そこで入り口から物音が聞こえた。
「!!!???」
一瞬、鶴が戻ってきたかと思った一同だったが、そこには小さな白い生き物がいた。
「ごめんね、ちょっと早かったかな」
コマがすまなさそうに言うので、一同は顔を見合わせて苦笑した。
「……そ、それじゃ、おやすみなさい」
カノンは振り返らずに言うと、そのまま外へ歩き出す。
歩きながらコマを抱え、格納庫の外へ……夜の闇へと消えて行ったのだ。
鶉谷司令と天草司令も同様である。
難波は肩をすくめ、固まったままの少年を見つめた。
(ほんま、最後まで面白いやっちゃな)
難波はそこで周囲を見回した。
格納庫には他に誰もいない。
恐る恐る、少年に1歩近づいた。
(…………せや、最後やもん。別にバチは当たらへんやろ)
そっとそっと……後ろ手を組んだまま、カニ歩きのように歩み寄る。
何だか胸がドキドキしてきた。
普段ふざけてばかりだから、こういう時はからきしなのだ。
(い、いきなり気を遣ってもらったけど……どうするこのみ?)
(いや、さすがに長居は出来んやろ。手短にせんと)
(そうよね難波ちゃん、鶴ちゃんと鳴瀬くんを優先しなきゃ)
そんな以心伝心の末、難波達は覚悟を決めた。
振り返ると、誠少年は手持ち無沙汰を極めすぎて、既に作業を開始していた。
椅子に座って後ろ姿を見せた彼は、モニターを眺めながら情報をチェックしていたのだ。
そして鶉谷司令が歩き出した。
まだ人型重機の技術すら固まっていなかった頃から、命がけで戦い続けた偉大なレジェンドの彼女だったが、恋愛の方はからきしなのだろう。
緊張のため、同じ方の手足が同時に出ていた。
彼女の後ろには、付き添いを装った天草司令がついて行ったが、顔はトマトのように赤く、彼への好意が見え見えだった。
こちらも恋愛下手の小学生のようだが、それも当然。
幼い難波達を守るため、若い時間のほとんどを戦いに捧げた彼女達が無器用だろうと、一体誰が笑うものか。
「な、鳴瀬……くん?」
少年の隣に立つと、鶉谷司令は後ろ手を組んだ。
何度も呼吸を整え、勇気を出して少年を見つめる。
「……………………………………」
しばらくの間、2人は何も言わなかった。
この10年に及ぶ長い時間を、共に駆け抜けて築いた絆を、互いの表情で確認していたのだろう。
やがて鶉谷司令は、困ったように微笑んだ。
「……戻ってきたら、鶴ちゃんを労わってあげてね」
大人として精一杯の強がりを演じながら、それでも少しだけ本音を漏らす。
「……ほんとは、ちょっと……かなり期待したのよ?」
「…………ごめんなさい」
誠少年は言い訳をせず、ただ頭を下げた。
それしか言えないし、それ以上は何を言っても無意味だからだ。
鶉谷司令は彼を気遣い、無理に明るい声で拳を握る。
「よしっ! それじゃ、明日は頑張りましょう!」
「はいっ……!」
少年は力強く答える。
天草司令は黙って2人を見守っていた。
本当は何か言いたいのだろう。何度も口を開きかけているが、友人の鶉谷司令に遠慮して口を閉じる。
……結局何も言えないまま、天草司令は俯いた。
やがて同じ方の手足を出しながら歩く鶉谷司令と、赤い顔の天草司令が戻ってきた。
「……よしっ」
鶉谷司令は、自らを納得させるように呟いたが、少し目元が光っていた。
次に進み出たのはカノンと難波である。
背を向けた少年に歩み寄り、カノンはそっと声をかける。
「…………体、今は悪くない?」
「うん。カノンのおかげで」
「だったら嬉しいんだけど」
カノンは微笑んだ。
少年はそんなカノンを見つめながら、感謝の言葉を口にした。
「……長い間、待っててくれてありがとな。500年とか、ちょっと想像つかないけど」
「………………………………………………………………………………………………………………ぜんぜん平気。あっと言う間だったから」
カノンは目に涙を浮かべながら、それでも気丈に首を振った。
それからじっと彼を見つめ、震える声を絞り出す。
「頑張って……! 怪我したら、あたしが手術してあげるから……!」
「…………」
それきり何も言えなくなる2人に、難波は見かねて口を挟んだ。
「ほな、手術したらうちが笑わせたるで♪」
「……縫ったとこ裂けるじゃんかよ」
誠は苦笑したが、その顔に感謝の念が込められている事を、難波は敏感に感じ取った。
しばしカノンの背を撫でる難波だったが、そこでいつの間にか近寄っていた鳳が言う。
「魔法傷なら、私がどれだけかかっても解毒しますから」
「ありがとう、鳳さん」
誠は素直に言うが、鳳はそこでしゃがみ込み、片膝をついた。
「……黒鷹様。優しいお心遣い、感謝しております。作戦でも終始、姉の事に触れられませんでしたね」
「そ、それは……」
誠は気まずそうに視線を泳がせたが、鳳は続ける。
「私は、船の人々を邪霊の襲撃から守らねばなりません。最後の戦いで、黒鷹様のおそばにいられないのです。ですからどうぞ、なにとぞ姉を……!」
「…………分かりました」
誠は力強く頷く。
難波達は踵を返し、格納庫を去ろうとするのだったが…………そこでカノンが暴走した。彼の元へと駆け戻ると、無理やり唇を重ねたのだ。
「えええええっ!?」
難波達は驚いたが、カノンは夢中でキスを続けた。
誠は座ったまま固まっていたが、その動揺ぶりは見て取れる。
やがてカノンが唇を離すと、今度は鶉谷司令が突進した。
そのまま鶉谷スペシャルを駆使して回りこみ、負けじとキッスをお見舞いしたのだ。
「えええええっ!?」
難波も鳳も驚いたが、そこで天草司令がダッシュしていた。
鶉谷司令のキス終わりに低空ジャンプで滑り込むと、超速攻の着地&キッスを決めたのだ。
「えーっ!? えええええっ!? ひ、瞳っ、あなた???」
驚愕する鶉谷司令をよそに、天草司令は唇を離す。
真っ赤な顔で彼を見つめ、何か言いたげな天草司令だったが、そこで鳳が割り込んでいた。
普段冷静で自制心に満ちた鳳だったが、今は首まで赤くなりながら、夢中で彼に抱きついている。
目を閉じ、少年の首に手を回して、何度も何度も唇を合わせて。
じょ、情熱的……と呟く誰かの声をよそに、鳳はようやく彼を解放する。
それに触発されたのか、2周目に行こうとするカノンだったが、そこで入り口から物音が聞こえた。
「!!!???」
一瞬、鶴が戻ってきたかと思った一同だったが、そこには小さな白い生き物がいた。
「ごめんね、ちょっと早かったかな」
コマがすまなさそうに言うので、一同は顔を見合わせて苦笑した。
「……そ、それじゃ、おやすみなさい」
カノンは振り返らずに言うと、そのまま外へ歩き出す。
歩きながらコマを抱え、格納庫の外へ……夜の闇へと消えて行ったのだ。
鶉谷司令と天草司令も同様である。
難波は肩をすくめ、固まったままの少年を見つめた。
(ほんま、最後まで面白いやっちゃな)
難波はそこで周囲を見回した。
格納庫には他に誰もいない。
恐る恐る、少年に1歩近づいた。
(…………せや、最後やもん。別にバチは当たらへんやろ)
そっとそっと……後ろ手を組んだまま、カニ歩きのように歩み寄る。
何だか胸がドキドキしてきた。
普段ふざけてばかりだから、こういう時はからきしなのだ。
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