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第六章その9 ~なかなか言えない!~ 思いよ届けの聖夜編
ウチは多分生き残れんけど…
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どんな楽しい祭りにも、必ず終わりがあるように、楽しかった集まりも、そろそろお開きを迎えていた。
時刻は深夜12時が近づき、作戦開始は明朝6時。
特に誰も何も言わなかったが、集まった人々はめいめい時計を確認し、以心伝心で立ち上がったり、皿を片付けたりし始めた。
難波は賑やかな集まりが好きだったが、この少し切ないお片づけ雰囲気も嫌いではない。
地元大阪のお祭りで、まだ騒ぎたいと駄々をこねる自分に『また来年ね』と言ってくれた両親の……あの温かい笑顔を思い出すからだ。
(……また来年か。そもそも明日、生きてられるんかな?)
難波は手近の皿を重ねながら、内心苦笑してしまった。
相手は恐ろしい力を持つ邪神軍団。
極めて現実的に考えるなら、この場のほとんどの人が死ぬ……それが当然の事実であり、避けがたい運命なのだろう。
(多分、うちは生き残れんやろな。でもあの時死ぬより、ずっとよかったわ)
難波は遠い過去を振り返った。
この混乱が始まった10年前、家族も親類も失って、ただ瓦礫の中で泣いていた。
見知らぬ人しかいない避難所は、梅田の街中で迷子になった時のような不安が、永遠に続くかのような恐ろしさだった。
人型重機の適性があると知り、前線に配属された時も、どうせすぐ喰い殺されると思っていた。世を呪い、毎日震えて眠っていたのだ。
それがまさか、ここまで生き延びる事が出来て……そしてこんな素敵な仲間に恵まれるだなんて。あの頃は思いもしなかったのだ。
仲間達との楽しい思い出を巡らせ、難波は1人納得した。
(そや、たぶんウチは幸せやったんや。せやから明日、思い切り頑張るねん。そしたら生き残った誰かが、ウチの分まで幸せになれるわ……!)
難波はそこまで考えて、いつものように軽口を叩く。
「さー、さっさと片付けて寝るで~。明日は一世一代の見せ場やし、うんと活躍して稼いだるわ♪」
「あんた、ほんと変わらないわよね。相手は邪神よ?」
頭に角の生えた友人・カノンは、皿洗いをしながら微笑んだ。
「変わるわけないやろ? 死ぬつもり無いんやから」
難波はそう言って周囲を見渡す。
集まっていた面子の中から、宮島と香川は消えている。集いが終わりに近づいた頃、すまなさそうに『ちょっとだけ』と抜け出したのだ。
「宮島と香川は、彼女んとこ行ったんかな」
「……しょうがないわよね。最後かも知れないんだもの」
カノンは彼らの立場を理解して呟いたが、その目線は無意識に隊長の方に向けられていた。
(カノっち、よっぽど鳴っちが好きなんやな。当たり前か……500年も待っとったんやもん)
すぐに視線を伏せたいじらしいカノンに、難波は抱きしめて頭を撫でたくなるが、当の誠少年はと言えば、片づけを手伝おうとして断られ、手持ち無沙汰にうろうろしている。
「な、なんかみんなにやってもらって悪いんだけど……」
誠が言うと、流し台に陣取っていた鶉谷司令が振り返る。
「何言ってるの鳴瀬くん。明日はあなたが頼りなんだし、私達にやらせて」
司令は長い金髪をなびかせ、無理に明るい顔でガッツポーズした。
「それにほら、お皿割らなくなってるでしょ? 北海道に来てから、ますます元気になってるんだから」
「確かにそうですね」
誠は人差し指で頬をかきつつ、嬉しそうに微笑んだ。その顔は安心感に満ちている。
幼い頃に命を救われて以来、彼と司令の間には並々ならぬ信頼関係があるのだ。
一言で言えば相思相愛、ラブのラブラブ。
長い間、誰も割り込めない空気を醸し出していた2人だったが、そこに風穴を開けたのが、あの鎧姿のお姫様なのだ。
「困ったわねコマ。私もお片づけをして、溢れる女子力をアピールしたいんだけど」
「いいから休みなよ。明日は君も大変なんだからさ」
肩に乗る狛犬のコマは、この期に及んで的確なツッコミを入れている。
この2人?が来てくれなければ、自分達は生き残る事が出来なかったし、それはこの場に集う全員の共通認識だった。
そう、全てはこのお姫様が優先……!
彼女は戦いが終われば命を失う。
日本を化け物から取り戻しても、彼女はこの世を去らねばならない。悲しき聖者の定めを背負い、それでも鶴はやって来たのだ。
彼女が誠少年を好きでいる以上、割り込む事は許されないのだ。
誰もがその事を分かっていたし、だからこそ『最後の夜』には、彼女と隊長を2人きりにするべきなのだ。
………………ただし、である。
理屈でそう分かっていても、なかなか割り切れないのが乙女心。
彼に好意を寄せる女性陣は、片付けで最後の女子力アピールをしながら、未練がましく(笑)居残り続けている。
既に殆どのメンバーが立ち去り、この場にいるのは誠、カノン、難波、鳳、鶴とコマ……そして鶉谷司令と天草司令だけである。
それぞれ何か言いたげにチラチラ少年を見ながら、再び赤い顔でうつむく。
そんな恋愛地獄絵図のようなもどかしさが、永遠に続きそうな感じであったが、そこで事態は一変した。
格納庫の入り口に光が輝き、女神・佐久夜姫が手招きしていたのだ。
「鶴ちゃんごめんね、ちょっといい? 奥の手の打ち合わせよ」
佐久夜姫はそう言って、鶴以外の『ヒロインズ』にウインクしてくれた。
時刻は深夜12時が近づき、作戦開始は明朝6時。
特に誰も何も言わなかったが、集まった人々はめいめい時計を確認し、以心伝心で立ち上がったり、皿を片付けたりし始めた。
難波は賑やかな集まりが好きだったが、この少し切ないお片づけ雰囲気も嫌いではない。
地元大阪のお祭りで、まだ騒ぎたいと駄々をこねる自分に『また来年ね』と言ってくれた両親の……あの温かい笑顔を思い出すからだ。
(……また来年か。そもそも明日、生きてられるんかな?)
難波は手近の皿を重ねながら、内心苦笑してしまった。
相手は恐ろしい力を持つ邪神軍団。
極めて現実的に考えるなら、この場のほとんどの人が死ぬ……それが当然の事実であり、避けがたい運命なのだろう。
(多分、うちは生き残れんやろな。でもあの時死ぬより、ずっとよかったわ)
難波は遠い過去を振り返った。
この混乱が始まった10年前、家族も親類も失って、ただ瓦礫の中で泣いていた。
見知らぬ人しかいない避難所は、梅田の街中で迷子になった時のような不安が、永遠に続くかのような恐ろしさだった。
人型重機の適性があると知り、前線に配属された時も、どうせすぐ喰い殺されると思っていた。世を呪い、毎日震えて眠っていたのだ。
それがまさか、ここまで生き延びる事が出来て……そしてこんな素敵な仲間に恵まれるだなんて。あの頃は思いもしなかったのだ。
仲間達との楽しい思い出を巡らせ、難波は1人納得した。
(そや、たぶんウチは幸せやったんや。せやから明日、思い切り頑張るねん。そしたら生き残った誰かが、ウチの分まで幸せになれるわ……!)
難波はそこまで考えて、いつものように軽口を叩く。
「さー、さっさと片付けて寝るで~。明日は一世一代の見せ場やし、うんと活躍して稼いだるわ♪」
「あんた、ほんと変わらないわよね。相手は邪神よ?」
頭に角の生えた友人・カノンは、皿洗いをしながら微笑んだ。
「変わるわけないやろ? 死ぬつもり無いんやから」
難波はそう言って周囲を見渡す。
集まっていた面子の中から、宮島と香川は消えている。集いが終わりに近づいた頃、すまなさそうに『ちょっとだけ』と抜け出したのだ。
「宮島と香川は、彼女んとこ行ったんかな」
「……しょうがないわよね。最後かも知れないんだもの」
カノンは彼らの立場を理解して呟いたが、その目線は無意識に隊長の方に向けられていた。
(カノっち、よっぽど鳴っちが好きなんやな。当たり前か……500年も待っとったんやもん)
すぐに視線を伏せたいじらしいカノンに、難波は抱きしめて頭を撫でたくなるが、当の誠少年はと言えば、片づけを手伝おうとして断られ、手持ち無沙汰にうろうろしている。
「な、なんかみんなにやってもらって悪いんだけど……」
誠が言うと、流し台に陣取っていた鶉谷司令が振り返る。
「何言ってるの鳴瀬くん。明日はあなたが頼りなんだし、私達にやらせて」
司令は長い金髪をなびかせ、無理に明るい顔でガッツポーズした。
「それにほら、お皿割らなくなってるでしょ? 北海道に来てから、ますます元気になってるんだから」
「確かにそうですね」
誠は人差し指で頬をかきつつ、嬉しそうに微笑んだ。その顔は安心感に満ちている。
幼い頃に命を救われて以来、彼と司令の間には並々ならぬ信頼関係があるのだ。
一言で言えば相思相愛、ラブのラブラブ。
長い間、誰も割り込めない空気を醸し出していた2人だったが、そこに風穴を開けたのが、あの鎧姿のお姫様なのだ。
「困ったわねコマ。私もお片づけをして、溢れる女子力をアピールしたいんだけど」
「いいから休みなよ。明日は君も大変なんだからさ」
肩に乗る狛犬のコマは、この期に及んで的確なツッコミを入れている。
この2人?が来てくれなければ、自分達は生き残る事が出来なかったし、それはこの場に集う全員の共通認識だった。
そう、全てはこのお姫様が優先……!
彼女は戦いが終われば命を失う。
日本を化け物から取り戻しても、彼女はこの世を去らねばならない。悲しき聖者の定めを背負い、それでも鶴はやって来たのだ。
彼女が誠少年を好きでいる以上、割り込む事は許されないのだ。
誰もがその事を分かっていたし、だからこそ『最後の夜』には、彼女と隊長を2人きりにするべきなのだ。
………………ただし、である。
理屈でそう分かっていても、なかなか割り切れないのが乙女心。
彼に好意を寄せる女性陣は、片付けで最後の女子力アピールをしながら、未練がましく(笑)居残り続けている。
既に殆どのメンバーが立ち去り、この場にいるのは誠、カノン、難波、鳳、鶴とコマ……そして鶉谷司令と天草司令だけである。
それぞれ何か言いたげにチラチラ少年を見ながら、再び赤い顔でうつむく。
そんな恋愛地獄絵図のようなもどかしさが、永遠に続きそうな感じであったが、そこで事態は一変した。
格納庫の入り口に光が輝き、女神・佐久夜姫が手招きしていたのだ。
「鶴ちゃんごめんね、ちょっといい? 奥の手の打ち合わせよ」
佐久夜姫はそう言って、鶴以外の『ヒロインズ』にウインクしてくれた。
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