新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
72 / 160
第六章その9 ~なかなか言えない!~ 思いよ届けの聖夜編

レジェンド隊・最後の夜2

しおりを挟む
「にしてもみんな、かなり体が良くなったよね。ちひろや輪太郎と合流した時、向こうからメチャ走ってくるから。別の人かと思ったし」

 嵐山が言うと、ちひろが嬉しそうにくるくるターンした。

「そうそれっ、もう体が軽くて軽くて。ディアヌスが完全体になって、気の質が変わった影響せいだって女神様が言ってたけど」

 ちひろは左手甲の細胞片……通称『逆鱗』を眺めながら言った。

 人型重機の操作に必要なもので、祭神の細胞を移植したものだが、祭神はディアヌスから生まれたので、元はと言えばディアヌスの細胞とも言えるのだ。

「ディアヌスのパワーを受けて、あたし達も回復してるみたい。あんまり調子がいいから、あの頃に戻ったみたいに感じちゃうわん」

「それは何よりですが」

 嬉しそうに言うちひろに、輪太郎がメガネを光らせながら頷いた。

「……まあ一番驚いたのはそのディアヌスです。まさかあの魔王と共闘だなんて、誰も予想しませんでしたし」

「いや俺も驚いたよ、世の中分からないもんだ」

 隊のリーダーだった船渡は、そう言って頷いた。

「きっと明日馬のヤツも、今頃びっくりしてるよな……」

 船渡の言葉に、隊の皆はしばし沈黙した。

 かつて同じ隊に所属し、ディアヌスの攻撃で命を落とした伝説の人型重機パイロット・明日馬の事をしのんだのだ。

 中でも雪菜は一番複雑だった。

 かつて明日馬とは好き同士だったし、わずかな期間、おままごとのようなお付き合いさえしていた。

 だから本来なら、一番ディアヌスを憎まねばならない立場だろう。

 だが不思議な事に、雪菜は自分の中にほとんど怒りが無い事に気付いていた。

「……ごめんなさい。こんな事言っていいのか分からないけど……今のディアヌスを見てると、あんまり憎いって気持ちが湧いてこないの。それがちょっと明日馬くんに後ろめたい気もするし」

 再び黙り込む雪菜に、リーダーの船渡が口を開いた。

「……いや、そんなおかしくないだろ。あのお姫様曰く、ディアヌスって川の神様だったんだろ?」

 雪菜が頷くと、船渡は言葉を続ける。

「災害で川が荒れても、川が憎いって人はあんまいないだろ。それと同じだ」

 そこで嵐山が後を受けた。

「健児の言う通り、善悪どうこうじゃないのかもね。自然そのものっていうか……怖いところもあるけど、助けてくれる事もあるし。昔から、そうやって怖めな神様とも付き合ってきたのかな? ご先祖様は」

「犠牲になった人もいますし、仲良くするっていうのはあれですが。確かに一理ありますね……あっ、メガネを!?」

「うんうん、言う事はなんとなく分かるよ。ボクは頭が柔らかいからね」

 ヒカリは輪太郎から奪ったメガネをかけながら言うが、ちひろは横からそのメガネをひったくった。

「こらヒカリ、このメガネあたしのなんだ」

「いやいやちひろ、私のなんですが」

 たまらずツッコミを入れる輪太郎だったが、ヒカリは鼻息荒く立ち上がった。

「ようし、面白いじゃないかちひろ姉っ、こうなったらどっちのメガネか決着をつけよう! オールスターのメガネラグビーと洒落込もうじゃないか!」

 やめてください、と嘆願する輪太郎をよそに、つかさもそこで立ち上がった。

「オールスターか。確かに全部の船団が揃ってるんだもんなあ」

 つかさはギュッとバンダナを締め直して気合いを入れる。

「いよいよ最後の決戦だ。日本中、47士の討ち入りだぜ!」

「明日馬くんはいないけど、その分私達が頑張らないとね」

 天草の言葉に、雪菜は首を振った。

「違うわ瞳」

「違う??」

「だってそうじゃない。明日馬くんの機体に鳴瀬くんが乗って、そこにみんなが集まって。だから明日馬くんはここにいるのよ。もう一度、日本中が1つになって戦うために、ずっと頑張ってくれてたのよ」

 あの怪物どもに襲われて、この国は一度散り散りになった。

 それをもう一度1つに合わせる役目を担ったのが、明日馬だったのかもしれない。

 何1つ信じる希望の無かった時代、人々を守ってこの国を駆け抜けた伝説の人型重機・心神。

 そこに宿った明日馬の想いが、ここまで皆を引き寄せたのだ……少なくとも雪菜はそう信じていた。

 やがて船渡が口を開いた。

「明日馬はあんま言わなかったけど、東京って何でもあったんだよな。俺らの田舎と違ってさ」

「壊れてからしか見た事ないけど、きっと楽しかったんだろうねい」

 ちひろがうっとりしながら言うと、嵐山が付け加えた。

「不思議な場所だったと思うわ。ビルがじゃんじゃんそびえてて、グルメとか芸術とか、とにかく洗練されてるのに、古いものも残ってたし。最先端の物もあるけど、下町みたいにごちゃごちゃしてあったかい場所もあって……歴史も文化も残ってる。同じ都って言っても、京都と毛色が違うっていうかさ」

「京都は雅に全振りで、東京は何でもありのおもちゃ箱って感じでしょうか。あらゆる物をのっけ盛りにした、土佐の皿鉢さわち料理のような」

「そうよ輪太郎っ、いい事言うわ! 東京は日本の皿鉢よ!」

 地元高知の懐かしグルメに雪菜が食いつくと、隊のみんなは「さすが皿鉢マニア」と笑った。

 雪菜は顔を赤らめながら、取りつくろうように言う。

「そっそうだ、明日馬くんが言ってたんだけどね。復興したら、神田明神さんのお神輿、みんなで担ぎにいきましょうか。同じ法被はっぴを作って、神武勲章レジェンド隊がここにありって」

 そこでヒカリが身を乗り出した。

「それいいね雪菜、僕にいっちょう任せてごらんよ!」

「いや、お前はまず腰を労われって」

 つかさがツッコミを入れると、ヒカリはくねくねしながらポーズをとった。

「うわあ、スケベだなぁつかさは。いくら僕がセクシーだからって、腰をガン見しないで欲しいよ」

「その言い方はやめろっ」

 つかさの言葉に、皆は笑った。言ったつかさ本人も笑った。

 笑って笑って、あの頃に戻ったように沢山話して。

 やがて雪菜は、ずっと考えてきた事を告げる。

「…………本当に最後が来たら、ワガママやろうと思ってるの」

「やっぱり考える事はみんな同じか」

 船渡がニヤリと笑うと、嵐山も彼の肩に手を置いた。

「そうだよね。最後ぐらい好きにやっても、バチは当たんないものね」

「そうそう、むしろ当てるぐらいの気合いでいこうよ!」

 ヒカリは適当な相槌をうち、他のメンバーも口々に同意したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...