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第六章その10 ~決戦開始よ!~ 作戦名・日はまた昇る編
鬼の王子を引きつけろ
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一方その頃。本州の最北端、旧青森県の平野部に、邪神達は集結していた。
具現化が進み、受肉した肉体は100メートル程に達している。
それぞれ極彩色の武器や鎧を身につけていたが、中でも最も目立つのは、先頭に立つ六道王子である。
彫刻のごとき筋肉に覆われた、裸のままの上半身。
髪から伸びる2本の角と、裾を引き絞った動きやすい袴。腰には倒した相手の頭蓋骨を下げている。
彼は戦いを待ちきれぬように叫んだ。
「ああじれってえ! このまま蝦夷に渡れねえのかよ?」
咆える彼を見かね、他の邪神がたしなめる。
「あまり逸るな六道王子。これより先はまだ邪気が薄い。邪神が活動するには足りぬのだ」
「まあいい、早く来い……! 全員ブチ殺して喰らってやる……!」
六道王子は牙を剥き出し、舌なめずりをしてみせたのだが。
その時彼は、暗雲の下にかすかな明かりを見つけた。
「おおっ……!?」
彼はすぐさま身を乗り出す。
鬼神族特有の高い視力には、荒れる津軽海峡を飛行する無数の船が……つまりは航空戦艦が見えたのだ。
「来た来た来た来たっ、この俺の生贄どもが……!!!」
人の船はどんどん近づいている。
ここで待ち伏せされているとも知らず、あわれな贄として、肉と魂を邪神に捧げに来るのである。
だが人の船が海を渡り切った頃、その船上に女神の姿が現れた。
長い黒髪と、そこに挿した桜の花枝。
美しい、しかし強い意志を秘めた表情。
あの霊峰富士の女神であり、人間どもに味方する善神・木花佐久夜姫である。
「何だあ? 天孫の后じゃねえか。まさかお前1柱で、俺等の相手をするつもりか?」
馬鹿にしたように言う六道王子だったが、佐久夜姫は静かに答える。
「……そうね、鬼神族のおバカさん。あなたごとき、お姉ちゃんどころか私にも勝てないでしょう」
「このアマ、ふざけやがって!!」
瞬時に沸点に達した六道王子は、大地を蹴立てて佐久夜姫に迫った。
手にした金棒を振りかぶるも、佐久夜姫は笑みを浮かべた。
「……助かるわ。こうしてのこのこ出てきてくれて」
「なっ……!?」
佐久夜姫の言葉に、六道王子が混乱したその時。
女神の体が、眩い光に包まれた。
その光の根源は、彼女がはめた左腕の腕輪にあった。
恐ろしく高密度・かつ緻密に練りこまれた神の呪詛の塊であり、超高レベルの神器である。
「この気……天鳥船命か!?」
目を背け、後ずさる六道王子だったが、女神はもう答えなかった。
彼女の背後から迫る無数の航空戦艦……宙に飛ぶ勇壮な戦船が光に包まれると、それと呼応するように、大地が激しく鳴動している。
まるで光の洪水であり、六道王子も他の邪神達も、しばし視界を失った。
「畜生っ、一体何だってんだ……!?」
事態が掴めず、六道王子は怒り狂う。
…………そして女神達は姿を消したのだ。
山々の持つ膨大な霊気を使い、東北から旧長野県へと、一瞬のうちに空間を渡ったのである。
「…………っ」
六道王子は、そこで高嶺の言葉を思い出した。
自らをこの場所へと誘った邪神は、確かあの時こう言ったのだ。
『親父殿に言えば止められるだろう。誰にも言うな、特に夜祖には』
それはつまり、勘の鋭い夜祖に言えば、この策を見破られるからだったのだ。
「だっ、騙しやがったなぁあああっっっ!!!!」
六道王子は怒号を上げると、大地を蹴立てて駆け戻っていく。
木々を巻き上げ、山も岩盤もお構いなしに踏み砕いて。
「ふざけやがって、皆殺しにしてやるっっっ!!!!!」
怒り狂ったその姿は、あたかも地をかける雷のようだった。
全力を出せば、万全のディアヌスにも匹敵しうる鬼神族の猛者。
この恐るべき戦闘力を持つ邪神が戻るまでにケリをつけなければ、人間達の希望は潰えるのだ。
具現化が進み、受肉した肉体は100メートル程に達している。
それぞれ極彩色の武器や鎧を身につけていたが、中でも最も目立つのは、先頭に立つ六道王子である。
彫刻のごとき筋肉に覆われた、裸のままの上半身。
髪から伸びる2本の角と、裾を引き絞った動きやすい袴。腰には倒した相手の頭蓋骨を下げている。
彼は戦いを待ちきれぬように叫んだ。
「ああじれってえ! このまま蝦夷に渡れねえのかよ?」
咆える彼を見かね、他の邪神がたしなめる。
「あまり逸るな六道王子。これより先はまだ邪気が薄い。邪神が活動するには足りぬのだ」
「まあいい、早く来い……! 全員ブチ殺して喰らってやる……!」
六道王子は牙を剥き出し、舌なめずりをしてみせたのだが。
その時彼は、暗雲の下にかすかな明かりを見つけた。
「おおっ……!?」
彼はすぐさま身を乗り出す。
鬼神族特有の高い視力には、荒れる津軽海峡を飛行する無数の船が……つまりは航空戦艦が見えたのだ。
「来た来た来た来たっ、この俺の生贄どもが……!!!」
人の船はどんどん近づいている。
ここで待ち伏せされているとも知らず、あわれな贄として、肉と魂を邪神に捧げに来るのである。
だが人の船が海を渡り切った頃、その船上に女神の姿が現れた。
長い黒髪と、そこに挿した桜の花枝。
美しい、しかし強い意志を秘めた表情。
あの霊峰富士の女神であり、人間どもに味方する善神・木花佐久夜姫である。
「何だあ? 天孫の后じゃねえか。まさかお前1柱で、俺等の相手をするつもりか?」
馬鹿にしたように言う六道王子だったが、佐久夜姫は静かに答える。
「……そうね、鬼神族のおバカさん。あなたごとき、お姉ちゃんどころか私にも勝てないでしょう」
「このアマ、ふざけやがって!!」
瞬時に沸点に達した六道王子は、大地を蹴立てて佐久夜姫に迫った。
手にした金棒を振りかぶるも、佐久夜姫は笑みを浮かべた。
「……助かるわ。こうしてのこのこ出てきてくれて」
「なっ……!?」
佐久夜姫の言葉に、六道王子が混乱したその時。
女神の体が、眩い光に包まれた。
その光の根源は、彼女がはめた左腕の腕輪にあった。
恐ろしく高密度・かつ緻密に練りこまれた神の呪詛の塊であり、超高レベルの神器である。
「この気……天鳥船命か!?」
目を背け、後ずさる六道王子だったが、女神はもう答えなかった。
彼女の背後から迫る無数の航空戦艦……宙に飛ぶ勇壮な戦船が光に包まれると、それと呼応するように、大地が激しく鳴動している。
まるで光の洪水であり、六道王子も他の邪神達も、しばし視界を失った。
「畜生っ、一体何だってんだ……!?」
事態が掴めず、六道王子は怒り狂う。
…………そして女神達は姿を消したのだ。
山々の持つ膨大な霊気を使い、東北から旧長野県へと、一瞬のうちに空間を渡ったのである。
「…………っ」
六道王子は、そこで高嶺の言葉を思い出した。
自らをこの場所へと誘った邪神は、確かあの時こう言ったのだ。
『親父殿に言えば止められるだろう。誰にも言うな、特に夜祖には』
それはつまり、勘の鋭い夜祖に言えば、この策を見破られるからだったのだ。
「だっ、騙しやがったなぁあああっっっ!!!!」
六道王子は怒号を上げると、大地を蹴立てて駆け戻っていく。
木々を巻き上げ、山も岩盤もお構いなしに踏み砕いて。
「ふざけやがって、皆殺しにしてやるっっっ!!!!!」
怒り狂ったその姿は、あたかも地をかける雷のようだった。
全力を出せば、万全のディアヌスにも匹敵しうる鬼神族の猛者。
この恐るべき戦闘力を持つ邪神が戻るまでにケリをつけなければ、人間達の希望は潰えるのだ。
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