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第六章その10 ~決戦開始よ!~ 作戦名・日はまた昇る編

邪神のバリアを突破せよ

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 人の駆る戦船いくさぶねが現れた時、邪神・戸簾桐壷神とすきりつぼのかみはまるで意に介していなかった。

 自らが張った結界の力を、信じて疑わなかったのだ。

「……向こうから死にに来た。何故なにゆえ無駄な事を好むのか」

 手にした壷を軽く撫でると、光の結界は更に濃くなり、稲妻のような激しい力がその表面に駆け巡った。

 このとばりを越えられる者はこの世におらず、何者も恐れる事はない……はずだった。

「!!!???」

 次の瞬間、桐壺は急激に視界が歪むのを感じた。

 意識が遠退く。体の力が定まらず、真っ直ぐ座っていられない。

(体内の気が……乱れに乱れている。一体これは……!?)

 桐壺はそこで気付いた。

 人間どもが乗る戦船いくさぶね。その1隻から、強力な気が立ち昇るのが見えたからだ。

(あの霊気は、恐らく高天原が神人のもの。そして使っている術は……)

 そう、紛れも無くそれは、死した魂を呼び戻す術だった。

「反魂の術!? まさか、向こうでも我を呼び寄せるだと!?」

 桐壺はうろたえた。

 高天原の神人が、まさかこちらと同じ外法げほうの術を使うとは。

 柱の地下で行われている反魂の術で、自らの魂は少しずつ地上に転送されてきている。だが今はそれが2つに分かれているのだ。

 人間どもがこちらと同じ……いや、もっと強力な術によって、邪神たる自分の魂を呼び寄せているのである。

 こちらの使う反魂よりも、魂を呼びやすい呪具を使っているのかも知れなかった。

 桐壺は何とか意識を集中し、その呪具の正体を探った。

(一体何ぞ……!? これ程までに我が魂を引き寄せるものは)

 そして桐壺の脳裏に、それらの正体が映し出される。

 術の根源にある物は、かつて自らの社に収められていた祭具だった。

 鏡に銅剣、その他多数の儀式物………いずれも可愛い子孫達が、心を込めて作ったものである。

 太古の昔、自らを讃えて歌い踊る彼らの姿を思い出し、桐壺は動揺した。

 魂の呼び出しに応えず、拒否すればいい……そう理屈では分かっていた。

 でも出来なかった。

 今は亡き可愛い子孫達が残した祭具であり、どうしても拒絶する事が出来なかったのだ。

 命が……裂ける……!

 心が……割れる……!

 全身の邪気は乱れに乱れ、もはや結界を維持する事が出来ない。

「ぎぃいいいいっっっ!!!」

 桐壺は傘を投げ捨て、髪を掻き乱して絶叫したが、次の瞬間、光の太刀筋がこちらに殺到していた。

「ひ、肥河か!?」

 戻ってきたのか……それも人間達に味方して。

 そう思った瞬間、刀気とうきは岩壁を易々と砕き、桐壺を吹き飛ばしていたのだ。
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