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第六章その10 ~決戦開始よ!~ 作戦名・日はまた昇る編

夜祖の誤算

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 夜祖は周囲の異変を敏感に察知していた。

 山々の気が乱れた瞬間、いきなり転移してきた人間どもの航空戦艦。

 それだけなら大した脅威でないはずだったが……あろう事か、館の周囲の結界が破られてしまったのだ。

 守りに関しては、およそ天下無敵の戸簾桐壷神とすきりつぼのかみの結界が壊れる事などあり得るのか。

「まさか、桐壺がやられただと……!?」

 夜祖は一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。

(広間に戻って指揮するか? いや、あの馬鹿どもは、どうせ手柄を求めて争うだけ……ならば我と連吹つれぶきだけで独自に動く……!)

 だがそこまで考えた時、刀気の波動がこちらに迫っていた。

肥河ひのかわの闘気か! ヤツはこちらを狙っている……!)

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 初撃はなんとか外れたが、岩壁が大きく抉り取られた。

 館の岩肌全体には、かなり高度な呪詛を編みこんで強度を高めていたのだが、そんな事もお構い無しの威力である。

「肥河め、元の力を取り戻したのか……!」

 夜祖は歯噛みした。

 奴の力は邪神の中でも最強格。とてもこの分霊わけみで防げるものではない。ならば出てくる結論は1つだ。

(この状況でヤツと戦っても勝てん。さっさとこの場を離れ、次の手を打つ)

 夜祖は転移の術を使うべく、周囲に邪気を集中させる。

 だが次の瞬間、夜祖は信じられないものを目にした。

 ディアヌスが砕いた館……その剥き出しになった階段に、黒衣の青年の姿を見たのだ。

 黒い髪を肩ほどに伸ばした彼は、夜祖が可愛がっていた子孫の笹鐘だった。

 忠義にあつい彼の事だ。恐らくこの有事を知り、真っ先に駆けつけようとしたのだろう。

「笹鐘!!? なぜ逃げなかったのだ!!!」

 夜祖は自分でも珍しくうろたえたが、結論はそもそも決まっていた。

 自分は分霊わけみ、対して笹鐘の命は1つだけ。

 夜祖は咄嗟に自らを覆う気を消し、それを笹鐘の周囲に移した。

 そのまま術をコントロールし、子孫を別の場所へ転移させたのだ。

 ……次の瞬間、無防備に立ち尽くす夜祖の元に、ディアヌスの太刀筋が迫っていた。

「くそっ……忌々しい蛇神へびがみめ………!!!」

 呟きと共に、夜祖の分霊わけみは刀気によって掻き消されていた。
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