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第六章その14 ~私しかおらんのだ!~ 最強女神の覚醒編

私はちゃんと見ていたよ

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「だ、代行様………!」

 顕現けんげんした岩凪姫……いや、磐長姫いわながひめの勇姿を見つめ、鳳は呟いた。

 なんと凛々しく、またなんと力強いお姿だろう。

 彼女を覆う膨大な霊気は、いつにも増して凄まじく、居並ぶ邪神達にも決して劣るものではない。

 けれど多勢に無勢であり、この地は彼女に不利な邪気に溢れている。そして何より邪神の面子には、あの恐るべき夜祖がいるのだ。

「代行様っ、どうかご武運をっ……!!!」

 鳳の祈りをよそに、夜祖が素早く一手をうった。

 手にした扇子を軽く振るうと、空に無数の魔法陣が輝き、そこから邪龍が現れたのだ。その数、軽く500を越える。

(あれだけの数を一度に……しかも姉のものより強力な邪龍を……!)

 驚愕する鳳だったが、夜祖の狙いは別にあった。

 次の瞬間、空を見上げた磐長姫いわながひめの足元に、青紫の光の模様が走ったのだ。

 それは光の蜘蛛の巣であり、彼女の動きを封じる術だった。

 派手に邪龍を召喚し、女神の注意が上に向いた瞬間を狙ったのだ。

 邪龍達は雄叫びを上げ、女神に向かい降下する。鋭い牙をむき出し、口腔に炎を宿して。

 だがそこで、磐長姫いわながひめは目を閉じ、黒き太刀を脇構えに構えた。

(代行様、何を……!?)

 邪龍どもは凄まじい速度で迫るが、そこで女神は呟いた。

「…………刀技いつ式・流星斬ほしかがり……!!!」

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 爆発したような音と共に太刀が閃き、そこから発せられた闘気が、空を埋め尽くす邪龍を薙ぎ払ったのだ。

 かつてあれだけ女神をてこずらせた高位の邪龍は、その全てがちりとなって消え失せたし、足元の蜘蛛の巣のような術は、散々に千切れて薄れていった。

「馬鹿力め……縛る事も出来ぬのかっ……!」

 夜祖は忌々しげに呟くが、鳳は激しい感動を覚えていた。

 あまりに凄まじい威力で、天と地ほどの違いもあるが、それは鳳が得意とする技だったからだ。

「代行……さま……!」

 抑えようとしても、涙がとめどなく流れてくる。

「私の……いえ、私達の技で………!」

 鳳は理解していた。これは自分だけでなく、全神連の皆に向けたメッセージである。

『私はちゃんと見ていたよ……!』

 そんな女神の思いが、確かに胸に伝わってきたのだ。
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