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第六章その14 ~私しかおらんのだ!~ 最強女神の覚醒編

あり余る才能の開花

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 数百を越える邪龍を一瞬で消滅させ、磐長姫いわながひめは前に駆けた。

 一足ごとに大地が爆ぜて、一振りごとに大気がおののく。

 夜祖は次々新手の魔物を召喚したし、無明権現も配下を繰り出していた。

 複数の動物霊が集合した怪物が腕を振りかぶるが、磐長姫いわながひめはそれを一瞬で両断する。

 そうする間にも、人々の声が絶え間なく届いていた。

『お気をつけて!』

『どうかご無事で!』

 そんな大人達の祈りに混じって、子供達の声も聞こえる。

『そこだ、負けるなーっ!』

 無邪気な子供達の応援に、磐長姫いわながひめは戦いで応える。

「おおおおおっっっ!!!」

 気合いと共に拳を握り、思い切り殴りつけると、怪物どもは風穴をあけて砕け散った。

(何なのだ、この感覚は……)

 懸命に戦いながら、磐長姫いわながひめは自らの変化に戸惑っていた。

 激しい闘志が渦巻いているのに、心は鏡のように静かであり、咄嗟の状況にも的確に対応出来ている。

 囲まれた、と思った瞬間、刀を持つ手がわずかに動いたかと思うと、周囲の敵が数十体まとめて、爆発したように裂けていた。

 瞬きほどのその刹那に、何十回斬ったのだろうか。自分でもよく分からない。

(体が勝手に動いていく……一体私はどうしたのだ?)

 自分の中にこれだけの素質があるなど、ついぞ考えた事も無かった。

 女神はそこでふと、遠い過去を思い出した。神代の昔、嫁入りに失敗し、布団をかぶって泣いていた自らの姿をだ。

(いいや、昔の事などどうでもいい……! 今この場には私しかいないのだ……!)

 磐長姫いわながひめはそう念じ、過去の己を振り払った。

(考えてみれば、何千年もずっと自分を呪っていた。己の事を憎んでいた。でも今は違う。今この場には自分だけだ、人々を守れるのは自分だけだ……!)

 そんなふうに思えた時、全ての力が解き放たれた。

 あり余る武の才能に、ようやく心が追いついたのだ。

『かみさま、がんばれーっ!』

 再び響く子供達の声に、磐長姫いわながひめは叫んだ。

「任せておけっ!!!」
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