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第六章その14 ~私しかおらんのだ!~ 最強女神の覚醒編

双角天と無明権現

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 群がる雑魚を切り倒し、磐長姫いわながひめは邪神に迫った。

 4対1、多勢に無勢。だからどうした。

 燃えるような勇気が湧いて、何一つ怖くなかった。

「ぐおおおおおっっっ、くたばれっっっ!!!」

 双角天の金棒を太刀で受けると、足元の大地がひび割れていく。

「負けるかあああっっっ!!!」

 磐長姫いわながひめは力で相手を押し返すと、今度はこちらから太刀を打ち込んだ。

「ぐおっっっ!!?」

 双角天はよろめき、何とか金棒でそれを受ける。

 互いの気がぶつかり合い、凄まじい火花が舞い散った。

 力自慢の双角天は、動揺を隠すかのように咆えた。

「そ、そんななまくらで、我を斬れると思っているのか!」

「いいや、これでいいっ!」

 磐長姫いわながひめは真っ向から相手を睨み返した。

「この太刀は可愛い教え子に預けたものだ! ろくに切れないなまくらで、どんな恐ろしい敵にも立ち向かってくれた! だから私はこの太刀で勝つっ!!!」

 瞬間、黒き太刀が光を放った。

「うおおっっっ!?」

 双角天が視界を失い、目を閉じた一瞬の隙をついて、磐長姫いわながひめは薙ぎ払っていた。

「があああああああっっっ!!!」

 双角天は絶叫と共に倒れ伏す。

 しかし安堵する間もなく、女神の背後に大型の怪物が迫っていた。

 恨みを抱いて死んだ動物霊が合体した存在であり、邪神に近い力を持つものだ。

 振り上げた爪は腐れ水のような呪いをまとい、触れただけでかなりのダメージを受けるだろう。

 だがそこで、女神の背後に無数の光が輝いた。

 1つ1つはとてもか弱い魂であり、長い苦難で犠牲になった人々の命だ。

 恐らくは反魂の術の余波を受け、この世に戻ってきたのだろう。

『女神様、お守りします……!』

 人々の声が聞こえた次の瞬間、魂は集まり、巨大な壁となっていた。

 あの九州で人々を閉じ込め、憎しみを募らせた嘆きの門だ。

 それは恐るべき爪の一撃を受け止め……そして光に満ちて開け放たれた。

「おおおおおおっっっ!!!」

 磐長姫いわながひめは光の門を駆け抜けて、見事怪物を一刀両断。

 更に同様の怪物を一瞬で倒しながら、奥にいた無明権現へと迫った。

「…………っ!!!」

 無明権現が腕を上げると、衣の袖から無数の木の根が伸びた。

 先端は鋭く尖っており、また凄まじい邪気を帯びている。まるで横殴りの槍の雨だ。

 しかし磐長姫いわながひめは意識を集中し、相手の周囲の磁場を睨む。

 瞬間、全てがスローモーションとなり、磁場の変化から、無数の木の根の次の動きがイメージされた。

 弟子の黒鷹の得意技だが、この太刀を握った時から、使えるような気がしたのだ。

 女神は全ての動きを先読みし、最小限の動作で攻撃の雨をかわす。

 そのまま相手の懐に飛び込むと、手にした太刀で斬り上げた。

「……っっっ!!!」

 逆袈裟ぎゃくげさに深手を負い、無明権現は仰け反った。

 白目をむき、木の根はぼろぼろと崩れ落ちる。そのまま邪神は、枯れ木のようにしわがれて朽ちていった。

「よっしゃあっ!!!」

 女神は感情のままに左手を握るが、次の瞬間、その腕に何かが絡みついた。

 夜祖が放った荒縄であり、凄まじい呪詛を込めた神器だ。

 先ほど放った蜘蛛の巣とは、力の密度が段違いであり、磐長姫いわながひめの怪力といえど、千切るには霊気の集中を要する。

 だがそんないとまを許すまいと、動きを封じられた磐長姫いわながひめに、熊襲御前が突っ込んで来たのだ。

 手にした巨大な薙刀なぎなたは、炎を帯びて赤く輝いていた。

「消えうせろ、粗野なる女よ! わらわが首を断ち切ってやる!」
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