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第六章その14 ~私しかおらんのだ!~ 最強女神の覚醒編

石頭の女神

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「さあ、その首を寄越よこすがいい!!!」

 叫びと共に振り下ろされる薙刀を、磐長姫いわながひめは身をよじって間一髪避けた。

 髪の一部が宙に舞い、火の粉を帯びて燃え尽きていく。

「ぎえええええっっっ!!!」

 なおも薙刀を連発してくる熊襲御前の攻撃を、磐長姫いわながひめは何とか太刀で受け止める。

「往生際の悪い娘よっ……!!!」

 ぎりぎりと薙刀に力を込める熊襲御前。

 刃に宿る凄まじい熱気が、こちらの肌をちりちりと焼いた。

「さっさとくたばれ、馬鹿力め……! そもそもが出戻りの恥さらしであろう、いい加減歴史から消えるがいいっ……!」

 今までなら動揺した言葉だろうが、磐長姫いわながひめはひるまなかった。

「恥がどうしたっ、恥をかいたら生きる事を諦めるのかっ……!!」

「何……!?」

「私の可愛い弟子達は、皆懸命に生きている……! 失敗しても立ち上がり、恥をかいても諦めずに……!! 過去の恨みに捕われて、何千年も腐ったままの貴様らより、万倍強いわっ!!!」

「ええい、黙れええええっっっ!!!」

 そこで熊襲御前は薙刀をひねった。

 力押しではなく、技によって磐長姫いわながひめの太刀を逸らしたのだ。

 直後に薙刀が振り下ろされ、無防備な磐長姫いわながひめの頭に直撃した。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 だがしかし、薙刀は硬い音を立てて弾かれていた。

「なっ、何だとっ……!!?」

 あまりの事態に、熊襲御前は呆然としている。

 もちろん凄まじい衝撃であり、かなりのダメージは受けている。

 それでも磐長姫いわながひめは倒れなかった。

「娘が言ったよ。私はなあっ、カチンコチンの、石頭だっっっ!!!」

 磐長姫いわながひめは薙刀を掴み、力任せに引き寄せた。

 そのまま熊襲御前の眉間みけんに、全力の頭突きを叩き込んでいたのだ。

「ぎゃああああああああああっっっ!!!!!」

 絶叫する熊襲御前の隙を逃さず、磐長姫いわながひめは黒き太刀を振り抜いた。

 邪神は炎を巻き上げながら、燃え尽きるようにその姿を消したのだ。

 人々を守る女神が頭突き……我ながら野蛮で無様だ。でも、それでいいと今は思えた。

 自分は全能の神ではない。それでいい。

 どんな凄い神がいたとて、人々の協力を得られなければ、この世は闇のままだろう。

 自分には自分の流儀がある。恥をかいてもがいて、人々と共に泣いて笑って……一緒にこの国を守ればいいのだ……!
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