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第六章その15 ~おかえりなさい!~ 勇者の少年・帰還編
五老鬼の妄執(もうしゅう)
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『逃がさぬ……逃がさぬぞ、人族の勇者よ……!』
それは倒れた誠を見下ろしながら、5重に重なる声で言った。
身の丈は数十メートル……見た事のない巨躯だったが、その声からあの五老鬼のものだと分かった。
激しい戦いの結果だろうか。鎧のような巨体は今にも崩れ落ちそうだったが、執念で形を保っているようだ。
「お前ら……まだ諦めてなかったのか……!」
誠は痛みをこらえながら、何とか相手を睨みつけた。
「邪神軍団も……常夜命も負けたんだ。今更お前らが何しても、勝ち目なんて無いだろ……!」
『何を言うか小僧が! そもそもはじめから勝ち負けなどどうでも良いのだ。我らの地位が保たれればよい』
「それも無理だろ……! もう他の鬼は従わないはずだ。双角天もいないし、一族をまとめる力がお前達に無い……!」
『だったら餌になってもらう! この鎧を使った事で、随分命をすり減らしたのだ。また若い鬼の血肉を食らって、命を補充しなくてはな……!』
五老鬼はそう言ってせせら笑った。
『刹鬼姫も剛角どもも……何よりあの七月姫もいる。双角天の直系だ、あの血をすすれば、さぞかし若さが取り戻せるだろう……!』
「お前ら……いい加減にしろよっ……!!!」
カノン達まで食いものにする発言に、さすがに誠も怒りを覚えた。
「同族だろ、子孫だろ……!? 何でそこまでやるんだよ。何で守ってやらないんだよっ……!」
『お前の知った事ではない、我らはそれで命を保ってきたのだ! 全ての鬼は、我らの餌となる存在! そうすれば、我らは更に強くなれる!』
五老鬼は叫びながら、誠に向かい踏み出した。
「ぐっ……!」
誠は何とか身を起こすが、それで精一杯だった。
だが今にも五老鬼が誠を踏み潰そうとした時、横手から何かが突進し、五老鬼の鎧をよろめかせたのだ。
「なっ……!!?」
一瞬、誠は目を疑う。
ボロボロに破損しているが、それは確かに人型重機だ。両腕は一度切り落とされて再生したのか、まだ装甲で覆われていないのだが………
「ふざけるなてめええっっ、俺に勝っといて、何でこんなクソ野郎に手間取ってんだっっ!!!」
外部拡声器越しの叫びは、まさかの不是のものだった。
「ふ、不是……何で……!?」
「うるせえさっさと行けっ!!! 下はもう消えかけてる、モタモタしてたら閉じ込められるぞ!!!」
不是の言葉通りだった。
誠が通ってきた薄闇の世界は、遠い場所から順番に、少しずつ音を立てて崩れていく。
広げた絨毯をこの空間とするなら、それが向こう側から燃えていく印象に近い。
一時的に作られた不安定な空間は、そう長くは存在出来なかったのだ。
「早く出ろっ、出て閉じちまえっっっ!!! じゃないとこいつが這い出しちまうぞ!!!」
『ふざけおって、やはり裏切り者は何度でも寝返る! 我らの手で葬ってやろう!』
五老鬼の鎧は巨大な腕を振りかぶるが、そこで新手が突進していた。それは他の特務隊の機体だった。
『は、早く……早く行きなさいよっっっ……!!!』
響き渡る女性の声は、不是の恋人たる蓼川マキナのものだろう。
『そうだ、早く行け!!!』
『俺らが抑えてるうちに、早く!!!』
かつて多くの人を苦しめ、殺めてきた特務隊の面々が、口々に叫んでいるのだ。
「お、お前らまで……何で……?」
誠は理解出来ないでいたが、そこでマキナの声が響いた。
『どうせあたし達には、帰る場所なんてないんだから!! だったら最後ぐらい、何かの役に立たせなさいよっ……!!!』
マキナは負傷しているのか、何度も咳き込みながら言葉を続けた。
『そんで今度は……今度こそあたし達みたいなろくでなしが、出てこないようにして頂戴よっっっ!!!』
空間の崩壊はどんどん進み、すぐそこまで迫っていた。
足を引きずり、何とか出口にたどり着く誠に、不是が最後にこう言ったのだ。
『勘違いするなっ、俺は負けてねえぞっ!!! ただお前の方が、運が良かっただけなんだからなっ!!!』
「俺も……そう思うよ」
誠は素直に頷いていた。
なぜだか分からないが、涙が頬を伝っていた。
憎い相手のはずだったのに。不倶戴天の敵だったはずなのに。今はただ透明な思いが心を満たしていた。
「俺もそう思う。だって今も……お前が助けに来てくれたから……!」
『………………』
不是はもう何も言わなかった。他のパイロット達も同じである。
ただ雄たけびを上げると、彼らは機体の出力を最大にした。
属性添加機が焼け付き、機体が爆発するのも構わず、彼らは五老鬼の鎧を押し切った。
「……っ!」
誠は後ずさりながら、そっとひび割れに手を添える。
次の瞬間、ひび割れは音を立てて広がっていく。
まぶしい光があふれ、誠は後ろに引き寄せられた。
目もくらむばかりの輝きの中、『おかえりなさい』の大合唱が聞こえたのだ。
それは倒れた誠を見下ろしながら、5重に重なる声で言った。
身の丈は数十メートル……見た事のない巨躯だったが、その声からあの五老鬼のものだと分かった。
激しい戦いの結果だろうか。鎧のような巨体は今にも崩れ落ちそうだったが、執念で形を保っているようだ。
「お前ら……まだ諦めてなかったのか……!」
誠は痛みをこらえながら、何とか相手を睨みつけた。
「邪神軍団も……常夜命も負けたんだ。今更お前らが何しても、勝ち目なんて無いだろ……!」
『何を言うか小僧が! そもそもはじめから勝ち負けなどどうでも良いのだ。我らの地位が保たれればよい』
「それも無理だろ……! もう他の鬼は従わないはずだ。双角天もいないし、一族をまとめる力がお前達に無い……!」
『だったら餌になってもらう! この鎧を使った事で、随分命をすり減らしたのだ。また若い鬼の血肉を食らって、命を補充しなくてはな……!』
五老鬼はそう言ってせせら笑った。
『刹鬼姫も剛角どもも……何よりあの七月姫もいる。双角天の直系だ、あの血をすすれば、さぞかし若さが取り戻せるだろう……!』
「お前ら……いい加減にしろよっ……!!!」
カノン達まで食いものにする発言に、さすがに誠も怒りを覚えた。
「同族だろ、子孫だろ……!? 何でそこまでやるんだよ。何で守ってやらないんだよっ……!」
『お前の知った事ではない、我らはそれで命を保ってきたのだ! 全ての鬼は、我らの餌となる存在! そうすれば、我らは更に強くなれる!』
五老鬼は叫びながら、誠に向かい踏み出した。
「ぐっ……!」
誠は何とか身を起こすが、それで精一杯だった。
だが今にも五老鬼が誠を踏み潰そうとした時、横手から何かが突進し、五老鬼の鎧をよろめかせたのだ。
「なっ……!!?」
一瞬、誠は目を疑う。
ボロボロに破損しているが、それは確かに人型重機だ。両腕は一度切り落とされて再生したのか、まだ装甲で覆われていないのだが………
「ふざけるなてめええっっ、俺に勝っといて、何でこんなクソ野郎に手間取ってんだっっ!!!」
外部拡声器越しの叫びは、まさかの不是のものだった。
「ふ、不是……何で……!?」
「うるせえさっさと行けっ!!! 下はもう消えかけてる、モタモタしてたら閉じ込められるぞ!!!」
不是の言葉通りだった。
誠が通ってきた薄闇の世界は、遠い場所から順番に、少しずつ音を立てて崩れていく。
広げた絨毯をこの空間とするなら、それが向こう側から燃えていく印象に近い。
一時的に作られた不安定な空間は、そう長くは存在出来なかったのだ。
「早く出ろっ、出て閉じちまえっっっ!!! じゃないとこいつが這い出しちまうぞ!!!」
『ふざけおって、やはり裏切り者は何度でも寝返る! 我らの手で葬ってやろう!』
五老鬼の鎧は巨大な腕を振りかぶるが、そこで新手が突進していた。それは他の特務隊の機体だった。
『は、早く……早く行きなさいよっっっ……!!!』
響き渡る女性の声は、不是の恋人たる蓼川マキナのものだろう。
『そうだ、早く行け!!!』
『俺らが抑えてるうちに、早く!!!』
かつて多くの人を苦しめ、殺めてきた特務隊の面々が、口々に叫んでいるのだ。
「お、お前らまで……何で……?」
誠は理解出来ないでいたが、そこでマキナの声が響いた。
『どうせあたし達には、帰る場所なんてないんだから!! だったら最後ぐらい、何かの役に立たせなさいよっ……!!!』
マキナは負傷しているのか、何度も咳き込みながら言葉を続けた。
『そんで今度は……今度こそあたし達みたいなろくでなしが、出てこないようにして頂戴よっっっ!!!』
空間の崩壊はどんどん進み、すぐそこまで迫っていた。
足を引きずり、何とか出口にたどり着く誠に、不是が最後にこう言ったのだ。
『勘違いするなっ、俺は負けてねえぞっ!!! ただお前の方が、運が良かっただけなんだからなっ!!!』
「俺も……そう思うよ」
誠は素直に頷いていた。
なぜだか分からないが、涙が頬を伝っていた。
憎い相手のはずだったのに。不倶戴天の敵だったはずなのに。今はただ透明な思いが心を満たしていた。
「俺もそう思う。だって今も……お前が助けに来てくれたから……!」
『………………』
不是はもう何も言わなかった。他のパイロット達も同じである。
ただ雄たけびを上げると、彼らは機体の出力を最大にした。
属性添加機が焼け付き、機体が爆発するのも構わず、彼らは五老鬼の鎧を押し切った。
「……っ!」
誠は後ずさりながら、そっとひび割れに手を添える。
次の瞬間、ひび割れは音を立てて広がっていく。
まぶしい光があふれ、誠は後ろに引き寄せられた。
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