新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第六章その15 ~おかえりなさい!~ 勇者の少年・帰還編

父親になる。だったら生きて帰らなきゃ…!

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「い、いやいや……どういう事だ……???」

 誠はひたすら混乱していた。お腹の子供と言われても、心当たりが皆無なのだ。

「ひ、ヒメ子もみんなとも、キスしかしてないんだけど……大体そんな早く分かるもんなのか??」

 普通なら『そんなわけない』で終わるのだが、そこで誠の深読みが始まった。

(い、いや待てよ? ヒメ子なら、指1本触れなくても気合いで産みそうだし……そもそも妊娠したら、神が教えてくれそうだもんな。神話の佐久夜姫は、1日で懐妊が分かったらしいし……)

 不安はぐるぐる頭を駆け巡り、そこで1つの可能性に行き着いた。

 あの懐かしい我が家で宴会した時、女性陣の態度が変だったのを思い出したのだ。誠は不思議な水を飲んでぶっ倒れ、目を覚ますと皆が赤い顔をしていた。

「もっ、もしかしてあの時か……!?」

 誠はさーっと血の気が引いていくのを感じた。

「うわっ、だとしたら相手は誰だ!? 雪菜さん……それともカノン!? 生きて帰っても、間違いなく修羅場じゃないか。どう考えても話がこじれる……!」

 さっきまであんなに帰りたいと思ったのに、このまま異世界に引きこもりたいとさえ思えた。

 思えたのだが……それでも誠は半身を起こした。

「………っっっ!!!」

 また激痛が走ったが、誠は今度はひるまなかった。

 痛みと戦いながら、荒い呼吸で立ち上がる。

(理屈なんかどうでもいい! 子供がいるんだ、だったら生きて帰らなきゃ……!)

 責任がどうとか、倫理的にどうとか、四の五の考えるのはその後だ。

(父さん母さんみたいに、今度は俺が親になるんだ。だったら生きて帰るんだ……!)

 そんな本能の即断即決が、誠の脳内で行われたのだ。

 どっちに行けばいいか分からないが、とにかくもがこう。必死で進もう。

「うっ……!」

 立ち上がると、腹からの出血は勢いを増した。このままだと、すぐに意識を失うかも知れない。

 誠は緊急用の止血セットを探した。しかし生憎あいにく見当たらない。

 仕方なく腰のサイドパックに手をやると、石鹸ほどの大きさの箱が出てきた。

 それは防寒サバイバルキットの1つで、箱助マーク2と呼ばれている。

 長年愛用した属性添加式・箱型補助ストーブ……通称『箱助はこすけ』をコンパクトにしたもので、小型ながらかなり高い熱を生み出せるのだ。

(携帯型の箱助……熱……焼く……さっきのレーザー……!!)

 誠は一瞬迷ったが、すぐにそれを分解し始めた。

 属性添加機の設定をいじり、極めて狭い範囲に高熱を発生させるようにする。

 それからもう片方の防護手袋をくわえ……発熱する箱助マーク2を、ゆっくりと傷口に近づけた。

 迷ってる暇は無いし、他に選択肢なんて無いのだ。数秒後に襲ってくる痛みに負けないだけの勇気をかき集め、ぎゅっと箱助を押し当てた。

「~~~~~っっっ!!!!!」

 飛び上がるような激痛と、肌の焼ける嫌な匂い。

 震える手で箱助を剥がすと、傷は何とかふさがっていた。

 それが正しい処置かどうかも分からないが、今はやるしか無かったのだ。生きて帰れば手術出来る。魔法で治るかもしれないだろう。

 目を凝らすと、前方の闇の中に、蛍のような光が見えた。

 ひらひらと導くように舞う輝きを目指し、誠は歩みを進めた。

(痛い、痛い、痛い、痛いっ……!!!)

 一足ごとに激痛が走り、ともすれば倒れ込みそうになった。

 視界が霞むし、足もがくがく痙攣けいれんしている。

 だがその時、誠はふと何かの気配を感じた。

「……?」

 自分が歩く斜め前に、もう1人誰かが歩いているような気がしたのだ。数瞬の後、それは姿を現した。

 うっすらと光に包まれた、袈裟けさ姿の人物だ。

 頭にはがさ、手には金属の錫杖しゃくじょう。つまりお坊さんの格好だった。

(ま、まさか弘法大師とかっ……!?)

 そこでの人物は振り返る。笠の下には、見慣れた香川の顔があったのだ。

『頑張れ隊長、俺も一緒に歩くから。同行二人どうぎょうににんって言うだろう?』

「………っ! ……っ!」

 誠は何度も頷いて、それから再び歩き出した。

 次第に前方に、きらきらと沢山の光が見えてきた。

 光はそれぞれ別の声を届けてくれる。

 ストレートに励ます少年少女の声、罵倒ばとうともとれるケダモノ……もとい、神使達の叫び。

 応援の仕方はそれぞれだったが、ともかく誠を勇気付けてくれた。



 やがて50メートルほど先に、今までより強い光が見えた。

 目を凝らすと、どうも亀裂のように感じられる。

 そして蛍火のような光が、その割れ目のそばで忙しく飛び交っていた。

 まるでここだよ、と言っているかのようである。

(あそこに行けば外に出られる。あそこまでたどり着けば……帰れる……!) 

 最後の力を振り絞り……ようやくたどり付こうとしたその時だった。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 不意に横殴りの衝撃が襲い、誠は吹っ飛ばされていたのだ。
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