新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART3 ~始まりの勇者~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
1 / 87
~プロローグ~ いざ、本州上陸

能登半島に退避せよ

しおりを挟む
(あとちょっと……あとちょっとだけ頑張って、あたしの体……!!!)

 ともすれば遠退きそうになる意識を保つべく、嵐山紅葉あらしやまもみじはぎゅっと腕に爪を立てた。

 ……痛い。とてつもなく痛い。

 我ながら原始的な行動だったが、おかげで意識がこの世にしがみつけている。

(……よしっ、まだ痛い。だったら生きてる、いけるじゃん?)

 嵐山は意味不明の理屈で納得し、ぐっと拳を握った。


 彼女がいる場所は、日本海に浮かぶ第4船団の旗艦『出雲いずも』。その戦闘発令所である。

 正面の巨大モニターに映された地図上には、日本海沿岸を北上し、能登半島のとはんとうの避難区を目指す被災者達の位置が表示されていた。

 彼らを狙う『餓霊がりょう』……つまり、人喰いの巨大な活動死体ゾンビどもの追撃は苛烈かれつである。

 自軍は勇敢に戦っていたが、敵は次々内陸から押し寄せ、海沿いの道路を寸断しながら被災者達を追い詰めていた。

 餓霊が吐き出す特殊な霧、いわゆる通信妨害ジャミング粒子がレーダーを撹乱かくらんするので、敵の陣容じんよう皆目かいもく見当がつかない。

 霧の中から突然相手が襲ってくるため、どうしても人間側こちらの対処が後手後手になるのだ。

(このままじゃ、また大勢の人が犠牲になってしまう……!)

 気ばかり焦り、椅子から立ち上がる嵐山だったが、体はまるで言う事を聞かないじゃじゃ馬だった。

 視界はぐらぐらと揺れ、足は他人のそれのように不確かである。

 無理に力んで耐えてみるも、のどに鉄サビの匂いが込み上げて来た。

「…………っ!」

 耐え切れず背を曲げると、ハンカチで口元を覆い、小さくむせた。

 吐血を隠すようにくしゃくしゃとハンカチを握ると、左手の甲にある青い細胞片が目に入る。

 かつて人型重機の操縦者パイロットだった頃、移植した初期型プロトタイプの『逆鱗げきりん細胞』……すなわち、機体の人工筋肉との神経接続リンクに用いる生体細胞型バイオセル通信端末リンクシステムは、今はだいぶ色がくすみ、ひび割れてしまっていた。

 もう再び機体に乗る事も無いし、逆鱗この子も役目を終えているのだ。

 磨き抜かれたテーブルに映る顔は、28歳にしては随分と険しい。

 飾り気にとぼしいショートカットの髪、いかにも強気そうな目元。バレー部と間違われたほど、頑丈で背の高い体。

 京女きょうおんなと自称するのもおこがましいし、誰かさんが別れ際に、凶暴女と呼んだ通りだ。

 戦いの世界に身を置いて、もう10年の月日が経った。

 色んなものを諦めて、死に物狂いで駆け抜けて。もうすぐ終わりの時が来る。

 だからせめて、何かを未来に残したいし、出来ればそれは希望でありたい……!

 気合を入れ、長身の背筋を伸ばす嵐山だったが、横手の若年兵がささやいてきた。

「……あの、船団長。口元に、少し……」

「……っ! ありがとね」

 嵐山は急いでハンカチで口をぬぐい、兵は再び自分の作業に没頭している。

 指揮所には、他にも大勢の歳若い兵員がいた。誰もが皆、優しくて勇敢な子達である。

 よく『今時の若者は』なんて言うが、嵐山からすればとんでもない話だ。

 確かに経験は足りないかもしれない。思慮しりょもまだ浅いかも知れない。

 それでも彼らの心根は、始めは必ず無垢むくである。

 もし彼らが濁ってしまったなら、それは先人達の責任。つまり自分達大人が、正しい背中を見せていないだけなのだ。

(弱気になるな、この子達を守らなきゃ。まだやれる、まだ生きてるじゃん……!)

 周囲の人目が無かったら、自分の頬を引っぱたいていただろう。

 名前通り紅葉型の手形がつけば、閻魔大王えんまだいおうもこちらの名を呼びやすいだろうし。

(そうだ、今更何をへこたれてんのよ。あの日『始まりの2人』に志願した時から、こうなる事は覚悟してたでしょ……!)

 必死に自らを鼓舞こぶする嵐山だったが、状況は悪化の一途を辿っている。

 やがて発令所に、悲痛な叫びが響き渡った。

千里浜ちりはま一帯を北上中の第16班から24班、餓霊の突出により前進出来ず! 完全に進路を塞がれています!」

「後方からも多数の敵が接近中、このままでは全滅です!」

 嵐山は歯噛みしたが、素早く配下に指示を送る。

「すぐに救援を! 羽咋はくい七尾ななお防衛ラインの守備隊からも戦力を回して!」

「りょ、了解! しかし、既に防衛線付近にも餓霊が多数接近しています。突破には相当の時間を要するかと……」

「…………で、出来るだけ、対処……!」

 嵐山はなんとかそう答えた。

 千里浜を逃げる被災者達と守備隊は、長くは持ちこたえられないだろう。

 避難区から救援部隊を出そうにも、敵の別働隊がそれを許さない。

(これじゃもう、どうやっても……)

 さしもの嵐山も絶望が胸をよぎるが、その時。不意に通信兵が声を上げた。

「あっ、嵐山船団長っ、申し上げますっ!」

 彼は興奮した様子で振り返り、嵐山の方を見る。

「だ、第5船団からの増援、来ましたっ!」

 嵐山は弾けるようにテーブルに手をかけ、彼の方に身を乗り出す。

「本当に!? 予想より早いわね。詳細は?」

「先行するのは1機です」

「1機?」

 嵐山は目を丸くする。

「はい。1機ですが、その……」

 青年は興奮したように目を輝かせた。

「とびきりの1機でありますっ!!!」

「あっ……!!!」

 次の瞬間、メインモニターに映された機体に、嵐山は目を見開いた。

 曇天どんてんを駆け抜ける勇姿は、鎧姿の騎士のようだ。

 全身を白い装甲に覆われ、関節からのぞく人工筋肉は、青い光を帯びて輝いている。

 それはかつて嵐山と共に日本中を駆け巡り、人々を守ってきた伝説の人型重機『心神しんしん』だったのだ。

 懐かしき白い機体は翼を光らせ、全速力で向かってくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...