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第三章その5 ~どうしよう!~ 右往左往のつるちゃん編

地道な現地調査。刑事ドラマの基本

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 誠達はさっそく襲撃現場へと向かった。

 要人警護の人手もいるので、実質動けるのは誠・鶴・コマ・鳳・そして船団長の2人である。

 船団長達が留守の間は、神使のキツネ達が化けて身代わりになるので、特に騒ぎにはならないはずだ。

 鶴は虚空から虫眼鏡を取り出し、襲撃地点を調べていく。

「……ムムム、なかなか手際のいい術ね。ほとんど跡が残ってないわ」

 鶴が言うと、肩に乗るコマも同意した。

「確かに鶴の言う通りだ、ほんとに一瞬で術を編んでる。熟練の術士でもこうはいかないよ」

 誠は術については分からないので、隣の鳳に尋ねる。

「これって、鳳さんでも難しいですかね」

「…………えっ!?」

 鳳は一瞬びくっとなって目を丸くし、誠の方を見た。

 珍しく上の空だったようで、表情はかなりうろたえている。

「……すっ、すみません黒鷹様。聞き逃してしまいまして……」

「あ、それはいいんですけど。鳳さんでもこういう事は難しいですかね」

「……そ、そうですね。姿を現すと同時に複数の術を発動、そして姫様に気取けどられずに転移…………それを瞬時に行うなど、私にはとても。全神連でも、歴代で何人使えるか…………」

 鳳はそこでまた押し黙った。何か気になる事があるのだろうか。

 だがそこで鶴が立ち上がった。腰に手を当て、心底納得いかない様子である。

「でもやっぱりおかしいわ。どんなにうまくやっても、少しは邪気が出てくるはずでしょ。私が見逃すはずがないわ」

「相変わらず凄い自信だね君は」

 コマが呆れているが、誠はそこで思い当たった。

「…………そうだヒメ子、あの迷い砦に行く途中、邪気が多いから神器でも敵が見えにくかったよな?」

「覚えてないけど、そうだったような気がするわ」

「多分それじゃないか? 避難区に柱が伸びてきたし、あの柱の邪気が強すぎるから、それに紛れて小さな気は気付きにくいんじゃないかな」

「そうかそれだ、盲点だったね!」

 コマは納得し、ポンと前足を打ち鳴らした。

「あの柱は幽鬼兵団のためでもあるけど、襲撃を隠すためでもあるんだよ。あの柱の近くであれば、鶴に感知されずに動き回れるって事だ」

 一同の会話を見守っていた嵐山が、恐る恐る口を挟んだ。

「そ、それってコマくんさ、この避難区の……能登半島全体を、敵が好きに襲って来れるって事?」

「そうなるね、船団長のお姉さん」

 コマが答えると、そこで鶴が声を上げた。

「……あらっ、嵐山さんの足元、何かあるわ」

 鶴が猛スピードで突進したので、嵐山は片足立ちで避けてくれる。

「なっ、なななな何っ?」

 嵐山はぷるぷる震えながら尋ねるが、鶴は気にせず地面を観察し続ける。

「もうちょっとそのままのポーズね。ねえコマ、これを見て」

「よしきた」

 コマは肩から飛び降り、鶴の指し示す所を見る。しばし匂いをかいだ後、コマは感心したように呟いた。

「確かに邪気の痕跡だ。瞬間移動の術の気が、ちょっとだけ漏れたんだね」

「うまい事この気をたどれないかしら」

「やってみる。どっちに転移したか、全方向に調べれば…………警護にまわってる狛犬仲間に頼んでみるよ。ちょっと待ってて」

 コマは光に包まれてその場から消えた。数十分後、鶴がうとうと居眠りを始めた頃、コマはようやく戻って来た。

「見つけた……って、何寝てるんだよ。ちょっと遠いけど、北東の方に飛んでるみたい。地図で見ると……男鹿おが半島の方角だね」

「むにゃむにゃ、でかしたわコマ。さっそく行ってみましょう!」

 鶴は立ち上がり、嵐山はようやく片足立ちから解放された。

「ごめん健児、あ、足が、限界っ……!」

「しっかりしろよ」

 肩を貸す船渡をよそに、鶴は胸の前で手を合わせる。

 するとたちまち一同は光に包まれ、その場から転移したのだ。
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