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第三章その6 ~みんな仲良く!~ ドタバタの調印式編
お願い、もう少しだけ……!
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「…………っ!!」
瞬間、嵐山は息を飲んだ。コクピットいっぱいに飾られた写真に……機器の明かりに照らし出された思い出達に目を奪われたのだ。
自分達の専用機が完成した時。
後輩隊員ができた時。
命がけであちこちの避難区を守り抜いた時。
その写真の1つ1つに、あの苦しくも楽しかった頃の記憶が詰まっているのだ。
だがそこで、嵐山はふと気が付いた。
座席横に備えられた収納スペース……そこから覗く細長い束は、あの日避難区でもらったお蕎麦だ。
いつか平和を取り戻したら、お祝いに食べよう。そう願ってお守り代わりにすえ付けていたのだった。
震える手で持ち上げると、袋には何かメッセージが書いてある。
『細く長く幸せに』健児
『共に白髪の生えるまで』紅葉
そうだ、ずっと一緒にいようって思ってたはずなのに……どうしてこんなふうになっちゃったんだろう。
(……ほんとに、私は大バカ野郎だ……!!!)
嵐山は……いや、紅葉は心底そう思った。
いつもいつも意地をはって、大事な物を見失って。
何が弓道部だ。的外れな人生なのは、部活時代から何も変わっていないじゃないか。
やがて機体が起動準備を終え、紅葉は力強くレバーを握った。
「嵐山紅葉、四条機、いきますっ……!!」
機体を起こし、座席に体を固定する。
操作レバーを握る左手の甲には、青く輝く逆鱗が見える。
長い長い戦いの中、傷つきひび割れてしまったそれは、最後の力を振り絞って懸命に明滅している。
ポンコツな自分とそっくりだ。だから最後まで、悪あがきを一緒にしよう。
「……お願い、もう少しだけ付き合ってね……!」
紅葉は祈るように機体を操作し、起き上がった。
同時に傍らで、健児の機体が立ち上がる。
(いけるはず……! こんなピンチ、何度も乗り越えてきたんだから……!)
紅葉は自分に言い聞かせた。
筋肉の動作不良が多かった頃の機体であるため、補助モーターが組み込んであったし、防御属性の出力不足を装甲の厚さでカバーしている。
そのぶん重量も重く、今の機体に慣れたパイロットなら嫌がるだろう。
でもあの始まりの時を駆け抜けた自分達は、どうしてもその備えを外せなかったのだ。
「このおっ!!」
迫る餓霊を強化刀で切り払い、紅葉は1歩前に出る。
横手から別の敵が襲ってくるが、どうしても体が痛む。反応が遅れる。
だがそれを健児の機体が殴り飛ばしていた。生身の時と全く同じ、無骨で無器用な戦い方だ。
彼の機体にも、餓霊どもは容赦ない攻撃を加えてくる。
健児機は頑丈な装甲でそれを受けるが、やはり彼も動きが鈍い。長年の戦いで、神経がほとんど焼きついているのだろう。
彼の死角を狙う餓霊を、紅葉は思い切り蹴飛ばした。
「大口叩いた割に、てんで駄目じゃない……?」
「どっちが……!」
健児は苦しげだったが、持ち前の負けん気で強がった。
紅葉は夢中で戦いながら、必死で周囲に目を配る。他のパイロット達も、機体の機能低下に苦しみながら懸命に戦っていた。
……そう、気持ちは受け継いでくれているのだ……!
最初は自分達しかいなかったけど、今は頼れる後輩達がいる。何も残せなかったわけではないのだ。
2人は知らず知らず、互いの死角を庇い合った。かつて背中を預けていた頃のように、相手の呼吸を読み取って。
そうして戦いながらも、あの女が目に留まった。どう考えても人間ではなく、恐ろしい魔性の技を使う女。
(あの女……あのバケモノを止められれば……!)
味方の射撃が女に当たるが、強力な防御魔法が完全にそれを防いだ。弾丸に込められた電磁式が、女の前では意味を成さないのだ。
(……一瞬で電磁式を中和してる……でも私の弾ならっ……!)
紅葉はそこで、機体が背負っていた巨大な銃を降ろした。
折り畳み式のその銃は、まだ武器の小型化が出来ていなかった頃の産物。
より属性添加しやすいよう、大きく張り出した左右の双発式添加機と延長ブレードが、巨大な弓のようにも見える。九州で実用化された十の字砲のプロトタイプとも言える兵器だ。
折り畳まれた左右のブレードを展開、同時に属性添加機が作動し、嵐山は銃を構える。
迫る敵は、健児が身を盾にして押し留めてくれていた。
敵はよってたかって攻撃を叩き込むが、彼の機体は倒れない。もしかしたら、もう殆ど動けないのかも知れないが…………
(電磁式を中和しても、私の弾なら重量があるっ……!!)
紅葉は狙いを定め、女に弾丸を発射する。
女のバリアで電磁式は相殺されるも、大質量の弾頭は、勢い余って床にめり込む。弾はそのまま爆散した。
女は傷こそ負わなかったが、そこで明確にこちらを睨んだ。
「この骨董品が……!!」
女が忌々しげに呟くと、その手に青紫の光が宿る。光は刃の形になって、こちらの機体の砲へと伸びた。
!!!!!!!!!!!!!!!
避ける事も出来ずに砲は両断され、返す刀で機体の右腕が飛んだ。
激しいノイズがモニターに走り、紅葉の機体は倒れ込む。
庇うように前に出た健児の機体も、厚い装甲を易々と切り刻まれた。
「……ええい、まだ倒れぬか……!」
女は光の刃を手に、健児の機体の前に浮かぶ。そのまま刀を構えると、機体のコクピットを貫いたのだ。
「けっ、健児っっっ!!!???」
紅葉は夢中で叫ぶが、彼からの応答はない。
女は満足げに微笑んだ。
「遊びは終わり……そろそろ幕引きだ」
女の体が激しい光を帯びたかと思うと、魔法陣から無数に何かが湧き出してくる。
骸骨のような上半身は鎧を纏い、下半身はやはり骸骨の馬である。その姿は、先に鶴達が敗北した幽鬼兵団に似ていた。
「さあ呪い殺してやろう……! この能登の避難区が、お前達の墓場となるのだ……!」
女の口調は次第に狂気を帯びていく。空恐ろしい笑みを浮かべ、女は人々の苦境を嘲笑うのだ。
瞬間、嵐山は息を飲んだ。コクピットいっぱいに飾られた写真に……機器の明かりに照らし出された思い出達に目を奪われたのだ。
自分達の専用機が完成した時。
後輩隊員ができた時。
命がけであちこちの避難区を守り抜いた時。
その写真の1つ1つに、あの苦しくも楽しかった頃の記憶が詰まっているのだ。
だがそこで、嵐山はふと気が付いた。
座席横に備えられた収納スペース……そこから覗く細長い束は、あの日避難区でもらったお蕎麦だ。
いつか平和を取り戻したら、お祝いに食べよう。そう願ってお守り代わりにすえ付けていたのだった。
震える手で持ち上げると、袋には何かメッセージが書いてある。
『細く長く幸せに』健児
『共に白髪の生えるまで』紅葉
そうだ、ずっと一緒にいようって思ってたはずなのに……どうしてこんなふうになっちゃったんだろう。
(……ほんとに、私は大バカ野郎だ……!!!)
嵐山は……いや、紅葉は心底そう思った。
いつもいつも意地をはって、大事な物を見失って。
何が弓道部だ。的外れな人生なのは、部活時代から何も変わっていないじゃないか。
やがて機体が起動準備を終え、紅葉は力強くレバーを握った。
「嵐山紅葉、四条機、いきますっ……!!」
機体を起こし、座席に体を固定する。
操作レバーを握る左手の甲には、青く輝く逆鱗が見える。
長い長い戦いの中、傷つきひび割れてしまったそれは、最後の力を振り絞って懸命に明滅している。
ポンコツな自分とそっくりだ。だから最後まで、悪あがきを一緒にしよう。
「……お願い、もう少しだけ付き合ってね……!」
紅葉は祈るように機体を操作し、起き上がった。
同時に傍らで、健児の機体が立ち上がる。
(いけるはず……! こんなピンチ、何度も乗り越えてきたんだから……!)
紅葉は自分に言い聞かせた。
筋肉の動作不良が多かった頃の機体であるため、補助モーターが組み込んであったし、防御属性の出力不足を装甲の厚さでカバーしている。
そのぶん重量も重く、今の機体に慣れたパイロットなら嫌がるだろう。
でもあの始まりの時を駆け抜けた自分達は、どうしてもその備えを外せなかったのだ。
「このおっ!!」
迫る餓霊を強化刀で切り払い、紅葉は1歩前に出る。
横手から別の敵が襲ってくるが、どうしても体が痛む。反応が遅れる。
だがそれを健児の機体が殴り飛ばしていた。生身の時と全く同じ、無骨で無器用な戦い方だ。
彼の機体にも、餓霊どもは容赦ない攻撃を加えてくる。
健児機は頑丈な装甲でそれを受けるが、やはり彼も動きが鈍い。長年の戦いで、神経がほとんど焼きついているのだろう。
彼の死角を狙う餓霊を、紅葉は思い切り蹴飛ばした。
「大口叩いた割に、てんで駄目じゃない……?」
「どっちが……!」
健児は苦しげだったが、持ち前の負けん気で強がった。
紅葉は夢中で戦いながら、必死で周囲に目を配る。他のパイロット達も、機体の機能低下に苦しみながら懸命に戦っていた。
……そう、気持ちは受け継いでくれているのだ……!
最初は自分達しかいなかったけど、今は頼れる後輩達がいる。何も残せなかったわけではないのだ。
2人は知らず知らず、互いの死角を庇い合った。かつて背中を預けていた頃のように、相手の呼吸を読み取って。
そうして戦いながらも、あの女が目に留まった。どう考えても人間ではなく、恐ろしい魔性の技を使う女。
(あの女……あのバケモノを止められれば……!)
味方の射撃が女に当たるが、強力な防御魔法が完全にそれを防いだ。弾丸に込められた電磁式が、女の前では意味を成さないのだ。
(……一瞬で電磁式を中和してる……でも私の弾ならっ……!)
紅葉はそこで、機体が背負っていた巨大な銃を降ろした。
折り畳み式のその銃は、まだ武器の小型化が出来ていなかった頃の産物。
より属性添加しやすいよう、大きく張り出した左右の双発式添加機と延長ブレードが、巨大な弓のようにも見える。九州で実用化された十の字砲のプロトタイプとも言える兵器だ。
折り畳まれた左右のブレードを展開、同時に属性添加機が作動し、嵐山は銃を構える。
迫る敵は、健児が身を盾にして押し留めてくれていた。
敵はよってたかって攻撃を叩き込むが、彼の機体は倒れない。もしかしたら、もう殆ど動けないのかも知れないが…………
(電磁式を中和しても、私の弾なら重量があるっ……!!)
紅葉は狙いを定め、女に弾丸を発射する。
女のバリアで電磁式は相殺されるも、大質量の弾頭は、勢い余って床にめり込む。弾はそのまま爆散した。
女は傷こそ負わなかったが、そこで明確にこちらを睨んだ。
「この骨董品が……!!」
女が忌々しげに呟くと、その手に青紫の光が宿る。光は刃の形になって、こちらの機体の砲へと伸びた。
!!!!!!!!!!!!!!!
避ける事も出来ずに砲は両断され、返す刀で機体の右腕が飛んだ。
激しいノイズがモニターに走り、紅葉の機体は倒れ込む。
庇うように前に出た健児の機体も、厚い装甲を易々と切り刻まれた。
「……ええい、まだ倒れぬか……!」
女は光の刃を手に、健児の機体の前に浮かぶ。そのまま刀を構えると、機体のコクピットを貫いたのだ。
「けっ、健児っっっ!!!???」
紅葉は夢中で叫ぶが、彼からの応答はない。
女は満足げに微笑んだ。
「遊びは終わり……そろそろ幕引きだ」
女の体が激しい光を帯びたかと思うと、魔法陣から無数に何かが湧き出してくる。
骸骨のような上半身は鎧を纏い、下半身はやはり骸骨の馬である。その姿は、先に鶴達が敗北した幽鬼兵団に似ていた。
「さあ呪い殺してやろう……! この能登の避難区が、お前達の墓場となるのだ……!」
女の口調は次第に狂気を帯びていく。空恐ろしい笑みを浮かべ、女は人々の苦境を嘲笑うのだ。
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【作者より、感謝を込めて】
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