新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART3 ~始まりの勇者~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
68 / 87
第三章その6 ~みんな仲良く!~ ドタバタの調印式編

お願い、もう少しだけ……!

しおりを挟む
「…………っ!!」

 瞬間、嵐山は息を飲んだ。コクピットいっぱいに飾られた写真に……機器の明かりに照らし出された思い出達に目を奪われたのだ。

 自分達の専用機が完成した時。

 後輩隊員ができた時。

 命がけであちこちの避難区を守り抜いた時。

 その写真の1つ1つに、あの苦しくも楽しかった頃の記憶が詰まっているのだ。

 だがそこで、嵐山はふと気が付いた。

 座席横に備えられた収納スペース……そこから覗く細長い束は、あの日避難区でもらったお蕎麦だ。

 いつか平和を取り戻したら、お祝いに食べよう。そう願ってお守り代わりにすえ付けていたのだった。

 震える手で持ち上げると、袋には何かメッセージが書いてある。

『細く長く幸せに』健児

『共に白髪の生えるまで』紅葉

 そうだ、ずっと一緒にいようって思ってたはずなのに……どうしてこんなふうになっちゃったんだろう。

(……ほんとに、私は大バカ野郎だ……!!!)

 嵐山は……いや、紅葉は心底そう思った。

 いつもいつも意地をはって、大事な物を見失って。

 何が弓道部だ。的外れな人生なのは、部活時代むかしから何も変わっていないじゃないか。

 やがて機体が起動準備を終え、紅葉は力強くレバーを握った。

嵐山紅葉あらしやまもみじ、四条機、いきますっ……!!」

 機体を起こし、座席に体を固定する。

 操作レバーを握る左手の甲には、青く輝く逆鱗が見える。

 長い長い戦いの中、傷つきひび割れてしまったそれは、最後の力を振り絞って懸命に明滅している。

 ポンコツな自分とそっくりだ。だから最後まで、悪あがきを一緒にしよう。

「……お願い、もう少しだけ付き合ってね……!」

 紅葉もみじは祈るように機体を操作し、起き上がった。

 同時にかたわらで、健児の機体が立ち上がる。

(いけるはず……! こんなピンチ、何度も乗り越えてきたんだから……!)

 紅葉は自分に言い聞かせた。

 筋肉の動作不良が多かった頃の機体であるため、補助モーターが組み込んであったし、防御属性の出力不足を装甲の厚さでカバーしている。

 そのぶん重量も重く、今の機体に慣れたパイロットなら嫌がるだろう。

 でもあの始まりの時を駆け抜けた自分達は、どうしてもその備えを外せなかったのだ。

「このおっ!!」

 迫る餓霊を強化刀で切り払い、紅葉は1歩前に出る。

 横手から別の敵が襲ってくるが、どうしても体が痛む。反応が遅れる。

 だがそれを健児の機体が殴り飛ばしていた。生身の時と全く同じ、無骨で無器用な戦い方だ。

 彼の機体にも、餓霊どもは容赦ない攻撃を加えてくる。

 健児機は頑丈な装甲でそれを受けるが、やはり彼も動きが鈍い。長年の戦いで、神経がほとんど焼きついているのだろう。

 彼の死角を狙う餓霊を、紅葉は思い切り蹴飛ばした。

「大口叩いた割に、てんで駄目じゃない……?」

「どっちが……!」

 健児は苦しげだったが、持ち前の負けん気で強がった。

 紅葉は夢中で戦いながら、必死で周囲に目を配る。他のパイロット達も、機体の機能低下に苦しみながら懸命に戦っていた。

 ……そう、気持ちは受け継いでくれているのだ……!

 最初は自分達しかいなかったけど、今は頼れる後輩達かれらがいる。何も残せなかったわけではないのだ。

 2人は知らず知らず、互いの死角をかばい合った。かつて背中を預けていた頃のように、相手の呼吸を読み取って。

 そうして戦いながらも、あの女が目に留まった。どう考えても人間ではなく、恐ろしい魔性の技を使う女。

(あの女……あのバケモノを止められれば……!)

 味方の射撃が女に当たるが、強力な防御魔法が完全にそれを防いだ。弾丸に込められた電磁式が、女の前では意味を成さないのだ。

(……一瞬で電磁式を中和してる……でも私の弾ならっ……!)

 紅葉はそこで、機体が背負っていた巨大な銃を降ろした。

 折り畳み式のその銃は、まだ武器の小型化が出来ていなかった頃の産物。

 より属性添加しやすいよう、大きく張り出した左右の双発式添加機と延長ブレードが、巨大な弓のようにも見える。九州で実用化された十の字砲クロスガンのプロトタイプとも言える兵器だ。

 折り畳まれた左右のブレードを展開、同時に属性添加機が作動し、嵐山は銃を構える。

 迫る敵は、健児が身を盾にして押し留めてくれていた。

 敵はよってたかって攻撃を叩き込むが、彼の機体は倒れない。もしかしたら、もう殆ど動けないのかも知れないが…………

(電磁式を中和しても、私の弾なら重量があるっ……!!)

 紅葉は狙いを定め、女に弾丸を発射する。

 女のバリアで電磁式は相殺されるも、大質量の弾頭は、勢い余って床にめり込む。弾はそのまま爆散した。

 女は傷こそ負わなかったが、そこで明確にこちらを睨んだ。

「この骨董品が……!!」

 女が忌々しげにつぶやくと、その手に青紫の光が宿る。光は刃の形になって、こちらの機体の砲へと伸びた。

 !!!!!!!!!!!!!!!

 避ける事も出来ずに砲は両断され、返す刀で機体の右腕が飛んだ。

 激しいノイズがモニターに走り、紅葉の機体は倒れ込む。

 かばうように前に出た健児の機体も、厚い装甲を易々と切り刻まれた。

「……ええい、まだ倒れぬか……!」

 女は光の刃を手に、健児の機体の前に浮かぶ。そのまま刀を構えると、機体のコクピットを貫いたのだ。

「けっ、健児っっっ!!!???」

 紅葉は夢中で叫ぶが、彼からの応答はない。

 女は満足げに微笑んだ。

「遊びは終わり……そろそろ幕引きだ」

 女の体が激しい光を帯びたかと思うと、魔法陣から無数に何かが湧き出してくる。

 骸骨のような上半身は鎧をまとい、下半身はやはり骸骨の馬である。その姿は、先に鶴達が敗北した幽鬼兵団に似ていた。

「さあ呪い殺してやろう……! この能登の避難区が、お前達の墓場となるのだ……!」

 女の口調は次第に狂気を帯びていく。空恐ろしい笑みを浮かべ、女は人々の苦境を嘲笑あざわらうのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...