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第三章その7 ~いざ勝負!~ 黄泉の軍勢・撃退編

鳳天音という人物

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 所かわって、再び全神連・西国本部の詰め所である。

「戻ってきたわ。もうここが本拠地ね」

 鶴は腰に手を当て、自分に気合いを入れるように言った。

 全神連の人々は、今も怪我の治療を行っている。

 治癒の術を使える者が多いので、皆ずいぶん回復してきたようだが、かなり重苦しい雰囲気ではある。

「……あの天音あまねは、元は西国本部ここの人間でしてな。飛鳥の姉でもあるんですが」

 腕を回して動きを確認しながら、高山が口火を切った。

「全神連でも腕扱うでこきであるおおとりの一族……その中でもズバ抜けた才能に恵まれ、次代の神人と言われておりました」

「次代の神人……?」

 誠が問うと、高山は頷いた。

「ええそうです。元々全神連じゃあ、有事に神人になれる人間を育成してたんです。先代候補は本荘ちさと、つまりちひろの母親だったんですが……最近の候補者は、あの天音で」

「鳳さんのお姉さん、亡くなったって聞いてましたが……」

 誠が言うと、高山は腕の包帯を取りながら同意した。

「そうなんです。混乱の始まり頃に命を落としまして。まさか魔道に堕ちているとは思いませんでしたがね」

「どうして亡くなったんですか」

「…………人間に殺されたんです。守ったはずの人間に」

 高山は静かに答える。他の全神連の面々も押し黙っていた。

「いや、このお役目をやってたら、似たような思いはよくします。いちいち気にしてたら、それこそ身がもちませんから…………あまり面白い話でも無いんで、この辺りでやめときましょう」

 高山はそこで言葉を切った。

「……………………」

 誠は自らの体験を思い出した。

 あの混乱が起きた後、ほとんどの人は親切だった。しかし極限状態で、人の皮を脱ぐ者は必ずいる。

 彼らに日々蹴飛ばされ、虐げられて誠は生きた。

 あれが本当に同じ人間だったのか、それとも魔族のように、人以外の血が混じった者なのかは分からないが、そうした連中がいる事は事実である。

「…………それでヒメ子が来るまで、神人が欠員だったんですね」

 誠が言うと、高山は深く頷いた。

「……ええ、そうなんです。ともかく飛鳥もショックでしょうから、しばらく休ませたいと思います」

 誠が頷くと、コマが誠の肩に飛び乗ってきた。

「まああれだけダメージを負ったら、しばらくは出て来れないだろうし。今は考えてもしょうがないよ」

 コマが言うと、鶴がちゃっかり真面目な顔で後を続けた。

「そうねコマ。今はとにかく、勝つ方法を考えましょう」
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