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16話~休み明けのぼっち~
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16話~休み明けのぼっち~
退院した僕は2週間ぶりに学校に通うことになった。長期休み明けの学校への足取りはいつも以上に重い。これだけネット環境が普及した今なら、この通学というもの自体が無駄なのではないか、そもそも学校という大設備自体が無駄なのではないか、など行きたくない理由を頭の中で反芻しながらも、ただただ惰性のままに学校へと歩みを進める。
「あー、着いてしまった」
またこの監獄に一日の大半を拘束されてしまうのか。ため息が漏れる。そして寝たきり状態からいきなり3階の教室まで上がると息切れまで起こす。もう老化現象を感じ始めた。教室に入ると、もうすでに来ていた生徒から一瞬好奇の視線が向けられる。なにか次のアクションがあるのかと思いきや、何事もなかったかのように彼ら彼女らはそれぞれのあるべき日常へと戻った。さすがぼっちだ。全国版で放送されようとも無関心である。
「前田君。おはようございます」
「え、ああ、おはようございます。雪本さん」
隣の席にはもうすでに雪本さんがいた。雑巾を持って、僕の机と自分の机をきれい拭いていた。アルコール消毒液まで用意して、そこまでしなくてもいいのに。ウイルス性の病気で休んでいたわけではないのだから。だが入院中もほぼ毎日会っていたせいか、雪本さんの姿を見て少し落ち着いた。
「前田君は、体もう大丈夫なんですか」
「おかげさまで」
「それはよかったです。」
会話終了。コミュ障ぼっちとはこういうものだ。話の盛り上げ方もつなげ方もわからない。それゆえにぼっち。しかしそんなことを全く気にもしない、それがぼっちを極めた僕。さていつものように授業の復習を・・・・・・。
その時、僕は気付いてしまった。
2週間分の授業のブランクをどうすればいいのかと。
「あーみんなおはよー」
教室の扉が開くと、ぱっと花が咲いたような笑顔でクラスメイトが駆け寄る。花崎さんだ。
「あっ!花崎さん、今日から登校できるんだ~」
「怪我大丈夫だった!?」
「ニュース見たよ~、災難だったね」
「感謝状もらったんでしょ!さすが花崎さん!」
僕の時とえらい違いだな。
「お医者さんも驚くほど治りが早くて。みんなが寄せ書きとかお見舞いとか来てくれたおかげかな」
「そんなこと全然いいよ~。ほらっ、これ、花崎さんが休んでた分の授業ノートだから、よかったら私の見て」
「俺も用意したんです!是非活用してください」
おーおー、さすが人望の厚い人は違うな。さぁ、そんな人のことは放っておいて・・・・・・どうする。小中学校はどんなことがあろうと毎日出席して、授業に穴を開けるなんて経験はなかった。頭を回転させろ!ぼっちの強みは何だ。
「あ、その、えっと前田君、よかったら私のノー・・・・・・」
「雪本さん!」
「え!?はい!」
「今日の時間割は?」
「えっと、時間割どおり変更はなしで、一時間目数学、二時間目現代文、三時間目歴史、四時間目英語、五時間目学活です」
時間割通り。よし教科書、問題集、ノートは持ってきている。ブツさえそろえばあとはこっちのものだ。朝のホームルームが始まるまでに、いや朝のホームルームもそっちのけて授業が始まるまで、徹底的に自習してやる!一問のこらず!
あとはひたすら自分との闘いだ。ノートに記入する時間はない。まずは数学。すべて頭の中で計算を行う。ここ最近の単元は公式を覚えてひたすら当てはまればいいだけだ。現代文。ひたすら文章を読んで、問題集の設問を暗記する。登場人物の感情など知ったことか。お偉い先生が模範解答として考え出したものを丸パクリすればよい。歴史。黒太文字を一問一答で仮暗記。ストーリーは追々つかもう。英語は・・・・・・苦手科目は禁じ手教科書解説本を使おう。全日本語訳完備、問われやすい設問も日本語で完備。
「よし、こんなもんか」
「・・・・・・前田君!」
「え?」
顔を上げるといつのまにか朝のホームルームが終わっていた。そして先生が目の前にいた。
「あっ、はいなんでしょうか」
「ようやく気付いた~。ちょっと職員室まで来てもらってもいいかな?それと花崎さんも」
「後にしてください!」
「あら、ずいぶん反抗的だね」
「この後の授業の予習に忙しいのです」
「真面目なのはいいことだけど、となりの人に見せてもらったらいいよ~その方が効率的でしょ?」
違います先生。その方法は友達が居る人にとっての最善策であり、ぼっちにとってその方法は愚策中の愚策。ただの知り合い、いや僕はそれ以下か。街中の通りすがりの人から「ノート貸してください」なんて言われたら不気味だろう。圧倒的な美少女なら鼻の下伸ばした男どもが寄ってたかるだろうが、冴えないコミュ障ぼっち男子高校生なら論外だ。そんな実行不可能なオペレーションを強要するのか。
「じゃあ行こっか!」
ぼっちの気も知らないで、なんと勝手な!先生は僕の腕をグイと掴み、職員室に連行していった。花崎さんはニヤニヤしながら連行される僕の後を、治りたてのぎこちない様子でついて行った。
一階職員室に入ると、そこは少し日差しがきつくなり、夏本番を迎えようとしている外とは切り離されたような快適な空間と化していた。さすが独裁政権の間。エコだとか電気代がとかいろいろ理由をつけて温度設定が微妙なところで管理されている教室とは雲泥の差だ。
「前田君、花崎さん、こっちこっち」
案内されるままに、職員室の端にある応接スペースに座らされた。
「二人とも、コーヒーがいい?お茶がいい?」
「はーい、私コーヒー!ミルクいっぱいで」
「前田君は?」
「あの、次の授業の準備があるので」
「大丈夫大丈夫。まだ時間に余裕があるから。で何飲む?」
・・・・・・こちらは全く大丈夫ではない。朝の時間は特に頭に知識を入れやすい時間。さらにこちとら2週間分の授業を復習せねばならんのだ。だが、これはどうあがいても逃がさないつもりだろう。さっさと終わらせるには抵抗よりも従順が得策か。
「じゃあお茶で」
「はいはい~」
そういうと来客用のコップを2つ用意して先生はコーヒーとお茶を準備し始めた。いい香りが漂っている。何事もなければ、そして誰も居なければお茶とコーヒーのいい香りに包まれた爽やかな朝になるのに、この切羽詰まった状況ではなんの癒やし効果もない。
「とりあえず二人が無事学校に来ることができて先生うれしいです」
はいはいそりゃどうも。で、本題は?
「で、一番聞きたいところなのだけど・・・・・・どうして二人は打ち上げの後、みんなと一緒じゃなくて二人きりだったのですか?」
ポットからお茶を注ぎながら、あの事件のことをさらっと聞いてくる。
なるほど、先生の監督責任とかいうやつか。自身が催した打ち上げの帰りに、生徒が事故を起こしたってことになる。ただ幸い、というか不思議と世間では女子高生が男子高校生を救ったいい話で語られているようで、学校側に白羽の矢が立っているとは思えない。男子高校生には「電車止めやがって」「男子格好悪すぎw」「迷惑という言葉知らないんだろうな」などなど思い切り白羽の矢が立ちまくっているが、知ったことではない。言いたいやつには言わせておけばいい。人が死ななかったのだ。それで十分だ。
しかし上手く言わなければならない。下手なことを言えば状況がますます悪化しそうだ。隣を見ると花崎さんが何か作戦があるようで口パクで「ま・か・せ・て」と言っていた。嫌な予感がしたが時すでに遅し、だった。
「実は・・・・・・そのすごく言いにくいんですけど、私たち夜デートしてたんです!そのやっぱり二人きりになりたくて。付き合いたてだし・・・・・・・」
え。
「あらあらあら!前田君、いつのまに彼女なんて作って!成長がうれしいです」
思わず頭を抱える。花崎さんもなんだ、そのうっとりとした、しかも恥じらいながらも可憐さをガンガン飛ばしまくっている。演技が上手すぎる。そもそも男子が女子に鬱陶しいと言うデートなどありえないだろう。
「前田君も頭抱えちゃって、そんなに恥ずかしがらなくてもいいですよ。青春って大事よ」
「そうですよね。前田君、ほら、いつもみたいに」
そういって花崎さんは耳元に近づき、こそっと「あわせて」と言われる。
色恋沙汰。
絶対にこれは忌避したいものだ。
それは学校側も同様ではないか。社会的にも色恋沙汰は口を挟みにくい。屈辱だが、ここは乗るのが最適か。
「はい、確かに僕は、花崎さんと夜・・・・・・デートしてました」
「もうアツアツラブラブよね」
「んっんん、その、まだ二人とも若いからあくまで健全にね」
「前田君は不健全なので、行くとこまでいっちゃうかも」
「それはだめよ!先生としてそれは見過ごせないです!ほら、前田君もしっかりして」
あーもう好きに言ってくれ。もっと糾弾されるのかと思いきやこの茶番はなんなのだ。
「っと、あんまり二人だったことをほじくるのも悪いからこの話は置いときます。それと前田君にも個別に話したいことがあるから、花崎さんは先に戻ってくださいね」
「は~い。じゃあ前田君また後でね~」
花崎さんが出て行った後、幸せそうな顔持ちの先生は話を続けた。
「前田君、何か嫌なことでもあった?」
急にどうしたのだろう。最近は邪魔ばかり入り嫌なことだらけだが、いつも自分の道を邁進している。これまでと何も変わらない。
「ニュースを見てね、電車の事故。その前田君が電車のホームに降りたって」
ああ、そっちか。
「はい、飛び降りましたね」
「だから、なにかあったのかなって。つらいこととか苦しいこととかあったら教えて」
まずこのカウンセリングもどきが苦痛です、なんて言ったら怒られそうだな。
「別に何もないですよ。飛び降りたのは、その、なんというか気分ですね!」
「気分で飛び降りる!?むしろ、そっちの方がもっと問題よ!?」
「どうせ死にはしませんし、まあ社交辞令みたいなもんです」
「社交辞令??」
今度は先生が頭を抱えている。
「ちょっと・・・・・・先生にはよくわからないけど、でも花崎さんが助けてくれたからよかったものの、あのとき前田君一人だったら・・・・・・悲しくなって」
「はぁ」
「先生も花崎さんのものと一緒に寄せ書きとか作ったり、クラスのみんなに前田君のこと聞いたんだけど、全員知らないって。前田君の寄せ書きも真っ白で」
「そうですか」
ふむ、それは良い傾向だ。無関心、つまり他人からの害悪が一切ない状態。ぼっちの理想郷だ。
「いじめとか、ない?」
「ないですね」
「そう・・・・・雪本さんとはどう?」
「どう?と言われましても」
「ここ最近、雪本さんが少し無理している感じがして。先生もなにかあった?って聞いても『大丈夫です』としか答えなくて」
「そうですか」
無理してる感じ、か。僕が原因であるならば問題だ。少し探るか。
「じゃあ、今日はこれで話は終わります。なにかあったら、ううん、いつでもどんなときでも先生のとこに来てくださいね」
「はい」
「あっそれと前田君!休んでいた分の授業のまとめプリント、前田君のためにいろんな先生に聞いて作ったんだけど」
「気持ちはうれしいですが、特別扱いも困ります。一人でやりますよ。全部一人で」
僕は職員室を出た。快適な空間から、またムシッとした劣悪環境が体を重くする。
僕は息を切らしながら2階へ上がった。
「先生は、前田君の味方だから・・・・・・ね」
~~~~~~~~~~~~~
その後の授業は僕の想定どおりの範囲で進んだ。クラス担任が受け待つ現代文以外は休み明けの生徒にも容赦なく回答が指名される。答えられず、無様な姿をさらすと思っていたのか、僕が指名されたときに含み笑いをしていた男子生徒数人は、完璧な答えを述べる僕の姿に唖然としていた。さらに話を聞いていなかったのか今度は彼ら自身が指名されてしどろもどろなり、先生の怒りと周りの嘲笑のサンドイッチになっていた。
歴史の授業は、前回の授業の小テストから始まった。
「前田、小テストお前だけ満点だ。すごいな。休み中もしっかり勉強していたのがよくわかった。先生も関心だ。おまえらも見習えよ」
妬みの視線が痛いな。
「花崎、おまえも98点、よくがんばったな」
「おしかったね~」
「でもこれほとんど満点だよね」
「この問題、一応太字だけど教科書のコラムの隅だからちょっと私、見落としちゃってて」
「普通そうだよね~」
真面目に勉強した僕は異常者扱いか。
「雪本、今回は少し点が落ちたけど、調子悪かったか?」
「いえ、ちょっと覚えきれなかっただけで」
ああ、ひそひそ声が聞こえる。あいつの看病のせいだとか、雪本さんが気の毒だとか好き放題いってくれる。それに雪本さんも気付いているようだ。
「前田君、気にしないでくださいね。私がやりたくてやったことですから」
「大丈夫です。そもそもあいつら眼中にないですから」
その言葉も相手の耳に入ったようで、声の主のチャラい系男子生徒は拳を固く握りしめぷるぷる震えていた。怒り心頭のご様子だ。高血圧で早死にしないようご注意願いたい。
英語、学活は何事もなく終わり、久しぶりの図書室へ向かった。
雪本さんが先に来ており、本を読んでいた。
「雪本さん早いですね」
「はい、ずっと待ってました」
「待つほどの仕事じゃないですよ」
「ううん、すごく待ち遠しかったです」
「それはたいそう仕事熱心なことで。さぁ早いとこ終わらせましょう」
辺りを見渡すと、本の並びが乱雑になっており、散らかりようも酷くなっていた。本だけではない。お菓子の屑や空のペットボトルなど、酷い有様だ。急に図書室の利用者が増えたのか?いや、そもそもどんな使い方をすればこうなるんだ。
「これを毎日一人で片付けてたんですか!?」
雪本さんは何も言わずコクッとうなずいた。病室で見せてくれた、いつもの笑顔が震えていた。
退院した僕は2週間ぶりに学校に通うことになった。長期休み明けの学校への足取りはいつも以上に重い。これだけネット環境が普及した今なら、この通学というもの自体が無駄なのではないか、そもそも学校という大設備自体が無駄なのではないか、など行きたくない理由を頭の中で反芻しながらも、ただただ惰性のままに学校へと歩みを進める。
「あー、着いてしまった」
またこの監獄に一日の大半を拘束されてしまうのか。ため息が漏れる。そして寝たきり状態からいきなり3階の教室まで上がると息切れまで起こす。もう老化現象を感じ始めた。教室に入ると、もうすでに来ていた生徒から一瞬好奇の視線が向けられる。なにか次のアクションがあるのかと思いきや、何事もなかったかのように彼ら彼女らはそれぞれのあるべき日常へと戻った。さすがぼっちだ。全国版で放送されようとも無関心である。
「前田君。おはようございます」
「え、ああ、おはようございます。雪本さん」
隣の席にはもうすでに雪本さんがいた。雑巾を持って、僕の机と自分の机をきれい拭いていた。アルコール消毒液まで用意して、そこまでしなくてもいいのに。ウイルス性の病気で休んでいたわけではないのだから。だが入院中もほぼ毎日会っていたせいか、雪本さんの姿を見て少し落ち着いた。
「前田君は、体もう大丈夫なんですか」
「おかげさまで」
「それはよかったです。」
会話終了。コミュ障ぼっちとはこういうものだ。話の盛り上げ方もつなげ方もわからない。それゆえにぼっち。しかしそんなことを全く気にもしない、それがぼっちを極めた僕。さていつものように授業の復習を・・・・・・。
その時、僕は気付いてしまった。
2週間分の授業のブランクをどうすればいいのかと。
「あーみんなおはよー」
教室の扉が開くと、ぱっと花が咲いたような笑顔でクラスメイトが駆け寄る。花崎さんだ。
「あっ!花崎さん、今日から登校できるんだ~」
「怪我大丈夫だった!?」
「ニュース見たよ~、災難だったね」
「感謝状もらったんでしょ!さすが花崎さん!」
僕の時とえらい違いだな。
「お医者さんも驚くほど治りが早くて。みんなが寄せ書きとかお見舞いとか来てくれたおかげかな」
「そんなこと全然いいよ~。ほらっ、これ、花崎さんが休んでた分の授業ノートだから、よかったら私の見て」
「俺も用意したんです!是非活用してください」
おーおー、さすが人望の厚い人は違うな。さぁ、そんな人のことは放っておいて・・・・・・どうする。小中学校はどんなことがあろうと毎日出席して、授業に穴を開けるなんて経験はなかった。頭を回転させろ!ぼっちの強みは何だ。
「あ、その、えっと前田君、よかったら私のノー・・・・・・」
「雪本さん!」
「え!?はい!」
「今日の時間割は?」
「えっと、時間割どおり変更はなしで、一時間目数学、二時間目現代文、三時間目歴史、四時間目英語、五時間目学活です」
時間割通り。よし教科書、問題集、ノートは持ってきている。ブツさえそろえばあとはこっちのものだ。朝のホームルームが始まるまでに、いや朝のホームルームもそっちのけて授業が始まるまで、徹底的に自習してやる!一問のこらず!
あとはひたすら自分との闘いだ。ノートに記入する時間はない。まずは数学。すべて頭の中で計算を行う。ここ最近の単元は公式を覚えてひたすら当てはまればいいだけだ。現代文。ひたすら文章を読んで、問題集の設問を暗記する。登場人物の感情など知ったことか。お偉い先生が模範解答として考え出したものを丸パクリすればよい。歴史。黒太文字を一問一答で仮暗記。ストーリーは追々つかもう。英語は・・・・・・苦手科目は禁じ手教科書解説本を使おう。全日本語訳完備、問われやすい設問も日本語で完備。
「よし、こんなもんか」
「・・・・・・前田君!」
「え?」
顔を上げるといつのまにか朝のホームルームが終わっていた。そして先生が目の前にいた。
「あっ、はいなんでしょうか」
「ようやく気付いた~。ちょっと職員室まで来てもらってもいいかな?それと花崎さんも」
「後にしてください!」
「あら、ずいぶん反抗的だね」
「この後の授業の予習に忙しいのです」
「真面目なのはいいことだけど、となりの人に見せてもらったらいいよ~その方が効率的でしょ?」
違います先生。その方法は友達が居る人にとっての最善策であり、ぼっちにとってその方法は愚策中の愚策。ただの知り合い、いや僕はそれ以下か。街中の通りすがりの人から「ノート貸してください」なんて言われたら不気味だろう。圧倒的な美少女なら鼻の下伸ばした男どもが寄ってたかるだろうが、冴えないコミュ障ぼっち男子高校生なら論外だ。そんな実行不可能なオペレーションを強要するのか。
「じゃあ行こっか!」
ぼっちの気も知らないで、なんと勝手な!先生は僕の腕をグイと掴み、職員室に連行していった。花崎さんはニヤニヤしながら連行される僕の後を、治りたてのぎこちない様子でついて行った。
一階職員室に入ると、そこは少し日差しがきつくなり、夏本番を迎えようとしている外とは切り離されたような快適な空間と化していた。さすが独裁政権の間。エコだとか電気代がとかいろいろ理由をつけて温度設定が微妙なところで管理されている教室とは雲泥の差だ。
「前田君、花崎さん、こっちこっち」
案内されるままに、職員室の端にある応接スペースに座らされた。
「二人とも、コーヒーがいい?お茶がいい?」
「はーい、私コーヒー!ミルクいっぱいで」
「前田君は?」
「あの、次の授業の準備があるので」
「大丈夫大丈夫。まだ時間に余裕があるから。で何飲む?」
・・・・・・こちらは全く大丈夫ではない。朝の時間は特に頭に知識を入れやすい時間。さらにこちとら2週間分の授業を復習せねばならんのだ。だが、これはどうあがいても逃がさないつもりだろう。さっさと終わらせるには抵抗よりも従順が得策か。
「じゃあお茶で」
「はいはい~」
そういうと来客用のコップを2つ用意して先生はコーヒーとお茶を準備し始めた。いい香りが漂っている。何事もなければ、そして誰も居なければお茶とコーヒーのいい香りに包まれた爽やかな朝になるのに、この切羽詰まった状況ではなんの癒やし効果もない。
「とりあえず二人が無事学校に来ることができて先生うれしいです」
はいはいそりゃどうも。で、本題は?
「で、一番聞きたいところなのだけど・・・・・・どうして二人は打ち上げの後、みんなと一緒じゃなくて二人きりだったのですか?」
ポットからお茶を注ぎながら、あの事件のことをさらっと聞いてくる。
なるほど、先生の監督責任とかいうやつか。自身が催した打ち上げの帰りに、生徒が事故を起こしたってことになる。ただ幸い、というか不思議と世間では女子高生が男子高校生を救ったいい話で語られているようで、学校側に白羽の矢が立っているとは思えない。男子高校生には「電車止めやがって」「男子格好悪すぎw」「迷惑という言葉知らないんだろうな」などなど思い切り白羽の矢が立ちまくっているが、知ったことではない。言いたいやつには言わせておけばいい。人が死ななかったのだ。それで十分だ。
しかし上手く言わなければならない。下手なことを言えば状況がますます悪化しそうだ。隣を見ると花崎さんが何か作戦があるようで口パクで「ま・か・せ・て」と言っていた。嫌な予感がしたが時すでに遅し、だった。
「実は・・・・・・そのすごく言いにくいんですけど、私たち夜デートしてたんです!そのやっぱり二人きりになりたくて。付き合いたてだし・・・・・・・」
え。
「あらあらあら!前田君、いつのまに彼女なんて作って!成長がうれしいです」
思わず頭を抱える。花崎さんもなんだ、そのうっとりとした、しかも恥じらいながらも可憐さをガンガン飛ばしまくっている。演技が上手すぎる。そもそも男子が女子に鬱陶しいと言うデートなどありえないだろう。
「前田君も頭抱えちゃって、そんなに恥ずかしがらなくてもいいですよ。青春って大事よ」
「そうですよね。前田君、ほら、いつもみたいに」
そういって花崎さんは耳元に近づき、こそっと「あわせて」と言われる。
色恋沙汰。
絶対にこれは忌避したいものだ。
それは学校側も同様ではないか。社会的にも色恋沙汰は口を挟みにくい。屈辱だが、ここは乗るのが最適か。
「はい、確かに僕は、花崎さんと夜・・・・・・デートしてました」
「もうアツアツラブラブよね」
「んっんん、その、まだ二人とも若いからあくまで健全にね」
「前田君は不健全なので、行くとこまでいっちゃうかも」
「それはだめよ!先生としてそれは見過ごせないです!ほら、前田君もしっかりして」
あーもう好きに言ってくれ。もっと糾弾されるのかと思いきやこの茶番はなんなのだ。
「っと、あんまり二人だったことをほじくるのも悪いからこの話は置いときます。それと前田君にも個別に話したいことがあるから、花崎さんは先に戻ってくださいね」
「は~い。じゃあ前田君また後でね~」
花崎さんが出て行った後、幸せそうな顔持ちの先生は話を続けた。
「前田君、何か嫌なことでもあった?」
急にどうしたのだろう。最近は邪魔ばかり入り嫌なことだらけだが、いつも自分の道を邁進している。これまでと何も変わらない。
「ニュースを見てね、電車の事故。その前田君が電車のホームに降りたって」
ああ、そっちか。
「はい、飛び降りましたね」
「だから、なにかあったのかなって。つらいこととか苦しいこととかあったら教えて」
まずこのカウンセリングもどきが苦痛です、なんて言ったら怒られそうだな。
「別に何もないですよ。飛び降りたのは、その、なんというか気分ですね!」
「気分で飛び降りる!?むしろ、そっちの方がもっと問題よ!?」
「どうせ死にはしませんし、まあ社交辞令みたいなもんです」
「社交辞令??」
今度は先生が頭を抱えている。
「ちょっと・・・・・・先生にはよくわからないけど、でも花崎さんが助けてくれたからよかったものの、あのとき前田君一人だったら・・・・・・悲しくなって」
「はぁ」
「先生も花崎さんのものと一緒に寄せ書きとか作ったり、クラスのみんなに前田君のこと聞いたんだけど、全員知らないって。前田君の寄せ書きも真っ白で」
「そうですか」
ふむ、それは良い傾向だ。無関心、つまり他人からの害悪が一切ない状態。ぼっちの理想郷だ。
「いじめとか、ない?」
「ないですね」
「そう・・・・・雪本さんとはどう?」
「どう?と言われましても」
「ここ最近、雪本さんが少し無理している感じがして。先生もなにかあった?って聞いても『大丈夫です』としか答えなくて」
「そうですか」
無理してる感じ、か。僕が原因であるならば問題だ。少し探るか。
「じゃあ、今日はこれで話は終わります。なにかあったら、ううん、いつでもどんなときでも先生のとこに来てくださいね」
「はい」
「あっそれと前田君!休んでいた分の授業のまとめプリント、前田君のためにいろんな先生に聞いて作ったんだけど」
「気持ちはうれしいですが、特別扱いも困ります。一人でやりますよ。全部一人で」
僕は職員室を出た。快適な空間から、またムシッとした劣悪環境が体を重くする。
僕は息を切らしながら2階へ上がった。
「先生は、前田君の味方だから・・・・・・ね」
~~~~~~~~~~~~~
その後の授業は僕の想定どおりの範囲で進んだ。クラス担任が受け待つ現代文以外は休み明けの生徒にも容赦なく回答が指名される。答えられず、無様な姿をさらすと思っていたのか、僕が指名されたときに含み笑いをしていた男子生徒数人は、完璧な答えを述べる僕の姿に唖然としていた。さらに話を聞いていなかったのか今度は彼ら自身が指名されてしどろもどろなり、先生の怒りと周りの嘲笑のサンドイッチになっていた。
歴史の授業は、前回の授業の小テストから始まった。
「前田、小テストお前だけ満点だ。すごいな。休み中もしっかり勉強していたのがよくわかった。先生も関心だ。おまえらも見習えよ」
妬みの視線が痛いな。
「花崎、おまえも98点、よくがんばったな」
「おしかったね~」
「でもこれほとんど満点だよね」
「この問題、一応太字だけど教科書のコラムの隅だからちょっと私、見落としちゃってて」
「普通そうだよね~」
真面目に勉強した僕は異常者扱いか。
「雪本、今回は少し点が落ちたけど、調子悪かったか?」
「いえ、ちょっと覚えきれなかっただけで」
ああ、ひそひそ声が聞こえる。あいつの看病のせいだとか、雪本さんが気の毒だとか好き放題いってくれる。それに雪本さんも気付いているようだ。
「前田君、気にしないでくださいね。私がやりたくてやったことですから」
「大丈夫です。そもそもあいつら眼中にないですから」
その言葉も相手の耳に入ったようで、声の主のチャラい系男子生徒は拳を固く握りしめぷるぷる震えていた。怒り心頭のご様子だ。高血圧で早死にしないようご注意願いたい。
英語、学活は何事もなく終わり、久しぶりの図書室へ向かった。
雪本さんが先に来ており、本を読んでいた。
「雪本さん早いですね」
「はい、ずっと待ってました」
「待つほどの仕事じゃないですよ」
「ううん、すごく待ち遠しかったです」
「それはたいそう仕事熱心なことで。さぁ早いとこ終わらせましょう」
辺りを見渡すと、本の並びが乱雑になっており、散らかりようも酷くなっていた。本だけではない。お菓子の屑や空のペットボトルなど、酷い有様だ。急に図書室の利用者が増えたのか?いや、そもそもどんな使い方をすればこうなるんだ。
「これを毎日一人で片付けてたんですか!?」
雪本さんは何も言わずコクッとうなずいた。病室で見せてくれた、いつもの笑顔が震えていた。
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