「ぼっち」が結ばれるわけがない!

前田 隆裕

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18話~いざ公表!~

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18話~いざ公表!~
僕と朝風さんは今回得た情報と、すでに朝風さんが抑えていた雪本さんに対するいじめの情報とを組み合わせた新聞を、学活の新聞として校内に大々的にばらまいた。雪本さんの名前は伏せておいたが、加害者についてはしっかり実名報道だ。
「ちょっと!?なにしてるんだ君達!?って朝風か!また変な新聞ばらまいて」
 体育の先生が僕と朝風さんの制止に入る。
「私達はただ真実を報道しているだけですよ。先生も一部どうぞ!」
「お前の新聞は偏り過ぎてんだ。ん・・・・・・どれどれ、これはっ・・・・・・まずいな」
 体育の先生はそのまま校長室に僕と朝風さんを連れて行った。初めて入ったが、周りは数々のトロフィーや盾、優勝旗が飾られ、黒い本革製の椅子が入り口に面と向かって置かれている。手前には高級そうな檜の机が置いてあり、独裁政権トップの間は伊達じゃないと感じた。
「校長先生、二人を連れて参りました」
「ああ、ありがとう。先生はもう帰っていいよ」
「はい」
 体育の先生は退室し、僕と朝風さんは手前の応接室の椅子に座るように指示された。職員室に併設の応接室とは格が違う。椅子はふかふか。机もしっかりした造りだ。
「さて、前田君と朝風さん。新聞、見させてもらったよ。大変センセーショナルな内容だったね」
「そうでしょう!そうでしょう!悪即斬!大変気持ちいいです」
「彼らがこの記載のとおりのことをしていたのなら、重大な問題だ」
 していたのなら?僕にはその含みのある言い方が引っかかった。
「はい、重大な問題です。これを報道できたことを私は誇りに思います」
「うんうん、だが、彼らもまだ若い。こういう失敗だってあるだろうな」
 ・・・・・・失敗?校長先生の目にはこれが単なる青春の一ページを飾る失敗程度に映っているのか?
「それに暴行と書いているが証拠もないだろ?暴行を受けたはずの前田君もピンピンしているじゃないか。それに当校の女子高生の机に落書き?図書室あらし?各クラスの先生に確認したけど、どの机も酷い落書きなんてなかったと言う回答があったよ。まぁ、ちょっと図書室の使い方が荒かったとは聞いたけど、私が見たときはいつもきれいだった。まぁここまでのことを君達がしたわけだから、彼らにも行き過ぎたところがあったのかもしれない。だが彼らも謝意を見せていたよ。ほら、謝罪の手紙も預かっている。だから、これは誤報ということで引っ込めてくれないかな」
「校長ともあろう人が!」
 朝風さんは怒鳴っていた。高校一年生の生徒が学校のトップに物怖じせず、体を怒りで震わせ、威圧する。今にも飛びかかりそうな勢いで、その覇気は僕の心まで震え上がらせる。
「真実をねじ曲げろということですか!」
「そっ、そういうわけではない。これは一生徒が扱っていい問題じゃない。きちんと職員会議にあげて、検討を重ねて・・・・・・」
「で、なかったことにするんですよね」
「くっ」
 図星だったようで、校長先生が頭を抱えていた。問題を起こしたくない。事なかれ主義。それに続く偽りの平穏。一部生徒の我慢による虚偽の安寧。校長先生も家族が居る。これが大々的になれば、当然何らかのおとがめが来るだろう。最悪クビだ。
「朝風さん、その辺でやめときましょう」
「前田君、君も校長に屈するのか!?見損なったぞ!」
「いや、朝風さん、僕たちは報道する場所を間違えた」
「・・・・・・!?そうだ!そうだな!やっぱり君は最高だ!」
「何をするつもりだ」
「とりあえず教育委員会ですかね。あと警察。ついでにマスコミにでも持って行きますか~」
 校長の生活など知ったことではない。それ相応の報いを受けろ。
「ふん、好きにしろ。証拠もない君達に取り合ってくれるわけがない。とりあえず、今回の新聞は職員会議と私の名において、誤報であった、いじめはなかったと公表しておくよ」
「校長の口調が少し荒くなりました。今の言葉もいい資料になりましたね」
「ああ!前田君と一緒に来て、今人生最大の高ぶりを感じているよ」
「どうした?」
「いえ、ただの資料集めです。きっちり録音の方もいただきました」
「なに!?そんなもの許可した覚えはないぞ」
「許可、いるんですかね?とりあえず、聞きたいことは聞けたので、僕は失礼します」
「私も失礼しま~す」
「退室も許可していない!」
 校長先生が出口に立ち塞がる。
「出してくれないのか。あっそうだ、今、朝風さん、スマホ持ってましたよね。ネットにも流そうか」
「永久にデジタルタトゥーとして残してやるのも悪くないな。ククク、前田君、おぬしもなかなかやるのぉ~」
「や、やめろ!」
 手を振りかざし、朝風さんに手を出そうとした。暴力・・・・・・か。
「きゃっ!?」
「校長先生、そこまで罪を重ねないでください。すべて記録されてるんですよ」
 僕は力を行使し、校長先生の足の重心を崩した。端から見れば、殴ろうとして自分で転んだ感じだ。校長先生は、太った体から汗をだくだく放出し、崖っぷちに立たされたかのようにおびえている。これからと殺処分でも行われるかのような、太った家畜だ。
「さっき証拠はないっておっしゃいましたよね?でも実は証拠はバッチリなんですよ。いじめの資料、暴行の資料、今回の資料以外にもたくさん準備してるんです。あとは公表するだけ」
「・・・・・・お前ら、ただで済むと思うなよ」
「はい、録音録音、メモメモ、校長先生が生徒に脅し文句」
「・・・・・・っ!?」
 何も言えなくなった校長先生は無力と化し、僕と朝風さんは校長室を後にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 その後、この情報はだれかがSNSに投稿したようでマスコミの耳に入り、大々的に報道された。そして熱い世論に流される形で教育委員会が動き、加害者生徒は退学処分、校長先生は当該事件の隠蔽かつ生徒に危害を加えようとした行為から懲戒免職処分という非常に重い扱いに決定した。僕と朝風さんはただ学活の校内新聞を発表しただけ。その後の拡散スピードは、目をみはるものだった。
「やぁ前田君!君のおかげで私の新聞がすごい売れ行きだよ」
「いえ、こちらこそ朝風さんのおかげで、目的をなしえました。スマホ代も弁償してもらって、前よりいい機種に変わりましたよ。これでチャラです。」
「ククク、壊れたスマホもデータはきちんと残っていたし、いい証拠になった。なぁ、前田君?ぜひとも新聞同好会に入らないか?」
「大変魅力的なお誘い、痛み入ります。ですが僕は・・・・・・」
「おいおい、そんなにへりくだるな。私は君の上司ではないぞ。君と同等の立場で、一緒にやっていきたいんだ。社交辞令なんて置いといてさ」
 そんな時、ガラッと新聞同好会の扉が開いた。
「ごめんください・・・・・・はぁ、はぁ、あっ前田君!ここにいたんですね。探しました」
「雪本さん、どうしましたか?」
 息を切らしている。相当急いできたようだ。
「あ、前田君とその・・・・・・」
「私は新聞同好会の部長、朝風琴葉、いずれ新聞部をぶっ潰す女だ。よろしくっ!」
「前田君と朝風さん!・・・・・・ありがとうございました!」
 深々とお辞儀をする雪本さん。お辞儀の角度が九十度以上だ。
「いやいや、お礼を言われるほどのことはしていないよ。私はこの学校の闇を断罪したかっただけだからね。だが、前田君の方はちょっと違っていたみたいだけどね」
「いや、僕もいちゃもんつけられたので、正当防衛をしたまでです」
「雪本さん、これは前田語だ。翻訳すると『君を守れてよかった。これからも僕が君を守るぜっ』だな」
「はい、私にもそう伝わりました」
「どうしたらそう曲解できるのでしょうか!?」
「長い付き合いだ。君の事なんて何でもわかってしまうのさ」
「入学して数ヶ月程度、しかも新聞を買いに来ていただけ。そんなに長い付き合いでもないと思いますが」
「あの・・・・・・助けてもらってこんなの事聞くのは変かもしれないんですが、前田君と朝風さんって・・・・・・?」
「ただの新聞店員と客ですね」
 僕がそう伝えると雪本さんはほっとしたように胸をなで下ろす。それを見ていた朝風さんがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。嫌な予感がした。
「私はね、前田君、君が欲しいんだ」
 その時、雪本さんの体がビクッと震えたのがわかった。
「今回の出来事で二人は店員と客を超えた、そう、いわば禁断の関係に陥ってしまったのだよ!一緒に男子トイレに入って、あんなことやこんなこと、いろいろあったなぁ・・・・・・なぁ前田君!」
 いつもの穏やかな雪本さんのまなざしが、どす黒い憤怒のまなざしに変わっている。
「前田君?ちょっと後で図書室、いいですか?」
「そんなに興奮しないでください」
「あ、いつぞやの首相の名言」
「笑い事じゃないんです。朝風さんは静かにしてくださいっ!」
あれー恨まれちゃったかな~?と朝風さんがこれだけたきつけておいて他人事である。
 僕は言われるがまま雪本さんに図書室まで連こ・・・・・・ついて行った。そして無言のまま図書室に入った瞬間、雪本さんは内鍵をかけた。こわいこわいこわい。
「どうかしましたか」
「・・・・・・いろいろ気付いていましたよね」
「なにをです?」
「あの新聞が出されてから、いろいろなくなったんです。その、いろいろが」
「そうですか」
「また・・・・・・守られちゃいました」
 そう言うと雪本さんは僕に駆け寄り、顔を押しつけるようにして僕の体に顔を埋めた。華奢な体が規則的に震えている。軽いはずの体がとても重く感じた。
「ありがとう、ございます。それと・・・・・・ごめんなざい・・・・・・っ・・・・・・ぅ、わたし、よわくて」
「ああ、確かに弱いですね」
「・・・・・・っ、ごめんなさい。わたしは我慢しかできなかった。何も・・・・・・できなかった」
「弱いなら、群れたらいい。きっと守ってもらえる」
 それが普通は一番楽な選択だ。一人の力なんてたかがしれている、協力は強力なり、一致団結、力を合わせれば何だってできる、三人居れば文殊の知恵、ワンフォーオール、三本の矢。使い古されたような群れを推奨する言葉の数々。どれもこれも長い歴史の中で人々の心を打ってきた言葉だ。感動する物語は、たとえ最初はぼっちでも、主人公には仲間、ハーレム、最愛の人が現れる。そしてあたかもそんな人と群れることがハッピーエンドだと錯覚する。別れ、孤独を悲劇と捉える。だが・・・・・・
「僕は弱かった。そして群れることすらできなかった。誰も助けてくれない。みんな敵。だから強くなるよりほかなかった。今が強いかどうかはわからないが、自分のやりたいこと、我を通すには強くなるしかない。雪本さんはどうしたいん・・・・・・ですか?」
 雪本さんは僕の胸に顔を埋めたまま何も答えない。ただ体を震わし、時々嗚咽をもらす。
「私は、強く、強くなりたい・・・・・・っ!」
 明確な強い意志。友達ゼロ、誰も助けてくれない、そんな中でも自分を信じて進めるそれだけの強い意志。消極的なぼっちと思っていたが、すこし印象が変わったな。
「そうか、それじゃ、ぼっち確定・・・・・・ですね」
「ううん。前田君がいるから、私はぼっちじゃないですよ?」
「友達になった覚えはないですが」
「ふふふ、前田君の言葉はちょっと意訳しないといけないですからね。ちゃんと伝わってます」
「そのままの意味なんですが、僕はぼっち・・・・・・」
 ふと我に返った。
あれ?なんでそもそもこんなことを語ったりしているのだろうか。普段の僕なら、『そうなんですね!よくわかりました。それじゃスクールカウンセラーを呼びましょう。それじゃ!』と別れるだろうに。最近、この新聞の件といい、電車を止めた件といい、他人に介入しすぎではないか。僕は友達なし、彼女なし、四六時中一人のぼっちのはずだぞ。僕自身が変わり始めている?いや、そんなことはない。人助けをすることは当たり前のことだ。社交辞令だ。たまたまこれは当事者になっただけだ。倫理の教科書にも載っていたではないか。よちよち歩きの赤ちゃんが井戸に落ちそうになっているのを見かけたら、だれでもそれを制止するように一般的な行動を取っているだけだ。そう、僕はぼっちだ!
「あっ、あとこのデートの契約書、よろしくお願いします」
「それは無効じゃ・・・・・・」
 雪本さんは赤い目をこすりながら、無効じゃありません~と契約書の指印欄をこれ見よがしに見せつけている。
「それと、泥棒猫も追い払わないといけないですね~」
え。
 最近、雪本さんが怖くなったと感じるのはなぜだろうか。やはり人というのは恐ろしいのだと、ぼっちこそ至高なのだと再確認するのであった。
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