冬の春

卯之はな

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冬の春

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白鳥のわたしは、冬を超すために寒いところに移動しなきゃいけない。
だから、仲間と一緒に海を渡る長い旅をしていた。
でも途中で、仲間とはぐれてしまったの。

これは、わたしが初めて冬を体験した、物語。



他の白鳥を探してあたりを飛び回っても、
見つけることはできなかった。

やがて夜になり、途方に暮れて、暗い湖に浮かんでいると、

「こんにちは! 白鳥さん。
 白鳥さんがこの湖にとまるのは珍しい!
 いつもここは素通りしていくからね」

鯉さんが、水面から顔を出して話しかけてきた。

「こんにちは。 鯉さん。
 実は、たくさんの仲間と住む場所を探していたんだけれど、
 迷子になってしまって…。
 はじめての冬で、わたし、どうしたらいいかわからないの」

「それはさぞかし心細いでしょう!
 でも大丈夫よ。 
 ここの森の動物たちはやさしいから、
 困ったことがあればなんでも聞いて」

「そうさ。 
 もし、いじわるをするやつがいたら、おれがこらしめてやる」

いつの間にか湖のほとりまで来ていたからだの大きなくまさんが、
おしゃべりに入ってきた。
二本足で立つくまさんは余計に大きく見える。
でも、やさしい顔をしていたから、わたしは怖くなかった。

鯉さんはうれしそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。

「ちょうど良かったわ! くまさん。
 白鳥さんが、迷子になってしまったんですって。
 冬の過ごし方もわからないようだから、
 みんなで助けてあげましょう」

「そうだな! さっそく森の動物たちにも声をかけておくよ」

「ありがとうございます!」

くまさんは、楽しそうに森へ帰っていった。
次の日から、森の動物さんたちからわたしに話しかけてきてくれた。

白鳥じゃない鳥さんは、
「冬が好きな鳥が行きそうなところを知っているわ!
 ついてきて!」
と、仲間探しを手伝ってくれて、

森のりすさんや、やまねこさんは、
「羽休めするにちょうどいい景色がいい場所があるぜ」
「山を超えるとき、とがった大きな岩があるから気をつけてね」
と、たくさん森のことを教えてくれた。

わたしが仲間探しをあきらめそうになったときも、
きっと大丈夫!とはげましてくれたから毎日がんばれた。

同じ白鳥がいなくても、ひとりじゃなかった。



わたしは最近仲良くなったうさぎさんとおしゃべりを楽しんで、
湖のお気に入りの場所にぷかぷか漂っていた。

今日もみんなとおしゃべりできて、楽しかったなぁ!

わたしは羽をのばし あたたかな日差しで日向ぼっこをしていた。
うとうとと眠りかけていたら、

カシャ

と、何かの音がする。
振り向くと、そこには男の子がいた。
男の子の手にはへんてこな箱がにぎられている。

「おどろかせてごめんね。
 あまりにきれいだから、撮らずにはいられなかったよ」

なんだか不思議なひとだなぁと思いながら、
わたしは静かに水面から飛び立った。

最後にまた、カシャ という音がしたけど
振り向かずに飛び続けた。



その数日後、わたしは箱を持った彼とまた出会う。
つばさを広げてその場を立ち去ろうとしたとき、

「あのときのお礼をしたいんだ!」

そして、ポケットから一枚の紙を取り出しわたしに見せた。
そこには、
美しいほど晴れ渡った空と緑のおいしげる山を背景に、
わたしの飛び立つ瞬間が写っていた。

「きみのおかげでこんな素晴らしい写真が撮れたんだ。
 ありがとう」

と言われたけど、
こっちこそきれいに撮ってくれてありがとう と言いたかった。

そのあとに、少し距離をあけたまま彼と時間を過ごした。

彼はほかにも写真というものを見せてくれて、
よくわたしがお世話になっている動物たちも写っていた。

人間に撮られているのを知らずに警戒心のない顔は、
まるで写真のなかで生きているかのようだった。

この一瞬を捕らえるのが、彼のお仕事。
写真家としてカメラを持ち続けているのだった。

「本当は、動物たちに気づかれずに
 いかに自然体を撮れるかのお仕事なんだけど、
 きみには見られちゃったね」

彼がくすっと照れくさそうに笑った。

それから、カメラのお話もしてくれた。
興味深そうにのぞきこむ私に、むずかしいことも教えてくれた。

こんなものを作れる人間って、器用で頭が良くておもしろい。

同時に、彼が魅力的だった。

また、お話を聞きたい。 そう思って、今日は寝床に帰った。



次の日、また次の日も彼は同じ場所に来ていた。
じっと獲物を待ち構える動物のように、
絵になる瞬間を待ち続けていた。

じゃまをしないように遠くから見守っていたけど、
彼はわたしの視線に気づいて笑顔を向けてきた。

普段から気配を読まれないように気をつけているからか、
その逆も詳しいみたい。



それから、きびしい冬がきた。

あたりには雪が高くつもっていて、
彼の移動は見ていてとても大変そうだった。
でも、彼はどんなときでもきらきらしていた。

そして、写真の中に写る動物たちも輝いていた。

カメラを向けて、わたしにシャッターを押す。

「雪と同じくきみは、白く輝いているよ」

いつもの照れた顔で言ってくれたの。
わたしも照れ隠しのように顔をそむけた。



雪が舞い落ちるように、ゆっくりと時間が過ぎていった。
もうすぐで、今年の冬が終わる…。



彼は、湖のほとりにわたしに会いにきてくれた。
そして、とてもうれしそうな顔をして言う。

「自然の写真コンテストで優秀賞をもらったんだ。
 きみが、一番になったんだ」

手に持っていたものをぱらぱらとめくると、
全部に白い鳥…白鳥のわたしが写っていた。

飛んで彼のところに降りるところ。
湖でじゃれて羽をばたつかせているところ。

たくさんのわたしを見ていてくれていた。

「きみがすてきで、美しい鳥だから、
 ぼくはみんなに認められたんだ。
 ありがとう、白鳥さん」

そして、大好きなかわいい照れ笑いをしながら、
羽のところをやさしくなでてくれた。

彼の言ってくれた言葉はうれしかったけど、それはちがう。

「あなたが撮ってくれるから、みんなすてきに写るのよ」

声にならない声でつぶやいた。



彼との別れは辛かったけど、また一羽でもここに戻ってくるだろう。
森の動物たち…写真家の彼…わたしは大切なみんなを忘れない。
思い出とともに、次の冬まで生きてみせる。

恋した白鳥のはなしは、これでおしまい。

風のうわさで、渡り鳥の話を聞いたのだけれど、
ひとりの写真家が撮った白鳥の写真のおかげで
動物を撮ろうとする多くの写真家たちが集まっているらしい…。

動物たちは生き生きとした自分を撮ってほしくて、
自分磨きにはりきっているって。

わたしはそれを誇らしく思いつつ、小さく相槌をうって聞いていた。



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