勇者大戦 ~英雄Aくんの災難 12人の勇者バトルロイヤル~

田中よしたろう

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地獄の毒々ゾンビ勇者

第1話 おっちんだ

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「ハアッ、ハアッ、ハッ!!」

 強化魔術が切れたのか、ひどく息が切れる。さらに心臓が口から飛び出そうに脈打っている。

「こっちに逃げたぞ!!追えっ!!」

「あそこだ!!回りこめっ!!」

 追っ手の声がすぐそばから聞こえる。だいぶ距離を詰められた。くそ、最初に状態異常魔術を掛けたはずなのに、効果が無くなるのが早すぎる。
 うっそうとした林が俺の姿を隠してはいるが、追跡に長けた兵士にはすぐに見つかってしまう。

「この先は崖だっ追い込めっ!!」

 俺が逃げている先には断崖が壁のようにそびえ立っている。いつの間にか岩山の麓まで追いつめられていたらしい。
 
「くっ」

 俺は岩肌に縋り付くようにぶつかるとそれを登ろうとした。
 
 ダガンッ!!

 登り始めた顔のすぐそばに爆発魔術が撃ちこまれる。
 その衝撃にたまらず、ずり落ちた。

 その周りを十人ほどの追跡者が取り囲む。

「キヤス・オールドリン。そこまでだ!!」

 追跡者の一人が俺の名前を叫ぶ。

「誰ですか?それ。人違いです。私はケリー・アルガ。流しの魔術師です」

「ならば、なぜ逃げた?」

「武装した大勢の人間に追われれば誰だって逃げますよ」

「この期に及んで言い逃れか?俺の顔を忘れたか?」

 追跡者のリーダーらしき一人が鎧の面頬を上げる。

「……誰です?」

「貴様は貴族でありながら侯爵の顔も知らんのか?」

「あいにく貧乏男爵の三男でしてね。社交界とはとんと縁がなくて」

「魔王討伐の戦勝式であっただろうが。礼を知らぬ男だとは思っていたがここまでとは」

「魔王殺しの勇者を武装して追っかけまわしてる人に礼儀だなんだと言われたく無いですな。それで、その侯爵様が何の御用で?現場に出てくる立場じゃ無いでしょう」

「……貴様のような男が、さらに死霊魔術師(ネクロマンサー)が勇者とはグラム王国としては認められん。そういうことだ」

「……そうですか」

 疎まれ、蔑まれ、いないものとして扱われてきた人生で、初めて日の目を見る。やっと褒められると子供のように喜んだのがいけなかった。油断した。
 俺にそんな人生歩めるはずがないのに。

 魔王を倒した報酬で、子爵に叙勲される事になったその式典の前日。寝込みを襲われた。
 食事に含まれた魔法薬で魔力を抑えられ、コツコツ増やしてきたアンデッド軍団も「聖女」に浄化されていた。
 というか聖女ってなんだよ。そんなの王国にいたのか?聞いたこと無かったぞ。お前が魔王を倒しに行けばよかっただろ。
 あのクソ売女め。いつか犯してやる。
 ……くやしいから一応相性問題で負けたという事にしておいてやろう。

 実家はどういう反応をするだろうな?いや、口減らしのために討伐軍に入れられた様なものだし、早々に勘当されてるか。

「本来なら、討伐軍の長たる我が息子が華々しく勇者として凱旋するはずだったのだ。それをお前などが……」

 侯爵は苦汁を滲ませた顔でそうつぶやいた。

「ああ、あの、人をF級魔導騎士だって馬鹿にしくさって下さった、A級の団長さんですか?俺を奴隷みたいに扱って、一応貴族の末席ですよ?」

 王国では貴族は魔力量とそれを組み合わせた剣技の威力でA級~F級と位分けがされている。当然A級が一番凄くて俺は最下級のF級だ。
 だから誰も覚えたがらない死霊魔術なんてものに手を出さざるを得なかった。

 普通の人間は定番の魔術を万遍なく覚える。
 だから厳密に~魔術と分けられている分けでは無いが、マイナーな系統の魔術はそれ専門に覚える人間が多く、使う魔術の名前で呼ばれる事が多い。
 死霊魔術師もその一つだ。

 そういえば俺に死霊魔術を教えてくれた師匠はどうしたんだ?
 妙にこっちの手札が封じられるのが早い。もしかして裏切ったのか?あれだけ魔族の死体を融通してやったのに。
 いや、あの腐れた性根なら侯爵に手を貸していてもおかしくはないが。

「貴方の息子さんは本当に無能でしたよ。さらに品性が下劣。あれだけA級だなんだってイキってた癖に魔族の最下級の幹部に瞬殺されるなんて。ほんと無様。その尻拭いで私がどれだけ地獄のような苦しみを味わってきたか。自分は序盤で死んで楽になるなんて。F級の私があんなに頑張ったのに。馬鹿にされ損じゃないですか?」

 俺は素直な心情を吐露した。最大級に見返して罵倒してやりたい連中はもうあの世なのだ。もう、勝ち逃げみたいなものである。

 それが侯爵にとって最大の煽り文句で、挑発になると知りながら。

「……」

 侯爵は無言で剣を抜くと俺の腹に突き刺した。怒り心頭になると人は寡黙になるものですな。

「ぐはっ」

 冷たい死の感触が体に忍び込んでくる。

 暖かい血液がのど元にせりあがって来るがぐっと我慢して、俺は体内に増設したもう一つの胃袋に溜めていた液体を吐き出した。

「ぼべーーーーーーー」

 俺が吐き出した白い液体は剣を突き刺していた侯爵の顔にまともに掛かる。

「ぐおっ」

 たまらず侯爵は飛び退ると、顔を拭った。

「ぼべぼべーーーーーーーーー」

 俺はさらに噴水の様に液体を吐き出すと周りを囲んでいた他の追跡者達に吐きかける。

「なんだこれはっ」

「臭っ」

「こいつ何を掛けたっ」

「くそっ死ねっ!!」

 追跡者たちは全員で一気に俺に剣を突き刺す。複数の臓器や筋肉、腱を損傷した俺はもう体を動かすことが出来なかった。
 
「毒かもしれん。早く侯爵に解毒魔法をっ!!」

「他の者も解毒薬を飲めっ」

 薄れゆく意識の中で俺は笑った。そんな物では解毒できねえよ。

 これは人間の体の中にいる小さな目に見えない生き物を改造して作った毒だ。解毒するには同じく体の中にそれと対抗するような細胞を作り出さなければならない。
 そんな複雑な魔法を使えるのは俺だけ……とは言わないが一から原因を特定して専用の対抗魔法を製作、なんてことは出来る人間はいないだろう。俺だって製作者として原因から逆算して魔法を作れただけで、何も知らなければ出来るとは思えない。
 つまり俺が死ねば治せる存在はいないということになる。

 多分”病気”と呼ばれるものは、この小さな生き物の仲間が外から体内に入ることで起こるのだろう。そのことに気が付いているのは俺だけだと思う。
 おびただしい人体実験を繰り返した結果だ。
 師匠も多分、知らない。

 しかもこの毒は元から体内にあるものに似ているから、病気を治すような治癒魔法も効かないだろう。
 下手に消し去ろうとすればその人間に必要な機構も損傷して死に至る。
 だから聖女でも無理だ。
 しかも他人に空気感染する。

 最悪、感染者を皆殺しにすれば拡大は止まるかもしれないが、侯爵が接触する人間は貴族が多い。
 そんな思い切った手が使えるかな?

 これから起こるであろう、グラム王国の滅亡を夢見ながら俺は暗黒の底に沈んでいった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 



「死んだか」

 侯爵はボロ雑巾のようになった死体を見下ろしてそうつぶやいた。

「燃やせ。死霊魔術師だ。自分の体に何を仕込んでいるかわからん」

 追跡者達がその指示に火炎魔法を唱えようとしたその時。


―――――オオーーーーーーーン――――

―――オオオオーーーーーーーーーン―――――


―――オオオオオオオーーーーーーーーーーーーン―――――

 オオカミの遠吠えの様な声が辺りに響き渡った。

「ち、魔物か。この声はディノルウフか」

 その声は追跡者達を取り囲む様に聞こえる。尋常な数ではない。

「この人数では対抗できん。引くぞ」

 侯爵は素早く決断すると部下たちを率いて森から脱出した。

「あいつの死体は魔物たちが処分してくれるだろう」

 森の外につないでいた馬に跨りながら侯爵はそう判断する。

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホゴホッ」

 先ほどから咳が止まらない。奴が掛けた白い液体のせいか?

 いや、随伴の治癒魔導士に判定させたが病気、毒の状態ではないと出たはずだ。
 そもそもあの液体は毒ですらなかった。
 嫌がらせの類だろう。

「ただの風邪か?」

 不眠不休の追跡行で疲れが出たのかもしれない。魔法による病気の判定も症状が軽いときは出ない場合がある。

「俺も年かな」

 だが寝込んでなどいられない。
 明日は、魔王討伐の式典が行われる日だ。息子のA級騎士が魔王と刺し違えたと発表されるはずだ。

「死んだ後の名誉ぐらいは守ってやらねば」

 これから国王への報告と、主だった貴族との折衝がある。
 侯爵は王都へと馬を急がせた。
 
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