勇者大戦 ~英雄Aくんの災難 12人の勇者バトルロイヤル~

田中よしたろう

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地獄の毒々ゾンビ勇者

第2話 よみがえったらぶっとんだ

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 遠くで誰かの声が聞こえる。

 聞き覚えのない言語だ。
 魔族の言葉を盗み聞きするために覚えた翻訳魔法が自動で起動する。

「ええと、これが呪文?だっさ」

 おとなしい口調で喋ればきれいな声なのだろうが、その他人を常に見下したような冷酷さを感じさせる抑揚に俺はどこか反発を覚えた。

「孤立、腐食、不正な規律。永劫に理解されぬ者。ここに目覚めよ」

 呪文なぞ別にどうでもいいのだ、正しい術式と術者の魔力さえあれば。だがこの術式は何かがおかしい。改変されている。

「ちょっと、さっさと目を覚ましなさいよ」

 薄く眼を開ける。
 ぼんやりとした視界に妙につるつるとした床(後にリノリウムと言うらしいことを知った)が目に映った。
 グラム王国の建築様式とは明らかに違う、どこだここは?

「うわ、きっも。さっきまで骨と皮だったのに、まるで腐った死体じゃないの」

 俺はその心底嫌そうな声を出す人物を見た。
 まだ年若い、少女と言っていい年齢の女だった。

 女性にしては長身、だろうか?あくまでグラム王国の基準でだが。
 整った顔をしているように感じるが、グラム王国の人間にしては彫りが浅い。
 肌は小麦色をしている。南方の部族の血が混じっているのか?
 髪は金色だがどぎつい色でどこか不自然だ。染めている?

「さあ、私の願いをかなえなさい」

 おかしい。
 俺は騎士団長を振り切れないと悟って、近くの村娘の脳に使い魔の蟲を寄生させて復活の儀式を行うようにしていたはずだ。そのための魔力も分け与えていた。
 もちろん目の前の女とは別人だ。

「女ぁ!?ここはどこだ。あれからどれくらいたった」

「あなた、なんでも願いをかなえてくれる精霊じゃないの?」

「?、なんの話だ」

 話がかみ合わない。

「早く、真山誠二君と私が結ばれるようにしなさいよ」

 (真山?誰のことだ。グラム王国の一般的な名前ではないな?本当にココはどこだ?)

「それよりココはどこだと聞いている!!」

 状況に混乱した俺はその女に掴みかかった。

「キモイッ!!触らないで!!」

「がっ!!」

 突然、俺の体は重力が数倍になったかのように地面に押さえつけられた。
 (使い魔に対する制約かっ!?俺の体はどうなっている)

「もう一度言うわ。私の願いをかなえなさい。真山君を私の恋人にするの」

「何のことか分からん」

「チッ!!使えないわね。ご先祖様の古文書、嘘が書いてあったの?」

 俺が言われて一番むかつく言葉は「使えない」だ。侮辱されたから嫌いなわけではない。他人に向かって上から目線でこんなことを言うやつはろくなやつがいないからだ。
 
 たいがい言った本人の方が使えなくて面倒ごとだけを残して消えていく。少なくとも魔王討伐軍の中ではそうだった。

「ふんっ」

 少女は俺に興味を失ったようで、踵を返して去ってゆく。

「ここは?」

 俺はそこでようやく周りを見渡す余裕ができた。
 そこそこの広さを持った部屋で、いろいろな物が置いてある。
 どうやら倉庫のようだ。
 そのどれもが俺から見たら進んだ文明で作られた道具のように見えた。

「一体どうなっているんだ?」

 おれはその部屋の中央におかれた棺のようなものの中にいたようだ。棺の下の床には魔法陣が書かれていた。

「この術式は師匠か。あいつなにかしやがったのか」
 師匠とは言っても親愛の情はない。自分に死霊魔術しかできないと分かった時に無理やり師事したのだ。その際、かなりえげつない条件を飲まされたので特に恩を感じてはいない。

 復活の儀式を邪魔したのは十中八九師匠で間違いがないだろう。
 俺は自分の手を見た。
 肉が腐れはてて骨がところどころ見えている。完全な不死者(アンデッド)として蘇るはずが中途半端な生ける死体(リビングデッド)として蘇ってしまった。

 おまけに目の前の小娘の使い魔にされてしまっているらしい。

キィーーーー。

 そうこうしているうちに少女は倉庫の出入り口の扉を空けて出ていく。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。待ってください」

 使い魔契約をさせられているならば下手に出るしかない。
 主人が手順さえ知っていれば完全に消去されてしいます。
 だから俺、いや、もっと丁寧な物言いをしましょう。私めは彼女の後を追って扉をでたのでございます。

 扉の外は階段になっていて上へと続いています。
 この階には窓が無いことや空気が澱んでいることからわたくしは地下室だと判断いたしました。

 
「待ってください。有芽 沙紀(ありが さき)様」

 階段を登っている沙紀様が感情のこもっていない目でわたくしを見ます。

「何で名前を知っているの?」

 まあ、当然の疑問でございますね。わたくしが復活してから一度も名乗っていませんものね。
 失礼な方だ。

「どうやらわたくしは貴方の使い魔として契約させられているようです。主人の名前を知らない使い魔がいるでしょうか?当然契約時に脳内に刻み込まれておりますな」

「きっも。そんな契約した覚えはないわ。ご先祖様の術式を実行しただけで」

「ご先祖。なるほどなるほど。ちなみにわたくしの名前は――――――」

 わたくしが名乗ろうとしたら既に沙紀様の姿は階段の出口へと消えていました。
 もう少し言葉のキャッチボールをしましょうよ。

 まあ、分からなくはありません。本当に嫌いな相手とは口も聞きたくはないですね。
 できれば無いものとして扱いたい。そこから本当に私に興味が無いことがうかがえますな。

 わたくしも沙紀様を追って階段を登りきります。
 出口の扉から外に出るとこの階には窓のようなものがありました。外は真っ暗でどうやら夜中のようですな。

 さて、沙紀様はどこへ行きましたかと見回すと、廊下の先に誰か男性と話をする彼女が見えました。

 おやおやこんな時間に逢引きですかな?

「警備員さんっ!!あそこにキモイ奴がいるっ!!追い出して!!」

「なにっココは女子寮だぞっ!!変態か?」

 おっと警備兵の類ですか。確かに制服のようなものを来ていますね。

「有芽さんは部屋に戻って!!」

 人を使い魔にしといて官憲に突き出すとはひどくないですか。
 とりあえずここは逃げたほうがよさそうです。

 わたくしは脱兎のごとく反対側に駆け出します。

 しかしすぐに建物の端へとたどり着いてしまいました。
 そこには外に出る扉のような物がありましたが取っ手をひねっても開きません。鍵がかかっているようです。

 わたくしはとっさに「爆裂」の魔法をつかいます。
 攻撃魔法の才能が無いのであまり威力のない、魔族には傷一つ付かないレベルのものですが扉を破壊することはできたようです。

 ドゴンという大音量とともにもうもうとほこりが舞います。

「あいつ、爆薬を持ち込んでいたのか!?」

 後ろで警備兵の声が聞こえます。ですがその声を悠長に聞いているわけには行きません。
 とっとと逃げます。

 わたくしは建物のの外に出るとどこに逃げようかと周りを見渡しました。
 そして、その光景に息を飲みます。

「なっっっ、ここは」

 まるで城のような、そしてその巨大さにかかわらず製図機で引いたような直線で構成された箱のような建物が並んでいます。
 そのような物を作ることができるのは神々だけでは無いでしょうか?
 後ろを振り返るとわたくしが出てきた建物もその箱のような建物の一つでした。

 地面は何か黒い人工的な物で覆われ歩きやすくなっています。一部の菜園を除いてそのほとんど土が見えないのは何かの冗談かと思います。

 また道になっている両脇にはなにか高い柱が立てられその先にはカンテラでしょうか?光を放つ丸いものがついていて夜である今でも足元を気にすることなく走れます。

 箱型の建物が建つ敷地の外側にはフェンスをはさんで、少し飾り気のある家が並んでいます。そちらは同じ形では無く、全体的には似通った印象を受けながらもそれぞれわずかに個性があり、何者かが住んでいる生活感のようなものが見受けられます。

  グラム王国のように平行な部分などなく歪んだ建築の民家しか見たことが無かったわたくしはその地面から垂直に建つ家々を見ただけでもものすごい技術で作られていることが分かり立ち尽くしました。

「まてーーーーーー!!」

 おっと、目に映る景色にしばしのあいだ追手がいる事が脳裏から吹き飛んでいたようでございます。

 とりあえず眼前の事は後で考えるとしてわたくしはなるべく建物の影になるようなところを通って逃げ出しました。

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