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アルバイト勧誘編
偽物家族③
店内へと戻ると、ニノはオジさんと梨音のお母さんから大量の施しを受けていた。
「ほら、これも食べろ。修斗と同じで育ち盛りは食わなきゃなんねぇ。金なんかもちろん取らないからな、好きなだけ食え食え」
「珍しくお父さんの言うことに賛成ね~。修斗くんがお友達を連れてくるなんて初めてじゃないかしら」
「も、もう大丈夫ですから…………」
次から次へと運ばれてくる料理の数々。
一つ一つの量はさほどないが、様々な一品料理でニノが座っているテーブルの上が埋まってしまうほどだ。
今の短時間でよくもまぁこれだけ作れるな。
遠慮という言葉を知らないのが食べる側ではなく作り手側だというのは斬新だ。
ニノは俺ほど量を食べるわけではないから、明らかにキャパオーバーなのが見て取れる。
「さすが繁のおやっさん! その調子で俺にもサービス頼むよ!」
「ばぁろい、お前にまでサービスしたらまた母さんにどやされちまう」
「よく分かってるじゃない」
その様子を見ていた常連の人まで囃し立てていた。
繁オジさんが定期的にサービスしては怒られているんだろう、すぐに釘を刺されていた。
「お父さんお母さん、ニノのところはもう大丈夫だから余計なお世話しないで」
「あら、そぉ?」
厨房に戻った梨音が上手いこと二人を諌めてくれた。
俺は大量の料理に囲まれているニノと同じテーブルに座った。
「コーサカ君……」
「どうよここ、凄い良いところだろ?」
「うん……そうだね。コミュ障の僕には少しむず痒いけど」
まぁ初対面であれだけ構われればな。圧倒されてたし。
「この前話したかもしれないけど、ここは梨音の実家だ。若元食堂、昔から俺もよくお世話になってる」
「やっぱり。そうじゃないかと思ったんだ…………うわ美味し」
以前、ニノの家に行く時に梨音の家について話をしていた。
若元食堂という名前で既に気付いていただろう。
「でもどうして僕だけ招待してくれたの? サガー君や八幡さんがいる時でもいいのに」
「それは…………ニノには一つの家族としての形を知ってほしかったからだよ」
「…………え?」
俺はニノの前にある餃子をひとつまみし、口に頬張った。
出来たばかりの餃子からは肉汁が溢れ出し、口内を溺れさせる。
それを飲み込み、一息ついてから俺は口を開いた。
「これは誰にも言わないで欲しい。自分のことを打ち明けてくれたニノだからこそ、俺も打ち明けることだ」
「……う、うん」
「俺は………………梨音の家に居候させてもらってる」
「えっ……!? そうなの!?」
俺はニノに梨音の家に転がり込んだ経緯を簡単に説明した。
今年の4月から親父が転勤のため母さんを連れて引っ越し、繁オジさんのところへ俺を泊めさせてくれるよう頼んだこと。
普段から梨音と学校へ行っているが同棲している事実は伏せていること。
そして若元家とは昔から家族ぐるみで繋がりがあったこと。
理由は違くとも、その境遇はニノと一緒だった。
「ニノと違って俺は、居候させてくれている梨音達とは小さい頃から知り合いだ。だから何も気負うことなく過ごさせてもらっているわけではあるが…………この前、ここの人達は俺のことを家族だって呼んでくれたんだ」
「家族…………」
あの時言ったもっちーさんの言葉。
『───いっすねぇなんかそういうの。あったかみがあると言うか、血の繋がりは関係ないと言いますか───』
ニノの話を聞いた時、俺にはこの言葉が思い浮かんだ。
ニノはきっと一家の人達と一緒に過ごす時間が足りていないんだ。
「俺はここの人達の誰とも血の繋がりなんてものはないが、一緒に生活していて実際に家族だと思っている。もちろん本当の両親はいるし本当の家族というものは別にあるが、じゃあ若元家の人達とは偽りの家族かなんて言われたら、俺は間違いなく否定するよ。意味合いは変わるのかもしれないが、どちらも俺にとっては大切な家族だ」
「………………」
「ニノが血の繋がりを大事にするのを否定する気はない。そういう形があるのは分かってるし、ニノがそのことを重要視していることも。でも、家族としての定義を増やしたからといって、本来の家族の価値が無くなるっていうのは、俺は少し違うと思うな」
ニノは俺の目を見たまま話を聞いていた。
そして、俺が話し終えると考えるようにして目を伏せた。
俺がニノにしてやれることは、家族としての形が血の繋がりだけによるものではないということを、実際に目の当たりにしてもらうことぐらいだ。
だから、それを見てどう判断するかはニノ次第。
俺はあくまで視野を広げる手助けをしただけなんだ。
「僕は───」
「ニノ、難しく考えることなんてないよ」
いつの間にか近くにいた梨音が話しかけた。
「朝起きておはようって言って、一緒にご飯を食べて。どこかに出かける時は行ってきますって言って、帰ってきたらただいまって言う。それで、夕飯の時に今日はこんなことがあったなんて話をして、寝る時には一言おやすみと相手に伝える。そんな簡単なことを続けるだけで、気付いた時には大切な人に変わってると思うよ」
「若元さん…………」
梨音も良いことを言う。
だけどこれは繁オジさん達のことを指すにしては少し変な言い方のような気もするが……。
「………………うん。コーサカ君や若元さんの言う通りだね。よく考えたら僕は…………新しいお母さんやお父さん達のことを何も知らない。何の仕事をしてるかも知らないんだ」
「ニノことを知ってもらうのはもちろんだけど、ニノからも相手のことを知ってみないとな」
「そう…………だね! そしたらまずは、授業参観に来てもらうようにするよ!」
「ああ、喜ぶと思うぞ。さ、残りも食べちゃおうぜ」
「うん!」
良かった。
ニノも少しは元気が出たみたいだ。
お互いのことを知らないから距離を取りたくなる。でもそのまま距離を取り続けていたら、いつまで経っても溝は埋まらない。
ニノにはそんな垣根なんて越えていって欲しいものだ。
「なにぃ!? 授業参観なんてあるのか!?」
「あ…………そういえばお父さん達に言ってなかった」
「絶対行くからな梨音に修斗! 日付はいつだ!? 店は休みにするぞ!」
「うわー…………知られるんじゃなかった」
もしもニノの親父さんがこんなんだったら、逆に誘いにくいだろうなぁ……。
「ほら、これも食べろ。修斗と同じで育ち盛りは食わなきゃなんねぇ。金なんかもちろん取らないからな、好きなだけ食え食え」
「珍しくお父さんの言うことに賛成ね~。修斗くんがお友達を連れてくるなんて初めてじゃないかしら」
「も、もう大丈夫ですから…………」
次から次へと運ばれてくる料理の数々。
一つ一つの量はさほどないが、様々な一品料理でニノが座っているテーブルの上が埋まってしまうほどだ。
今の短時間でよくもまぁこれだけ作れるな。
遠慮という言葉を知らないのが食べる側ではなく作り手側だというのは斬新だ。
ニノは俺ほど量を食べるわけではないから、明らかにキャパオーバーなのが見て取れる。
「さすが繁のおやっさん! その調子で俺にもサービス頼むよ!」
「ばぁろい、お前にまでサービスしたらまた母さんにどやされちまう」
「よく分かってるじゃない」
その様子を見ていた常連の人まで囃し立てていた。
繁オジさんが定期的にサービスしては怒られているんだろう、すぐに釘を刺されていた。
「お父さんお母さん、ニノのところはもう大丈夫だから余計なお世話しないで」
「あら、そぉ?」
厨房に戻った梨音が上手いこと二人を諌めてくれた。
俺は大量の料理に囲まれているニノと同じテーブルに座った。
「コーサカ君……」
「どうよここ、凄い良いところだろ?」
「うん……そうだね。コミュ障の僕には少しむず痒いけど」
まぁ初対面であれだけ構われればな。圧倒されてたし。
「この前話したかもしれないけど、ここは梨音の実家だ。若元食堂、昔から俺もよくお世話になってる」
「やっぱり。そうじゃないかと思ったんだ…………うわ美味し」
以前、ニノの家に行く時に梨音の家について話をしていた。
若元食堂という名前で既に気付いていただろう。
「でもどうして僕だけ招待してくれたの? サガー君や八幡さんがいる時でもいいのに」
「それは…………ニノには一つの家族としての形を知ってほしかったからだよ」
「…………え?」
俺はニノの前にある餃子をひとつまみし、口に頬張った。
出来たばかりの餃子からは肉汁が溢れ出し、口内を溺れさせる。
それを飲み込み、一息ついてから俺は口を開いた。
「これは誰にも言わないで欲しい。自分のことを打ち明けてくれたニノだからこそ、俺も打ち明けることだ」
「……う、うん」
「俺は………………梨音の家に居候させてもらってる」
「えっ……!? そうなの!?」
俺はニノに梨音の家に転がり込んだ経緯を簡単に説明した。
今年の4月から親父が転勤のため母さんを連れて引っ越し、繁オジさんのところへ俺を泊めさせてくれるよう頼んだこと。
普段から梨音と学校へ行っているが同棲している事実は伏せていること。
そして若元家とは昔から家族ぐるみで繋がりがあったこと。
理由は違くとも、その境遇はニノと一緒だった。
「ニノと違って俺は、居候させてくれている梨音達とは小さい頃から知り合いだ。だから何も気負うことなく過ごさせてもらっているわけではあるが…………この前、ここの人達は俺のことを家族だって呼んでくれたんだ」
「家族…………」
あの時言ったもっちーさんの言葉。
『───いっすねぇなんかそういうの。あったかみがあると言うか、血の繋がりは関係ないと言いますか───』
ニノの話を聞いた時、俺にはこの言葉が思い浮かんだ。
ニノはきっと一家の人達と一緒に過ごす時間が足りていないんだ。
「俺はここの人達の誰とも血の繋がりなんてものはないが、一緒に生活していて実際に家族だと思っている。もちろん本当の両親はいるし本当の家族というものは別にあるが、じゃあ若元家の人達とは偽りの家族かなんて言われたら、俺は間違いなく否定するよ。意味合いは変わるのかもしれないが、どちらも俺にとっては大切な家族だ」
「………………」
「ニノが血の繋がりを大事にするのを否定する気はない。そういう形があるのは分かってるし、ニノがそのことを重要視していることも。でも、家族としての定義を増やしたからといって、本来の家族の価値が無くなるっていうのは、俺は少し違うと思うな」
ニノは俺の目を見たまま話を聞いていた。
そして、俺が話し終えると考えるようにして目を伏せた。
俺がニノにしてやれることは、家族としての形が血の繋がりだけによるものではないということを、実際に目の当たりにしてもらうことぐらいだ。
だから、それを見てどう判断するかはニノ次第。
俺はあくまで視野を広げる手助けをしただけなんだ。
「僕は───」
「ニノ、難しく考えることなんてないよ」
いつの間にか近くにいた梨音が話しかけた。
「朝起きておはようって言って、一緒にご飯を食べて。どこかに出かける時は行ってきますって言って、帰ってきたらただいまって言う。それで、夕飯の時に今日はこんなことがあったなんて話をして、寝る時には一言おやすみと相手に伝える。そんな簡単なことを続けるだけで、気付いた時には大切な人に変わってると思うよ」
「若元さん…………」
梨音も良いことを言う。
だけどこれは繁オジさん達のことを指すにしては少し変な言い方のような気もするが……。
「………………うん。コーサカ君や若元さんの言う通りだね。よく考えたら僕は…………新しいお母さんやお父さん達のことを何も知らない。何の仕事をしてるかも知らないんだ」
「ニノことを知ってもらうのはもちろんだけど、ニノからも相手のことを知ってみないとな」
「そう…………だね! そしたらまずは、授業参観に来てもらうようにするよ!」
「ああ、喜ぶと思うぞ。さ、残りも食べちゃおうぜ」
「うん!」
良かった。
ニノも少しは元気が出たみたいだ。
お互いのことを知らないから距離を取りたくなる。でもそのまま距離を取り続けていたら、いつまで経っても溝は埋まらない。
ニノにはそんな垣根なんて越えていって欲しいものだ。
「なにぃ!? 授業参観なんてあるのか!?」
「あ…………そういえばお父さん達に言ってなかった」
「絶対行くからな梨音に修斗! 日付はいつだ!? 店は休みにするぞ!」
「うわー…………知られるんじゃなかった」
もしもニノの親父さんがこんなんだったら、逆に誘いにくいだろうなぁ……。
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