黄昏の王国〜ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私が勇者をつくるまで〜

風来ほっけ

文字の大きさ
40 / 47

38・廊下がやけに長い件4

しおりを挟む
 …これ、私を殺しにかかってないだろうか。
 というか、さっきまでバアル様のだだ漏れ雄フェロモンにあてられていたばかりだというのに、今またイケメン王子のプロポーズ攻撃に晒されて、今の私は瀕死状態だ。なんて日だ!
 混乱する私を置いて、アローンは何故かその儚げな美貌に不似合いの、少し悪そうな笑みを唇に浮かべる。

「アンダリアスに言っていたよな?結婚したいと。
 大勢に慕われるよりたった1人に愛されたい、だったか?
 とにかく独身のまま大神官に祭り上げられて、一生を送るのは本意ではないのだろう?」
「うえっ!?」
 アンダリアスとの会談は後半は酔って記憶が朧げなのだが、その辺はなんとなく覚えてるのだ。
 けど、あれを聞かれていたなんて思わなかった。
 いや、もしかしたらメルクールから聞いたのかもしれないが。
 どちらにしろ赤面モノだ。けど。

 …一旦は動揺したものの、その言葉が脳内に落ちた途端に私は冷静になった。

「…あなたは、私を愛しているわけではありませんわ。」
 私はアローンの緑の瞳を見返して、言った。

「………何故そう思う?」
「…それが真実だからです。」
 そうとしか答えようがなく、私は首を横に振る。
 私は、確かに結婚したいと思っている。
 しかも、互いに愛し愛される相手と。
 アローンの気持ちは現時点ならば、ファルコの心の投影の筈だ。
 だとしたらそれがどれほど強い感情であったとしても、それは子が母親を慕うのと同じものであり、男女の愛ではない。
 それが変化していく事はあるだろうし、実際ファルコとの恋愛ルートはそのようにして進んでいくわけだが、そうなるには今の私たちは、出会ってから日が浅すぎる。
 そして王の約束は簡単に覆してはいけないものだ。
 ここでうっかり頷いてしまって、後でやっぱり違うと気がついても遅いのだ。
 ……というか展開早すぎる!!

「…判った。無理にとは言わん。
 だが、よく考えてみて欲しい。
 貴女は現時点でも国を背負ってるようなものだ。
 この戦争が終わった後で、貴女がその立場から解放されるとはとても思えん。
 むしろ『救国の聖女』を、何らかの形でこの国の中枢に縛りつける為に、必死になるのは目に見えている。
 …ならばこの先、王妃として国を支える事になったとしても、重責はそれほど変わらない筈だ。
 むしろ、おれと2人で背負っていく事になるのだから、負担は半分になるぞ?」
 なんというか、私にとっては死刑宣告に近いような事を言いながら、アローンはゆっくりと私から離れた。

「おやすみ。近いうちにこっちから会いにいく。」
 そう言って私に背を向け、振り返らずに手を振った彼の、その背中が廊下の曲がり角へ消えたのを確認して、私は知らず止めていた息を吐いた。

「うなんな。」
 足元から聞こえた猫の声に反射的に視線を落とすと、こちらを見上げて鳴くブサイクな猫の顔が、やけに心配げに私の目に映った。

 ☆☆☆

「…本当に今日、神殿に戻られてしまうのですか?
 ヴァーナ様がいらっしゃる間、使用人一同がいつにも増して生き生きしておりましたので、また寂しくなります。」
 朝食を終えて手配した馬車が着くまでの間、支度を終えて居間に待機していたら、バティストが話しかけてきた。

「特に料理長が『ヴァーナお嬢様はなにを出しても美味しい美味しいと、たくさん召し上がってくださるから作り甲斐がある』と…あの無愛想な男が、実に嬉しそうに言っておりましたから。」
 …確かに久しぶりに堪能した我が家のごはんはとても美味しかったのだが、大食らいだと暗に言われているのは女としてどうなんだろう。
 けど、滞在中は私の好物ばかり作ってくれた、無骨なイメージの体格のいい中年男性の顔を思い浮かべて、私は思わず顔が綻ぶのを感じた。

「こちらこそ、美味しいごはんをありがとうと伝えてちょうだい。
 あなたも、いつも我が家を支えてくれてありがとう。
 今回もお世話になりました。」
「とんでもない事でございます。
 どうかお身体に気をつけて、たまにはこちらに羽を伸ばしに帰っていらしてください。
 ここがヴァーナ様の家だという事を、どうかお忘れなきよう。
 我々はいつでも、貴女のお帰りをお待ちしております。」
 そう言ってバティストは私に頭を下げる。
 メイドがお茶のお代わりを淹れてくれて、彼女にもお礼を言ってカップを持ち上げた瞬間、ふと思い出して、一礼して立ち去ろうとしたバティストを呼び止めた。

「そうだわ。ベルナルドに伝えてくれないかしら?
 例の、ショートブレッドの食感のことだけど、粉を混ぜる前に、一度オーブンで焼いてみてはどうかって。
 既に実行していたら申し訳ないのだけれど、これをやることで粉の粘り気が抑えられると、以前…何かで読んだ事があるわ。」
「……!承知いたしました。」
 前世で一度だけ作ってみた事がある、『ポルポローネ』という名で呼ばれていたクッキーが、確かそんな作り方だったと思う。
 実際どうなるかはやってみなければわからないけど、メルクールやベルナルドが求めているものに、あれが一番近いんじゃなかろうか。

 ・・・

 馬車が着いたと告げられてエントランスに出ると、何故かバアル様が待っており、私に手を差し伸べてきた。

「私が戻るついでに、貴女を神殿に送り届けます。
 どうか今しばらく私に、女神の御手を取る栄誉をお与えくださいますよう。」
 そう言われてエスコートされて乗り込んだのは、王宮騎士団の紋章入りの馬車だった。
 どうやら昨日の時点で同じ馬車を帰らせた際に、既に話はついていたらしい。
 ああうん、なんかすいません。




※ 作中でヴァーナが気がつく事がまずない話なのでここで説明すると、アローンは元々のキャラ設定が基本シスコンなので、本来の恋愛傾向としては、年上女性の方に惹かれやすかったりします。
身もフタもない言い方をすれば、マリエルよりもむしろヴァーナの方が好みなのです。
(そもそもだからこそ、ファルコから流れてくるマリエルへの思慕の念に混乱することになったわけで、ヴァーナへのファルコの思慕に対しては、最初のうちは混乱したものの、ヴァーナと間近で接した事で、これなら自分の意思だけだとしても魅力的に感じるだろうと結論づけて『うん、もう全然オッケー』で受け入れちゃいました。見た目は繊細ぽいのに頭の中身は割と単純なんです、このひと)
そこはバアルやダリオにも言える事で、この3人の側からの愛情値の上昇スピードは、ヒロインがマリエルだった場合に比べるとはるかに高いです。
更にダリオとメルクール(待て実弟)は身内ボーナスというか、マリエルの場合と違い最初から信頼度がマックスなので、それも加えて愛情値がファルコと同じくらい上がりやすくなっています。
ヴァーナ的には、協力者が減った事で育成がハードモード化したと思っていますが、乙女ゲー的にはめっちゃイージーモードです。


注:尚、ここで在庫が尽きたのでここからは不定期更新になります(爆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...