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10.夕飯はシチューで
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増えるなよ、ミルティさんが怖がっているだろ。腹の中で何かがふつふつと沸き上がる。あれ2頭は僕1人で処理できるだろうか。わずかな時間で出来るだけ脳内シミュレートしてみるが、結果は奥歯を噛み締めるだけに終わった。
「ミルティさん」
「はっ、はい…」
「奴らの攻撃は僕が全部引き受けます。ミルさんは大丈夫そうな時だけ攻撃に回って下さい」
「えっ、ひじたかさ――」
「来ますよ!」
さっき殴った一頭が僕の方に向かってくる。首元付近まで飛び上がってきた歯牙を木の棒で受け止める。しっかり受けたはずだが予想以上に力が強くてややよろけた。もう一頭の方を見るとミルティさんの方に向かって駆け出しているところだった。だが両手に握った棒はしっかり挟まれていて押しても引いても外れる様子はない、くそ!
進路を塞ぐ形で右脚を蹴り出すと、すぐさま激痛が走る。理想はその鼻っ面を蹴っ飛ばしてやる事だったが、見るとがっちり脚に噛み付かれていた。
「ひじたかさんっ!」
牙が深々と突き刺さっていく、口の中に広がる血の味に興奮しているのかオオカミの目が血走っている。僕の脚はそんなに美味いか? そうやってこっちを狙ってくれるのならいいが……さっきこいつが向かった先を思い出す。痛みよりも苛立たしさが勝った。
「ぅおおおおおぉぉぉっ!」
引っ張り合いをしていた棒から手を離すと、やけくそ気味に食われている脚を振り切る。火事場の馬鹿力かそもそもそれほど重たくないのか、身体を浮かせたオオカミが傍にあった木にぶち当たる。はずみで空いた口から脚が外れた。追撃を入れたかったが今この手に木の棒はない。
棒を噛んでいた方を見ると、すでにそれからは牙を外し。今度こそこちらの喉笛を食い破らんと飛び掛かっている所だった。咄嗟の事で反応が遅れる。動けずにいると噛み付かれる寸前で視界に割り込んできた影があった。
飛び込んできたミルティさんの横薙ぎに振るった木の棒が腹に当たり、オオカミは悲鳴のような鳴き声をあげて派手に地面を転がった。すでに体勢を立て直していたもう一頭は、それを見て怯んだようだようで動きが止まっている。
その隙に片足を引きずって転がっていた木の棒を拾いあげる。ミルティさんが隣に並ぶ。無理をしているのは表情から一目瞭然だ。出来れば背後に庇いたいのだけれど、僕はおそらくそれに値しないのだろう。
最近よくあるじゃないか、冴えない人生を送ってきた奴が異世界に行って突然最強キャラみたいになって偉業を成し遂げて行くような話。いや、このテンプレもひょっとしたらもうだいぶ古いのかもしれないけれど、僕は相変わらずこっちでもナメクジみたいに弱いし恰好がつかない。
それでもこの場は、せめて怯えている彼女の為に全ての攻撃を受けきってやる。
来るなら来いと棒を構えるが、オオカミ達は僕らに向けて背を向けると脱兎の如く駆けて行った。
追い払えたのか。
「ふー」
急に痛みと疲れがドッと押し寄せて来て尻もちをつくように座り込んだ。
「だい…、大丈夫ですか…!」
ミルティさんがかがんで僕の脚の噛み傷を見る。正直、ちょっと動かすだけですごく痛い。一人だったら情けなく呻きまくっていただろう。ミルティさんはさっき採ったばかりの薬草をちぎってすぐに手当てしてくれた。
「ごめんなさい私、すくんでしまって…」
瞳に光るものを浮かべながらぐしゅぐしゅとミルティさんが言う。その目尻に浮かんだものを指で拭いながら僕は言った。
「泣かないで下さい、さっきは助かりました。ミルさんに怪我がなくて良かった」
「もぉ、無茶しないで下さいよぉ~」
拭い切れなかった涙が零れる。
「すみません」
もっとスマートに守る事が出来れば、こんな風に泣かせないで済んだのだろう。
「私、どうしてもオオカミが苦手で……」
そう言う彼女の表情はどこか辛そうに見えた。牛だからいかにもな肉食動物が苦手とかそういう単純な話でもなさそうな気がする。
「苦手なものは誰にでもありますよ、仕方ないことです。あー、ほら、僕だってセロリが苦手で食卓に並んでいると手が止まってしまいます」
「……セロリ苦手なんですか?」
「あの独特な香りがダメですねー。口に入れて噛もうものならその香りが鼻に抜けて2倍のダメージを受けます」
「そんなに嫌いなんですか」
「嫌いですねー、スープとかに具材として入っていても強すぎる存在感に心が折れそうになります。あぁでも、ミルさんの料理は美味しいから、ミルさんが調理したものなら食べられるかもしれません」
突然、料理を褒められてミルティさんは驚いたような照れたような表情になる。
「何ですか急に…私の料理なんて大したものじゃありません」
「はははっ、とんでもない! 毎日食べられて僕はとても幸せですよ」
「何言ってるんですかもー…」
気づけばもう夕暮れ時で、くだらない会話の中でいつしか彼女の涙は止まっていた。僕は木の棒を杖代わりに薬草を巻き付けてもらった脚でミルティさんと一緒に帰路につく。
「お夕飯は何がいいですか?」
「……シチューで」
つい彼女の胸に目がいってしまい反射的にそう答えてしまう。視線に気づいたミルティさんが自分の胸を抱えるようにして庇う、膨れた横顔がほんのり赤かった。
「うぁ、ごめんなさい、つい…」
「私のシチュー、そんなに気に入ったんですか?」
「はい、すごく美味しいです。あっ、でも今日はもうダメですよね」
今朝にミルク瓶4本も絞った事を思い出す。あれはこの上なく柔らかかったな。
「あっ…たぶん、大丈夫だと思います」
確かめるように自分の胸に手を当てながらミルティさんが言う。本人に自覚はなさそうだけれどそのモーションは劣情を刺激されます。
「じゃあ、買って来て下さった具材もいれて少し豪華なシチューにしますね!」
「はい、期待しています!」
「ミルティさん」
「はっ、はい…」
「奴らの攻撃は僕が全部引き受けます。ミルさんは大丈夫そうな時だけ攻撃に回って下さい」
「えっ、ひじたかさ――」
「来ますよ!」
さっき殴った一頭が僕の方に向かってくる。首元付近まで飛び上がってきた歯牙を木の棒で受け止める。しっかり受けたはずだが予想以上に力が強くてややよろけた。もう一頭の方を見るとミルティさんの方に向かって駆け出しているところだった。だが両手に握った棒はしっかり挟まれていて押しても引いても外れる様子はない、くそ!
進路を塞ぐ形で右脚を蹴り出すと、すぐさま激痛が走る。理想はその鼻っ面を蹴っ飛ばしてやる事だったが、見るとがっちり脚に噛み付かれていた。
「ひじたかさんっ!」
牙が深々と突き刺さっていく、口の中に広がる血の味に興奮しているのかオオカミの目が血走っている。僕の脚はそんなに美味いか? そうやってこっちを狙ってくれるのならいいが……さっきこいつが向かった先を思い出す。痛みよりも苛立たしさが勝った。
「ぅおおおおおぉぉぉっ!」
引っ張り合いをしていた棒から手を離すと、やけくそ気味に食われている脚を振り切る。火事場の馬鹿力かそもそもそれほど重たくないのか、身体を浮かせたオオカミが傍にあった木にぶち当たる。はずみで空いた口から脚が外れた。追撃を入れたかったが今この手に木の棒はない。
棒を噛んでいた方を見ると、すでにそれからは牙を外し。今度こそこちらの喉笛を食い破らんと飛び掛かっている所だった。咄嗟の事で反応が遅れる。動けずにいると噛み付かれる寸前で視界に割り込んできた影があった。
飛び込んできたミルティさんの横薙ぎに振るった木の棒が腹に当たり、オオカミは悲鳴のような鳴き声をあげて派手に地面を転がった。すでに体勢を立て直していたもう一頭は、それを見て怯んだようだようで動きが止まっている。
その隙に片足を引きずって転がっていた木の棒を拾いあげる。ミルティさんが隣に並ぶ。無理をしているのは表情から一目瞭然だ。出来れば背後に庇いたいのだけれど、僕はおそらくそれに値しないのだろう。
最近よくあるじゃないか、冴えない人生を送ってきた奴が異世界に行って突然最強キャラみたいになって偉業を成し遂げて行くような話。いや、このテンプレもひょっとしたらもうだいぶ古いのかもしれないけれど、僕は相変わらずこっちでもナメクジみたいに弱いし恰好がつかない。
それでもこの場は、せめて怯えている彼女の為に全ての攻撃を受けきってやる。
来るなら来いと棒を構えるが、オオカミ達は僕らに向けて背を向けると脱兎の如く駆けて行った。
追い払えたのか。
「ふー」
急に痛みと疲れがドッと押し寄せて来て尻もちをつくように座り込んだ。
「だい…、大丈夫ですか…!」
ミルティさんがかがんで僕の脚の噛み傷を見る。正直、ちょっと動かすだけですごく痛い。一人だったら情けなく呻きまくっていただろう。ミルティさんはさっき採ったばかりの薬草をちぎってすぐに手当てしてくれた。
「ごめんなさい私、すくんでしまって…」
瞳に光るものを浮かべながらぐしゅぐしゅとミルティさんが言う。その目尻に浮かんだものを指で拭いながら僕は言った。
「泣かないで下さい、さっきは助かりました。ミルさんに怪我がなくて良かった」
「もぉ、無茶しないで下さいよぉ~」
拭い切れなかった涙が零れる。
「すみません」
もっとスマートに守る事が出来れば、こんな風に泣かせないで済んだのだろう。
「私、どうしてもオオカミが苦手で……」
そう言う彼女の表情はどこか辛そうに見えた。牛だからいかにもな肉食動物が苦手とかそういう単純な話でもなさそうな気がする。
「苦手なものは誰にでもありますよ、仕方ないことです。あー、ほら、僕だってセロリが苦手で食卓に並んでいると手が止まってしまいます」
「……セロリ苦手なんですか?」
「あの独特な香りがダメですねー。口に入れて噛もうものならその香りが鼻に抜けて2倍のダメージを受けます」
「そんなに嫌いなんですか」
「嫌いですねー、スープとかに具材として入っていても強すぎる存在感に心が折れそうになります。あぁでも、ミルさんの料理は美味しいから、ミルさんが調理したものなら食べられるかもしれません」
突然、料理を褒められてミルティさんは驚いたような照れたような表情になる。
「何ですか急に…私の料理なんて大したものじゃありません」
「はははっ、とんでもない! 毎日食べられて僕はとても幸せですよ」
「何言ってるんですかもー…」
気づけばもう夕暮れ時で、くだらない会話の中でいつしか彼女の涙は止まっていた。僕は木の棒を杖代わりに薬草を巻き付けてもらった脚でミルティさんと一緒に帰路につく。
「お夕飯は何がいいですか?」
「……シチューで」
つい彼女の胸に目がいってしまい反射的にそう答えてしまう。視線に気づいたミルティさんが自分の胸を抱えるようにして庇う、膨れた横顔がほんのり赤かった。
「うぁ、ごめんなさい、つい…」
「私のシチュー、そんなに気に入ったんですか?」
「はい、すごく美味しいです。あっ、でも今日はもうダメですよね」
今朝にミルク瓶4本も絞った事を思い出す。あれはこの上なく柔らかかったな。
「あっ…たぶん、大丈夫だと思います」
確かめるように自分の胸に手を当てながらミルティさんが言う。本人に自覚はなさそうだけれどそのモーションは劣情を刺激されます。
「じゃあ、買って来て下さった具材もいれて少し豪華なシチューにしますね!」
「はい、期待しています!」
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