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06【魔法学園1年生 5】
しおりを挟むエリザベスは自分の後ろで静かに控えていた銀髪のメイドを呼ぶと、彼女にシャロンを除く全員分の紅茶を用意するよう指示を出した。
そして一息つくと全員の顔を見ながらゆったりと話し始める。
「この度はお集まり頂きありがとうございます。先日とても美味しい茶葉が手に入ったので今日はそれを皆さんにご馳走するわね。シャロン・ガルシアはその姿でカップを持つことはできないからまた次の機会にね。」
エリザベスが黒い子豚姿のシャロンに向かって言ったため、他の令嬢達は驚いた表情でエルヴィスの膝の上にいる黒豚を見た。
「あの、エリザベス様。こちらがシャロン・ガルシアさんなのですか?」
桃色のふんわりとした髪が特徴的な可愛らしい令嬢が目をしばたたかせた。その戸惑い気味な声色で遠慮がちに聞くので、エリザベスはついそれにくすっと笑いを堪えながら頷いた。
「アスティ・クラウン嬢がね、この子に意地悪をしたのよ。」
まぁ!と令嬢二人は声を上げる。
「アスティ嬢ったら、またやったのですね。」とペトラが何回もやっているような口ぶりで言った。
エリザベスがエルヴィスに迎えを頼んで正解だったと言いながら事の経緯を二人に粗方話し終えた頃、話題がシャロンへと変わった。
「シャロンさん、紹介するわね。こちらがナターシャ・ターナー。」
話がひと段落し、エリザベスに紹介された桃色の髪の令嬢が丁寧にお辞儀をする。シャロンもそれに合わせてお辞儀をするが、首がうまく動かせず傍から見ればこくこくと頷いているだけに見えてしまっただろう。
「そして、こちらがペトラ・モルガン。」
「よろしくお願いいたします。」
次にお辞儀をしたのは若草色の綺麗な髪の令嬢で、ナターシャに比べたら物静かな印象があった。シャロンも倣って返す。
ペトラはしっかりとした体格で、制服の裾からちらりと見える腕はわりと筋肉質だとシャロンは思った。かなりの鍛錬を積んでいるのだろう。
「さぁ、お茶を楽しみましょうか。」
シャロンに自己紹介は求められず、そのままお茶会が始まる。黒豚の姿では会話が出来ないことに気を遣ってくれたのもあるだろうが、既にエリザベスからシャロンのことは二人に説明済みなようであった。
シャロンは安堵した半面、最も気になっている人物の紹介がなくもやもやしていた。自分を膝の上に乗せているこのエルヴィスと呼ばれていた男は一体何者なのだろうか。
シャロンはつい、じっと観察するように見てしまっていた。視線に気がついたエルヴィスが無表情のまま見返してきたため、シャロンは慌てて目を逸らす。そのまま令嬢達が会話に花を咲かせ微笑みながら紅茶を飲んでいる方へと目線を移した。
ふと、テーブルの上に並べられた菓子に目がいった。色とりどりのマカロンやフルーツがふんだんに使われたケーキ。宝石のように輝くチェリーを乗せたクッキーなどどれも食べ物というよりアートに近いのではないだろうか。窓から差し込む日差しで、とろみを帯びた砂糖あめがキラキラと輝きそれもまた幻想的だと、思考を全く関係ない別の方へと飛ばす。
目の保養だと眺めていると、突然目の前が銀色の物体で遮られ、シャロンは思わず驚きの声を上げてしまった。エルヴィスがシャロンの口元にスプーンを出したのだ。そこには少量の液体が乗っている。香りからして紅茶のようだった。
「兄様、何をなさっているのですか?」
エリザベスは令嬢達との会話の途中、彼の行動に気がつき怪訝な様子で問いかける。
「いや、なんか飲みたそうだったから。」
淡々と答えるエルヴィスに対し「いやいやいや。」とシャロンは全力で首を横に振っていた。
「兄様、わかっていると思いますがその黒豚さんは私達と同じ女生徒ですよ?そんな事をして、もし懐かれたらどうするんですか。」
どうしてそうなるのですかと、シャロンは再び首を全力で振る。
そんなシャロンの姿を見たエルヴィスはスプーンを引っ込め、「こっちが欲しいのか?」と今度はチョコレートを口元に差し出してきた。エルヴィスの行いにエリザベスは呆れかえり嘆息をもらす。
しかし、シャロンからすると「いや、お二人とも違いますから。」と自分の行動の意味が伝わっていないことに心の中で嘆いたのだった。
「エリザベス様とエルヴィス様、お二人は本当に仲がよろしいのですね。」
そんな様子を見ていたナターシャが頬に手を当て楽しそうに微笑みながら言う。
「そんな事はないです。兄様は本当に、私に対して関心がないのです。」
「気に掛けなくてもエリザベスはしっかりしているから。」
「それは知っていますが、兄様ももう少ししっかりしてくださったら私も安心ですのに。」
エリザベスは不満そうだったが、エルヴィスは改善する気は一切ないようだ。そのまま平行線で話が続きそうだと察したナターシャは気になっていた別の話題を口にした。
「あの、エルヴィス様は魔法に大変お詳しいとお聞きしましたが。」
ナターシャはエリザベスとエルヴィスの顔を交互に見ながら聞く。
これは聞いても大丈夫な話題かしら?とナターシャの不安そうな表情に気がついたエリザベスは、大丈夫だと言うように頷いた。
「そうなのです。兄様は本当、魔法の事にしか興味がなく魔法書ばかり読んでいるのです。今日だって授業を休んで図書室に行っていたのでしょ?」
「あぁ、気になることがあったから。」
「こうして私が呼び出さなければ一日中こもっています。体のためにも少しは動いてほしいのですが。」
「過度な運動は必要ない。疲れるだけだし時間の無駄。」
「本当、その考え方困りますわ。」
軽く頬を膨らませるエリザベスとマイペースに答えるエルヴィスにまたも会話が平行線になる。ナターシャは眉を顰め笑い、ペトラも優しい表情で話を聞いていた。
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