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07【魔法学園1年生 6】
しおりを挟む図書室︎!?
そんな中、シャロンは一人別の単語に反応していた。先ほどの言葉をさらりと聞き流してしまいそうになったが、確実にエリザベスの口から図書室という単語が発せられていたのを聞き逃さなかった。
エリザベスとシャロンは同じクラスで同学年だ。兄であるエルヴィスが図書室の入室を許可されているということは、彼は3年生なのだろうか。
聞きたいのにこんな姿では何も質問出来ない、この状況に憤りを感じ始めたシャロンは小さく呻いていた。
「図書室の利用は3学年からでは?エルヴィス様は2年生と認識していたのですが。」
知ってか知らずかちょうどペトラが気になっていたことを質問してくれた。「おっ!」とシャロンの耳がぴんと立ち、これ幸いと聞き耳を立てる。
「兄様は特別です。この歳で魔塔にも出入りし、研究にも参加していますので学園側も図書室の入室に許可を出したのです。」
「それは、エルヴィス様はもう3学年分の学習内容を習得しているという事ですか!?」
エリザベスの言葉にナターシャは身を乗り出し聞き返した。水色の瞳をキラキラと輝かせエルヴィスを尊敬の眼差しで見つめている。
思わず出たナターシャの大きめな声に周りは多少驚くが、エルヴィスは動じることなく無表情のまま頷いた。
その姿を見たナターシャの目が更に輝き「本当に!?素敵です!!憧れます。」なんて言うものだからエリザベスとペトラはやれやれと言わんばかりの困り顔で笑う。
ナターシャが興奮のあまり今にも立ち上がりそうでペトラがしっかり座るように横から小突く。はっとしたナターシャは少し恥ずかしそうにしながら「すみません…、つい…。」と言いながらいそいそと座り直した。
「ナターシャ、魔法に頼りすぎの兄は体力が全くありません。すぐに息が上がってしまって私より長い距離を走る事はおろか、剣も握れませんし、今流行りの小説の様に女性をお姫様抱っこするなんて3秒くらいしかもたないと思いますよ。」
「えぇ!せめて5秒は頑張って欲しいです!」
驚きの声とともに素直な感想が出る。ナターシャの裏表のない性格にエリザベスとペトラはくすりと笑みがこぼれた。
3人が楽しそうに笑う中、当のエルヴィスはシャロンの食にしか興味がないようでクッキーやケーキ、プリンなどを次々とシャロンの口元に運び、どれを食べるのか試している。
エルヴィスにシャロンが人間だという認識はあるのか疑わしい。シャロンは段々と腹が立ち、ふいっとそっぽを向いた。
「シャロン。」
その直後にエリザベスが真面目な改まった声で名前を呼ぶものだから、シャロンは身震いした。エルヴィスの行為にそっぽを向いたことで、何かエリザベスの気に障ったのだろうかと。
しかしそれは見当違いのようだった。ケーキとケーキの間から見えるエリザベスの表情は思ったものと違い穏やかだった。
「今日ここへ呼んだのは貴女にナターシャとペトラを紹介したかったからなのです。実は二人とも貴女と同じ平民からの入学です。」
シャロンは予想外の紹介に「えっ。」と目を見張った。まさか平民出身だとは。とても平民出身とは思えない所作と言葉遣いだ。
「この学園は実力主義です。手厚い指導をすると言ってはいますが、実際は実力がある者にこそ学園は学び向上する事に協力してくれます。しかし実力が無い者には容赦ないと言う事をしっかり心に留めておいてください。」
ナターシャとペトラがエリザベスの言葉に頷く。
「貴女には戦闘の実力があるようですが、生き残りたければマナーも身につける必要があるのです。貴族は平民だからという理由で貴女に冷たくあたったり無視をしているわけではありません。貴女が、我々の常識としている最低限のマナーを身につけていないのに、我々の生活圏内に対等な立場として入って来たからなのです。この国のこの小さな学園内に限った話ではありません、貴女に何か目的があってこの学園へ来たのならしっかり剛に従うべきです。それに、もし将来、貴族と関わってお仕事をしたいと思っているのならばここで覚えた事は必ず役に立ちます。……それで初めにあなたは担ぎ上げられ仕方がなくここへ来たのか、自身の意志でここに来たのかを聞きました。」
皆の視線がシャロンに注がれる。
エリザベスの意図が何となく理解出来た。
平民出身者であるナターシャとペトラに会わせることで、学園には自分と似た環境の人達がいること、そして努力し学園に馴染んでいることを伝えたかったのだろう。それは、彼女達にも何か成し遂げたい目的があるのだと言うことだ。
少し沈黙が続いたのちエリザベスは言葉を続ける。
「その姿では言葉を発する事が出来ないでしょう。私の思いは伝えました。元の姿に戻られた時に貴女の言葉で答えを聞かせてください。私がハウエルズとしてこの地位にいる限り、この国にいる人達を助けるのが私の使命だと思っているのであなたにもお声がけいたしました。」
――――
お茶会の後はペトラに女子寮の部屋まで送ってもらい、2時間ほどおとなしく過ごすと変身が解け、元の姿に戻ることが出来たのだった。
エリザベスの部屋を出る際、ペトラに抱きかかえられたシャロンにナターシャが駆け寄り顔を近づけると、即効性はあるが低濃度の毒薬なので時間が経てば解けると、シャロンの耳元で教えてくれたのだ。そのおかげでシャロンは安心して変身が解けるまで待つことが出来た。
シャロンはベットの上で横になりながらエリザベスに言われた言葉を思い出していた。
彼女が言っていたことは正しい。貴族には貴族の常識があり、平民には平民の常識がある。少し考えれば当たり前のことだが今までそのことに気がつかず、自分が平民だからという理由でぞんざいな扱いを受けていると思い込み、他の生徒と壁を作っていたところがあった。
少なくともシャロンの住んでいたところの貴族は、平民を見下し、シャロンを見かける度に汚らわしい者を見る目つきで負の感情を剥き出しにしていた。
そんな扱いを学園でも受けるだろうと思いはじめから一人で居た。しかし実際は一匹狼のように振舞う姿はさぞ滑稽だったろう。今考えると恥ずかしい。
エリザベスから言われたのは、貴族の大多数が平民を下の者だと馬鹿にすることを美徳としていないということだった。
ここで生活し、目的を達成したいのなら貴族の考え方についても理解しなければならない。こんな当たり前のことに気がつかないなんて終わっている。
ナターシャとペトラの努力は相当なものだっただろう。基本的に平民が貴族のマナーを学ぶ場所などない。それにペトラに至ってはマナーだけでなく女性があそこまで体を鍛えるのは大変なはずなのだ。
シャロンは今までの生半可な気持ちでこの学園にいては、祖父の願いを叶えることは難しいだろうと思った。本当に祖父のことを思うなら覚悟を決める必要がありそうだ。
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