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夕食と父親

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 ドレスに着替え、レイナがダイニングへ向かうと、予想通りそこにアイリスとルナリアの姿はなかった。

「ねぇ、アイリスの様子わかる?」

 適当にその辺にいたメイドにレイナは聞く。

「アイリス様でしたら軽くお熱があるようで。先ほどパン粥をお部屋にお持ちしました。これからルナリア様のお食事もお運びする予定です」

「そう」

 侯爵である父の席はまだ空いている。

「申し訳ないんだけど、私の夕食も部屋に運んでもらえるかしら?」

「承知いたしました。すぐお運びしま――」

「ん?」

 ことばが途切れたのを不審に思い、レイナが後ろを振り向くとそこには父である侯爵が立っていた。

「どうした。レイナ。食事をしないのか」

「いえ、この時間にお父様が食事をとられるのは珍しいですね」

「あぁ、今日は早めに手が空いてな。せっかくなら、家族と夕食をと思って来てみたんだが、レイナだけか?」

「アイリスはピアノのレッスンで興奮してしまって、今はお部屋です。お母様も一緒に」

「そうか。じゃあ食事にしよう」

 父と2人きりの食事。レイナの記憶の中にもそう数はない。
 小さいころはレイナが1人きりで食事をするのを可哀そうに思ってか、度々あったが、アイリスとルナリアが一緒に食事をするようになってからは1度もなかった。

 異様な雰囲気が漂う中、レイナは席に着く。

 思わず、執事見習いであるリアンの姿を探したが、部屋の中には見知った4人の姿はなかった。

 “見習い”という身分である彼らは、基本的には表に出る仕事をしない。

 侯爵がいない時ならば、練習もかねて彼らが仕事をすることもあるが、今日のように侯爵がいる時点で彼らの姿は扉の向こう側だ。

 レイナの周りにいるのはベテランのメイドや執事だけ。

 前菜の皿が並び、静かな父子の夕食は始まった。
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