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色褪せたこの世界で
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目覚ましが鳴り響くちょうど5分前、意識が浮上する。6時25分。染み付いた習慣はあと5分の二度寝など許してはくれない。
仕方なく布団から出て、スマホのアラームを切る。
カーテンを開くと薄暗かった部屋に日差しが差し込み、眩しさに紗菜は目を細める。どうやら今日は快晴らしい。
顔を洗って、シャツに着替える。
冷蔵庫を開けて、昨日の残り物で適当に朝ごはんを済ませ、メイクをしたら、ジャケットを羽織って家を出る。通勤用の黒いトートバックはパソコンと資料で鉛のように重い。
満員電車に揺られ紗菜は会社へと向かう。望んでついた訳では無い営業職。適性も特別あるとは思えない。売上という数字に追われながら、ただ惰性で毎日を生きる。
出社して、掲示板とメールのチェック。それが終わったらひたすら営業。別に何が嫌だという訳でもない。特別ブラックな会社では無いし、普通の会社で、普通の仕事。
それでも日々世界は色褪せ、同じ日が繰り返されていく。
今日も一日、何となく生きて、紗菜は会社を出た。定時より1時間後。真夏の外は既に暗く、都会の狭いどんよりした灰色の空には星のひとつも見えない。
あまりにも憂鬱すぎて、紗菜はイヤホンを取り出して、スマホのプレイリストからシャッフルのボタンを押した。
~♪
流れてきたのは、学生時代によく聞いていた大好きなアイドルの曲。正直、今のスマホにも入っているとは思ってなかった。
シュールでくだらない、ちょっと笑える。それがあの頃聞いたこの曲の印象だった。だから、ふっと笑えると良い、そんな気持ちで特に意識を集中させるわけでもなく軽いBGMとしてその曲を流し続けた。
なのに……。
ツーっと頬に雫が流れた。泣ける曲だなんて思ったことはない。なのみなぜか涙が溢れてくる。たまらなく悲しいわけでもない。意味が分からず、駅へと向かっていた紗菜の足は歩みを止めた。
あの頃と同じ曲、同じ歌詞、同じメロディー。何も変わっていない。
変わったのは、紗菜の方だった。
歌詞が今までとは全く違って聞こえる。
この曲はただシュールで面白い曲じゃない。毎日必死に仕事をしている人に寄り添う曲だった。
紗菜はずっと社会人になんてなりたくなかった。社会人になっていいことなんて一つもないと思っていた。
でも、この曲がこんなにも美しく沁みるのならば。
社会人になるということも、それはそれで良かったのかもしれないと初めて紗菜は思った。
だってキラキラと鮮やかに輝いていた学生時代には絶対に気づけなかったから。
たった1曲で世界が鮮やかに蘇る、なんてことはない。学生時代のような輝きは戻ってこない。世界は未だに色褪せたまま。それでも、まだ、頑張れる。
紗菜はポケットからスマホを取りだし、リピートボタンを押した。
仕方なく布団から出て、スマホのアラームを切る。
カーテンを開くと薄暗かった部屋に日差しが差し込み、眩しさに紗菜は目を細める。どうやら今日は快晴らしい。
顔を洗って、シャツに着替える。
冷蔵庫を開けて、昨日の残り物で適当に朝ごはんを済ませ、メイクをしたら、ジャケットを羽織って家を出る。通勤用の黒いトートバックはパソコンと資料で鉛のように重い。
満員電車に揺られ紗菜は会社へと向かう。望んでついた訳では無い営業職。適性も特別あるとは思えない。売上という数字に追われながら、ただ惰性で毎日を生きる。
出社して、掲示板とメールのチェック。それが終わったらひたすら営業。別に何が嫌だという訳でもない。特別ブラックな会社では無いし、普通の会社で、普通の仕事。
それでも日々世界は色褪せ、同じ日が繰り返されていく。
今日も一日、何となく生きて、紗菜は会社を出た。定時より1時間後。真夏の外は既に暗く、都会の狭いどんよりした灰色の空には星のひとつも見えない。
あまりにも憂鬱すぎて、紗菜はイヤホンを取り出して、スマホのプレイリストからシャッフルのボタンを押した。
~♪
流れてきたのは、学生時代によく聞いていた大好きなアイドルの曲。正直、今のスマホにも入っているとは思ってなかった。
シュールでくだらない、ちょっと笑える。それがあの頃聞いたこの曲の印象だった。だから、ふっと笑えると良い、そんな気持ちで特に意識を集中させるわけでもなく軽いBGMとしてその曲を流し続けた。
なのに……。
ツーっと頬に雫が流れた。泣ける曲だなんて思ったことはない。なのみなぜか涙が溢れてくる。たまらなく悲しいわけでもない。意味が分からず、駅へと向かっていた紗菜の足は歩みを止めた。
あの頃と同じ曲、同じ歌詞、同じメロディー。何も変わっていない。
変わったのは、紗菜の方だった。
歌詞が今までとは全く違って聞こえる。
この曲はただシュールで面白い曲じゃない。毎日必死に仕事をしている人に寄り添う曲だった。
紗菜はずっと社会人になんてなりたくなかった。社会人になっていいことなんて一つもないと思っていた。
でも、この曲がこんなにも美しく沁みるのならば。
社会人になるということも、それはそれで良かったのかもしれないと初めて紗菜は思った。
だってキラキラと鮮やかに輝いていた学生時代には絶対に気づけなかったから。
たった1曲で世界が鮮やかに蘇る、なんてことはない。学生時代のような輝きは戻ってこない。世界は未だに色褪せたまま。それでも、まだ、頑張れる。
紗菜はポケットからスマホを取りだし、リピートボタンを押した。
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