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三章

五、いざ、出発ーある日の兄弟ー

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「いやあ、ちょっと降らせ過ぎたかな……」

やっと帰ってきた兄が弱りきった表情で首を振った。

「ごめん、兄ちゃん急いでまた出ないといけなくなった」  

人間界の雪を肩に乗せたまま帰ってきたと思ったら、またどこかへ行くらしい。
今日の見回りは一緒に行けると楽しみにしていたのに。

「ちぇっ」

「そうむくれるなって。ちょっと予想外の事案が発生してな」

つまらなそうにしていた俺をなだめながら、ドアに手をかけた。  
そういえば、この間の会議でマガドとの連絡が途絶えたって言ってたっけ。
 
「……そうだ、手が空いているなら一緒に来てくれないか?」 
    
 
二人での海の散歩を諦めていたところなのだから、願ったり叶ったりだ。

「もちろんだよ!」
―ーで、一体どこへ?
二つ返事で引き受けてから、行き先を聞いていないことに気がついた。
でも、そんな事はどうでも良いし、一緒に行けるならどこだっていいやと思っていた。
  
 
 まさか、それが魔界だったとは。
 
さすがにそれにはこちらも予想外だったが、人間界へ降りる時用の姿から元に戻っていた事と合点がいった。

「どうやら、例の村に置いてきた勇者がちょっとな。」

 兄は、「そういえば鍵はどこだったか」と、ガサゴソ自分の腰巻きの辺りを探しながら、その経緯を話し始めた。
  
 普段は開かずの間のような扱いになっているこの部屋は、魔界へ行くことができるというが、鍵を開けるのはいつぶりだろうか。
鍵のは兄にしか分からないのだから、内心冷や冷やしながら待った。

  
「あぁ、あったあった。じゃあ、行こうか」

数分は色々な所をめくったり探ったりしていたが、結局は腰巻きの間から見つかったらしい。

――ガチャ、ガチャ 


古びた錠前を外すと、ゼウスの同伴でしか他は入ることのできない開かずの間のドアが、静かに開き、中から冷気が漏れ出した。 
 
     

            
 

 
 

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