お兄の花嫁選び 思っていたのとは違うんですが……なぜですか?

神栖 蒼華

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10 挑戦状

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 翌朝。
 ラマにいつも通りに起こされ、着替え、テーブルで待つこと十分。
 目の前には湯気の立つ美味しそうな朝食が並んでいた。

 ……遅いなー。
 いつもならとっくに挨拶に来ている時間なのに、お兄が来ない。
 どうしたんだろうか? 寝坊? 今まで一度もなかったのに? 寝起きのいいお兄が?
 あっ……と、いけない。これからはダウール様と呼ばなければいけないんだった。
 けじめね、けじめ! けじめはしっかりとしなければいけないのだから。

 自分に言い聞かせ、心の中で繰り返す。

「ラマ。ダウール様はまだいらっしゃらない?」
「はい」
「そう。珍しいね」
「さようでございますね」

 ラマが見かけていないのならば、すぐには来ないのだろう。
 美味しく作ってくれた料理を冷ましてしまっては作ってくれた人にも申し訳ないから、挨拶に来る前に食べることにした。食事する時間は決まっているし、それがずれてしまってはいろいろな人達に迷惑をかけてしまう。ダウール様もフィーリアが先に食べていても怒ったりはしないだろうと思って食べ始めることにした。

「今日も美味しそうなご飯だね! いただきます」

 並ぶ皿の中で一際目を引く料理を一口食べる。
 んー! 美味しい! ホロリと口の中で解ける柔らかい肉と広がる旨味に、自然と笑顔になってしまう。
 今朝の料理もとても美味しかった。このまま身体を動かさないでいると太ってしまいそうだった。
 夢中で食べながら運動でもした方がいいかと今日の予定を考えていたら、いつの間にか食事が終わっていた。
 ひと息ついて、まだダウール様が来ていないことに気付いた。食べ終わる時間になっても来ないのは初めてだった。
 食事中だから遠慮した? いや、ダウール様の性格ならそれはないよね。

「ラマ。ダウール様はいらっしゃった?」

 食器を片づけているラマに声をかけると、首を振られた。

「いいえ。お見えになっておりません」
「そう」

 急ぎの用事でもあったのかな?
 よく考えれば国王陛下なのだから、忙しいのは当たり前かもしれない。
 ひとりで納得していると、ラマがお茶を用意してくれた。

「ありがとう」

 ラマにお礼をいうと、一瞬観察するような視線を向けられたあと、ラマは微笑んだ。

「本日はどうされますか?」
「そうだね──」

 その時、来客を告げるノックの音が響いた。
 その音にラマは確認するために扉へと向かう。すぐに話し声が聞こえて、ラマが戻ってきた。

「お嬢様。国王陛下の侍従という方が、陛下の伝言をお嬢様に直接伝えるようにとのご下命を受けていらっしゃいました。お通ししてもよろしいでしょうか」
「ええ、もちろん」

 侍従が訪ねてくるなんて初めてのことで驚いたけれど、わざわざフィーリアに直接伝えるようにと言われて来ているのだから、余程重要なことなのだろう。
 少し緊張して、侍従が来るのを待った。

 ラマが部屋に入ってきた後、後ろから一人の男性が現れた。──と思ったときには、その男性は部屋の中へ倒れ込んでいた。

 は?
 ……え、えええっ!?
 倒れた? いや、つまずいた?
 やって来た侍従はとても派手に転んでいた。

「ったた」
「大丈夫?」

 後頭部しか見えない侍従に、助け起こすために手を伸ばす。
 見事といってもいいような、バタンという音が聞こえそうな勢いで倒れた侍従は、フィーリアの声に素早く身体を起こし姿勢を正した。
 そのあまりにも素早い動きで礼法の姿勢になった侍従に呆気にとられ、必要なくなってしまった手を戻した。
 侍従は完璧な姿勢をとると、一度深く頭を下げる。

「失礼いたしました。お初にお目にかかります。侍従のハウリャン・トオと申します」

 挨拶する声には微塵も動揺がみられず、逆にフィーリアの方が戸惑ってしまったほどだ。

「初めまして。わたしはフィーリア・ハルハです。よろしくお願いします」

 フィーリアも動揺を隠し平常心を装って挨拶を返すと、侍従は伏せていた瞳を一瞬だけ大きく見開いた。その後、また一層深く頭を垂れた。そして動かなくなった。
 これはフィーリアが許可を出さないと頭を上げられないということだろうか。

「それで、陛下からの伝言とは何でしょうか?」
「はい。申し上げます」

 そこで初めて目が合った。
 真っ直ぐな目をしたハウリャンは、しかし、少し困惑気味に言葉を続けた。

「『今夜はニルン嬢と食事をする』」

 ???
 ………それだけ?
 しばらく待ってみても、次の言葉はなかった。
 ……ああ、だから、ハウリャンは困惑した顔をしていたのか。
 それはそうだよね。国王陛下がわざわざ別の妃候補者のところへ行くのを伝えるなんて、普通おかしいものね。

「確かに承りました。ありがとうございます。トオ侍従」
「私のことはハウリャンと呼び捨てでお願いいたします。──それでは、確かにお伝え致しました。御前を失礼いたします」

 ハウリャンは最後まで腑に落ちない顔で帰っていった。

 ただ、フィーリアにはダウール様の言葉の意味がちゃんと伝わっていた。
 約束を守ったのだから、フィーリアも約束を守れと言っているのだろう。

 いいですとも! その挑戦、受けて立つ。
 次、会ったときは完璧に妃候補者としての礼儀を持って対応して見せましょうとも。
 気合を入れる為に、握りこぶしを作った。


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