お兄の花嫁選び 思っていたのとは違うんですが……なぜですか?

神栖 蒼華

文字の大きさ
14 / 67

11 アルタイ登場

しおりを挟む

 フィーリアの決意虚しく、翌日以降ダウール様は朝の挨拶も一緒に食事をすることもなくなった。
 折角気合を入れて、淑女らしく迎え撃つつもりだったのに、拍子抜けしてしまった。
 代わりに毎朝来るようになったのが、侍従のハウリャンだ。
 フィーリアに直接伝えるように厳命されているのか、必ず部屋までやって来てその日の夜訪ねる妃候補の名前を告げていった。どうやらダウール様の伝言を伝えに来る役目になってしまったようだ。

 ハウリャンが帰って行ったあと、フィーリアが自室でお茶を楽しんでいると、来客を告げるノックの音がした後、ラマが慌てて戻ってきた。

「お嬢様。お嬢様にご用があると仰っている方が見えてます」
「そう。お通しして」
「失礼しますよ」

 フィーリアが返事を返したと同時に、ハウリャンとは違う声がして、驚いて視線を向ける。
 ラマの後ろに、一人の男性が立っていた。

 ……どちら様? 

 ハウリャンだと思って誰が来たのかを確認せずに返事をしたフィーリアは、見たこともない男性が現れて驚いて凝視してしまった。
 歳の頃はお父様くらいに見える。文官のような出で立ちで、その男性は部屋の中をぐるりと見回したあと、フィーリアの目を真っ直ぐに捉えた。

「おや。王はこちらではなかったようですね」

 驚くフィーリアに構わず、確認するように問われ、戸惑う。
 王と敬称なく呼ぶことから、ダウール様の近しい人なのかもしれないと思った。
 それならば、答えないわけにはいかないと思って、とりあえず問いに対して返答する。

「はい。こちらには来ておりません」
「そうなのですか?」

 観察するような視線を感じ、なんだか居心地が悪かった。
 フィーリアが何かしてしまって、注意にでも来たのだろうか? 
 突然やって来た男性の意図が分からず、対応に困る。

 ……それにしても誰なんだろうか?

 ハウリャン以外の男性が訪ねてきたのは初めてだった。見るからに身分が高そうで、しかも風格のあるというか、油断できない雰囲気のある男性だった。
 緊張感漂う中、男性はスッと姿勢を正して胸の前に手を置いて礼をした。

「申し遅れました。私は宰相職を務めているアルタイ・ムングという者です」
「っ! 宰相様でいらっしゃいましたか。お初にお目にかかります。フィーリア・ハルハと申します」
「存じておりますよ」

 宰相様の言葉でフィーリアの失敗が露見してしまった。
 宰相職に就いていらっしゃる方を知らなかったことと、その事を宰相様に直接言ってしまったことだ。
 ああ、どうしよう。
 後悔しても口から出てしまった言葉は戻せない。今、言葉を重ねたら言い訳にしかならない気がして、宰相様の言葉を待つしかなかった。
 沈黙のなか、そんなに長い時間が経っていない筈なのに、何も言葉を発さない時間に耐えられず、思考が違う方へと逸れていく。
 ……なんで宰相様はここへ来たのだろうか。
 ……そういえば、王を探しに来たと言っていたような気がする。
 ……ということは、宰相様がわざわざダウール様を探しているの?
 なんで? 今の時間は執務中だよね?
 まさかダウール様が行方をくらませた?
 いや、意外と真面目なダウール様がそんなことするわけないよね?
 つらつらと理由を思い浮かべても、宰相様が直接訪ねてくるような、しっくりくる理由が思い当たらなかった。

「何をされていたのですか?」

 耐えがたい緊張感の中、現実逃避していたフィーリアは宰相様からの問いかけに現実に戻された。聞こえた声が思っていたよりも普通の声に聞こえ、お叱りはないのかと視線をあげたら、鋭い視線を受けて、冷や汗が流れる。

「はぃっ! えっ……と、お茶をいただいておりました」

 ちらりとフィーリアはテーブルの上に視線を向ける。
 テーブルの上にはお茶とお菓子が乗っているだけ。怠けているようにしか見えない部屋の状態だった。
 悪いことはしていない筈なのに、事実を述べることがつらく感じるのはなぜだろう。

「そうですか。なにやらお時間が余っていらっしゃるようですね? それでは時間を有効活用するために勉強は如何いかがでしょう」
「え?」
「すぐに手配いたします。それでは私も忙しいので、これで失礼しますよ」
「えっ、あの……」

 問いかけた声にも振り返らず、宰相様はさっさと帰ってしまった。
 口を挟む隙すらも与えてもらえなかった。
 意味が分からない。宰相様は本当に何しに来たのだろうか。

  □□□

 暫くすると、宰相様に言われて来たといって、侍女長のセチュンと側近のカブルという男性が大量の本を持って現れた。

「お初にお目にかかります。侍女長のセチュンと申します。こちらはダウール様の側近を務めているカブルでございます」
「フィーリア・ハルハです」

 展開についていけず、呆気にとられたままのフィーリアは、名前を告げるだけで精一杯だった。そんなフィーリアを置いてきぼりにして、どんどん話が進んでいく。
 フィーリアはテーブルの前に座らされ、目の前にいくつもの本が広げられる。

「それでは、本日はこちらの本から勉強を開始いたしましょう」

 セチュンとカブルの見守る中、無言の圧力に負けてペンを動かした。

 なんで? なんで突然勉強することになるのーー?!

 口には出せない言葉を心の中で絶叫した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

処理中です...