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13 ムーリャンという女 1
しおりを挟む声がする方に視線を向けると、王宮内で見かけるにはあまりにも場違いな服装をした女性が若い文官の男性にもたれかかっていた。
!!
え?
ええ!?
その光景の衝撃が強すぎて、頭が一瞬考えることを拒否していた。
その女性の第一印象は、まるで娼婦のようだ……だった。
胸の谷間を見せつけるかのような、へそまで見えるほどの隙間のあいた布を重ねているだけの服は、少し屈めば胸が溢れそうだ。スカート部分は薄い布を重ねただけで僅かに透けていた。しかもわざとなのか、片足をスカートの布の隙間から出して、側にいる男性に見せつけているようだった。緩く波打つ茶色の髪の毛を耳にかけ、真っ赤な唇は男性の耳の近くで囁き、赤紫色の瞳が誘うように男性を捉えていた。
女性に捕まっている男性は顔を真っ赤にして、狼狽していた。
その女性は、何というか、全体的に下品な印象だった。
フィーリアが足を止めたのに合わせた、というよりはセチュンもカブルも同じ女性を見つけて立ち止まったようだ。
見れば二人はともに顔をしかめ、その場違いな女性を見ていた。そんな顔になる気持ちは分かる。こんな王宮のど真ん中で、見かけるような女性ではないのだから。
「なぜ、このような場所にムーリャン様がいらっしゃるのか……」
セチュンの苦々しく言う呟きを拾ったフィーリアは、疑問に思って問いかけた。
「ムーリャン様?」
フィーリアの言葉にハッと気がついたように、フィーリアを見た。
そして、なぜか言いずらそうに視線を彷徨わせたあと、女性の情報を教えてくれた。
「……ダウール様の妃候補者のお一人です」
「──?!」
驚きすぎて、声も出せなかった。
え? 嘘でしょ?!
あの女性もダウール様の妃候補なの?!
……えぇ?! ……ダウール様、なにを考えてあの人を選んだの?
二の句を告げなくなっているフィーリアの頭の中は、ダウール様への問いかけでいっぱいになっていた。
その間に、セチュンはムーリャン様に近づき話しかけていた。
「失礼いたします。こちらで何をされておられるのですか?」
突然話しかけてきたセチュンに、ムーリャン様は気分を害したように睨みつけた。見下しているのが丸わかりの視線をセチュンに向ける。
「あたくしを知らないの?」
「存じております。ただ、このような場所で殿方とお話しされるのはムーリャン様にとってよろしくないのではないかと思い、お声がけさせていただきました」
「はあ? そんなのあたくしの勝手でしょう。お前如きに指図される覚えはないわ」
「しかし、こちらは仕事をする場所でございます。その者も──」
「うるさい! 指図するなと言ったでしょう」
セチュンの言葉を遮り、怒鳴りだしたムーリャン様に、フィーリアはセチュンを庇うように一歩前に進み出た。
「お初にお目にかかります。ご挨拶申し上げても宜しいでしょうか?」
突然話しかけたフィーリアが下出に出たのが良かったのか、不機嫌な顔のまま一瞥をくれたあと、視線で続きを促した。
「わたしはフィーリア・ハルハと申します。ダウール様の妃候補者の一人として参りました。どうぞよろしくお願いいたします」
フィーリアの言葉を聞いたムーリャン様は驚いたあと、品定めするようにフィーリアの頭から爪先へ、爪先からまた頭へと視線を向けてから、鼻で笑った。
「あなた、地味ねぇ」
しみじみと馬鹿にしたように笑うムーリャン様に、フィーリアはにこりと笑い返した。
物語を読んでいたから、なんとなく言われそうな言葉が予想できて、余裕を持って対処出来た。
フィーリアがまったく動じないことに、気分を害したようで口を引き攣らせた。そして、興味を削がれたのか、そのまま何も言わずに去っていった。
ムーリャン様の姿が見えなくなってから、フィーリアはほっと一息ついた。
これまた強烈な人が妃候補としてやって来たようだ。
最後の妃候補がまさかあんな人だとはフィーリアも想像していなかった。
どう考えても性格の悪そうなムーリャン様に、物語の意地悪な女性と重なって見えてしょうがなかった。ということは物語のようなバトルが始まるのだろうか。見たいような見たくないような不安を感じた。
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