お兄の花嫁選び 思っていたのとは違うんですが……なぜですか?

神栖 蒼華

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38 結論 2

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 突然聞こえた声に目を向けると、セイリャン様を拘束していた警備兵が指から血を流していた。そしてセイリャン様の唇には血が付いていた。セイリャン様は口を塞いでいた警備兵の手を噛みついて引き剥がしたようだった。
 口に付いた血を気にすることもなく、セイリャン様は納得がいかないと激しく憤っていた。
 セイリャン様の激しい気性を物語るような姿に引きつつ、ここに至ってもまだセイリャン様は自分の状況を理解していないことに驚いた。今、この場はセイリャン様の罪について裁きを行っているのに、なぜ理解していないのか。
 というよりも、そもそもセイリャン様は不貞行為とはどういうものがわかっていないのだろうか。
 不貞をしていないといっているが、複数の男性に言い寄り、誘惑をし、その中の何人かには口づけていた。
 その姿をフィーリアもニルン様もクトラも、実際に目にしている。それを不貞行為と言わず、何というのか。

「証人もいると言った筈だが?」
「それはあたくしを妃から引きずり下ろすために、そこの目狐たちが仕組んだことですわ。ダウール様はあたくしを愛していらっしゃるのですもの。あたくしを信じてくださるでしょう?」

 どこまでも都合の良いように考えるセイリャン様には呆れるばかりだけれど、証人もいると言っても信じていないようだ。

「──私はセイリャン嬢を愛してなどいない」
「え? 何を仰っているのですか? ……ああ、照れていらっしゃるのね。皆の前だからって嘘をつかなくてもいいんですのよ? この際はっきりと伝えるべきですわ。あたくしを愛していると、あたくしを妃にすると」

 セイリャン様を愛していないとはっきりと言い切ったダウール様を一瞬不思議そうに見たあと、熱に浮かされたように語り出した。セイリャン様は本当にそう信じているようで、自分の言ったとおりになると確信しているようだった。まったくと言っていいほど、自分の置かれた状況を理解していなかった。
 セイリャン様と対峙しているダウール様は眉間にしわを寄せた。そしてため息をつきそうになったのを堪えるように飲み込んでいる。
 その気持ちはフィーリアにもよくわかった。
 セイリャン様に言葉が通じていないように思えて、フィーリアもため息が出そうになる。もちろん飲み込んだけれど。

「セイリャン嬢が正妃になることは絶対にない」
「……仰っていることがわかりませんわ」
「セイリャン嬢は国家偽証罪と不貞行為の罪を犯した。だから、正妃になることは出来ないし、罰を受けなければならない」
「意味がわかりませんわ」
「……それがわかっていないことが、一番の罪かもしれないな」

 頭が痛いとでも言うように、ダウール様は顔を顰めた。
 それはその場にいるセイリャン様以外の室内にいた人達も同じだった。

「とにかく、セイリャン嬢の罪は明らかである。従って罪状に合わせた罰を受けてもらう」
「何を仰っているのかわかりませんわ。あたくしは罪など犯しておりません」
「セイリャン嬢に理解できなくても、法に則って罪は裁かれる。これは決定事項だ」

 ダウール様の冷たくも感じる言葉に、さすがにセイリャン様も顔を強張らせた。
 そして、ブルブルと震え出すと見たことも無いような鬼の形相でダウール様を睨みつけた。

「陛下だからといって、あたくしにそのような口をきくのは許されることではないわ」

 ついに直接的な不敬の言葉を投げつけた。

「その者を拘束しなさい」

 ダウール様の隣で静かに成り行きを見守っていたアルタイ様が、警備兵に命じた。
 ダウール様はこんなことくらいで不敬罪として処罰することはないだろうけれど、周りにいる人達にとっては許してはならないことだった。
 国王陛下が臣下に侮られてしまっては国として成り立たないのだから。権力で従わせることではないのかもしれないけれど、常識の通じない者を牽制するためには必要なことだった。

 アルタイ様の命令で今度はしっかりと罪人として拘束された。
 あれでは身動き一つ取れないだろう。
 先ほどまでの拘束がどれ程優しかったのかわかった。

「陛下、発言をお許しください」
「申してみよ」
「陛下。セイリャンの処罰でございますが、こちらで行わせて頂けませんでしょうか。これ以上、皆様にご迷惑をおかけするわけには参りません。カレルタ領内で厳罰に対処いたします。他にも処罰しなければならない者達がおりますので、どうか任せて頂けませんでしょうか」

 そう奏上したカレルタ豪主には父親としての情は一切見られなかった。
 一豪主としての厳しさが感じられて、ダウール様が処罰するよりもよほど厳しい罰を与えそうに見える。
 それをダウール様も感じとったのか、一つ頷いた。

「いいだろう。セイリャン嬢の処罰はカレルタ豪主に一任する」
「ありがとうございます。それでは、準備が整うまでセイリャンを牢に入れたいと思います。許可を頂けますでしょうか?」
「許可する。セイリャン嬢を連れていけ」
「はっ」

 ダウール様の声に、セイリャン様を拘束していた警備兵は立たせ、激昂していたセイリャン様を連行していく。

「何するの?! お父様! 今牢に入れると言ったの? あたくしを牢に入れるの?! あたくしはカレルタ豪主の娘よ! お父様の娘でしょう?! なぜお父様がそんなことを言うの? ……離して、あたくしはお父様に─────」

 最後まで自分の罪を認めないまま、連れ去られてしまった。
 いつかわかって後悔するときが来るのだろうか。────今までの様子を見るに、それは大変難しいことに思えた。セイリャン様の考え方の根本はどこまでいっても自己中心的なものだった。だから、今回も自分は悪い事をした自覚はないように思えた。セイリャン様が少しでも周りのこと、自分以外のことに目を向けることが出来ていたら、人に迷惑をかける恐さもそれに伴う責任にも考えが及んだかもしれない。けれど、それを知る前にもう後戻りのできないところまで来てしまった。自分の父親に牢へ入れると言われてしまったのだから、この後の行く先は決して楽なものにはならないと思う。それが少し気の毒に思った。
 もちろんセイリャン様の行いは許されるものではない。理解していないからといって、人を騙したり、立場の弱い者を傷つけたり、不貞行為をしたことは許せないけれど。……許せないけれど、もっと早くに誰かに教えられていたらこんな結果にはならなかっただろうにと思った。
 これから、人を傷つける恐さも痛みを感じるられるようになれたらいいと思った。
 そこまで思うと、フィーリアを厳しく育ててくれたお父様には感謝しかなかった。もちろんお父様以外にも、お母様やラマ、周りにいる全ての人達からたくさんの事を教えてもらえる環境にあったことが大きかったのだとも思う。とてもありがたいことだと改めて実感することが出来た。帰ったときにちゃんと言葉にしてありがとうと伝えよう。

「では、今回の件はここだけの話ということでお終いだ」

 ダウール様がそう締めくくる。

「そうですね。では、皆さん。職場に戻って仕事をしてください。能力のある皆さんですから、遅れを取り戻すくらい訳はありませんでしょう」

 アルタイ様の言葉に、集まっていた文官が蜘蛛の子を散らすように去っていった。
 あと残ったのは、ダウール様とアルタイ様、フィーリアとニルン様、クトラ、それにカレルタ豪主とムーリャン様だけになった。
 カレルタ豪主がダウール様の前へと一歩進み出た。

「陛下、ご要望の件、協力叶わず誠に申しわけございません。今回の件でムーリャンは妃候補を辞退させていただきたく存じます」

 カレルタ豪主がムーリャン様の妃候補辞退を申し出た。
 ダウール様が内々で処理すると言っていたので、対外的にはムーリャン様はそのまま妃候補として後宮に滞在できた。けれど、さすがにそんなことは出来ないと思ったのだろう。
 ムーリャン様本人には罪はないけれど、それは仕方のないことなのかもしれなかった。

「あっ、ああ、それは仕方ないな」

 なぜか狼狽えて、フィーリアに視線を寄こす。
 そこでなぜこちらを見るのだろうか。

「それではダウール様、私も先に失礼しますよ。出来る限り早く戻られてくださいね」
「わかった」

 アルタイ様とともにカレルタ豪主とムーリャン様が去っていくと、ダウール様は私達に向き直った。

「皆には迷惑をかけて申し訳なかった」

 そういうと、身体を直角に倒して謝罪した。
 それに慌てたのはこちら側だ。陛下に頭を下げさせてはいけないことくらいわかる。公の場では特に、例えこの場にフィーリアとクトラ、ニルン様しかいないとしてもだ。

「陛下。そのようなことはおやめください」
「そうですわ。けじめというものがございますのよ」
「それこそけじめというなら、謝罪は当たり前のことだ」
「ですから、それを行う場所が悪いと申しておりますの」

 クトラとニルン様の言葉にも一向に頭を下げたままだ。
 このままでは平行線のままな気がして、口を挟んだ。

「とりあえず、わたしの部屋へ移動しませんか?」
「そうですわね。そうしましょう」
「……わかった」


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