お兄の花嫁選び 思っていたのとは違うんですが……なぜですか?

神栖 蒼華

文字の大きさ
21 / 67

18 物語のように

しおりを挟む

 翌日、ラマを連れて、歩いていた時。

「不細工ねぇ」

 嘲笑するような笑い声とともに、酷い言葉が聞こえてきた。

「いつまでここに居るつもりなの? まさか、自分が選ばれるかもなんて思っているわけじゃないでしょう? 王はあたくしを選ぶのよ。世界一美しいあたくしに王はぴったりでしょう? 国一番の高い地位で端整な顔立ちの王はあたくしを飾るのに相応しいのよ?」

 この声が誰かなんて分かりきっていた。聞き違える訳もないムーリャン様の、不敬とも言える言葉に耳を疑った。

「ふふ。何も言えないのね。そうよね。あたくしは美しいもの。そして、泣いている顔まで不細工なあなたは身の程をわかっているのよね?」

 あまりにも酷い言葉に、足を止めていたフィーリアは、誰に向かって言っているのか確認するために足を進めた。

「なんとか言ったらどう?」

 ちょうど姿が見えたと思ったら、高圧的な上からの物言いに、竦み上がって涙を流すウルミス様の姿が目に入った。

「早く目の前から消えなさいよ」

 泣いているウルミス様と目が合い、一瞬目を見開いたウルミス様は、ムーリャン様のキツい言葉に身体をビクリと震わせ、あっと思ったときには身を翻して走り出していた。

「ウルミス様!」

 呼びかけた声にも止まらずウルミス様は離れていく。
 急に現れたフィーリアにムーリャン様も驚いたのか、目を見開いたあと、鼻を鳴らして去っていった。

 ムーリャン様に言いたいことはいっぱいあったけれど、今はウルミス様が心配で後を追うことにした。



 いくつかの角を曲がり、意外と足が速いウルミス様を通路の先に見つけ、駆けよろうとしたとき、反対側から歩いてきていたダウール様がウルミス様を見つけて近寄っていくのが見えた。
 それを見て、フィーリアは足を止めた。

 連れていた側近を先に帰らせたダウール様は、俯いているウルミス様に声をかけた。
 声をかけられたウルミス様はダウール様がいたことに驚いたように身体をビクつかせていた。どうやら、前を見ずに歩いていたようで、突然現れたダウール様に驚いたようだ。

 顔を上げたウルミス様が泣いているのに気付いたダウール様は、僅かに驚いたあと、そっと指で涙を拭った。

 (ああ……、無骨なダウール様はハンカチを使うといった事を忘れがちな人なんだよね……)
 その様子を見たフィーリアはそっとため息をもらす。

 頬に触れたダウール様の指に驚いたウルミス様は、遠くから見ているフィーリアにもわかるほど固まっていた。

 (あー……、そりゃあ、突然触れられたら、驚くよね、普通は……)
 やらかしたダウール様を見てしまい、聞こえないとわかっているけれど、心の中でウルミス様に謝った。

 ウルミス様が固まったことにようやく気がついたダウール様は、胸もとからハンカチを取り出し、そっと涙を拭う。ウルミス様の頬にはもう涙は流れていなかった。どうやら驚いた拍子に引っ込んでしまったようだ。
 涙が止まったウルミス様の視線に合わせるように屈んだダウール様は、なにかを問いかけていた。
 いくつか会話をした後、ウルミス様は顔を真っ赤に染めて、また泣き出してしまった。
 また、泣き出したウルミス様に慌てたダウール様は、オロオロと手を彷徨わせたあと、そっと抱き寄せウルミス様の背中を優しくあやすように叩く。
 抱き締められたウルミス様の手がおずおずと遠慮がちに、ダウール様の服を掴んだのが見えた。


 その二人の姿が、まるでよく読んだ物語の中の一場面のようだった。
 さながらヒロインと国王の恋が始まる瞬間。もちろんヒロインはウルミス様で、国王はダウール様だ。

 そう思った時、ツキンと胸が痛くなった気がした。

 その後も寄り添い合う姿に、もうウルミス様は心配ないように思えて、そっと目をそらし自室へ戻ることにした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

処理中です...