48 / 67
44 思いもよらない展開
しおりを挟む翌日。
まずは昨夜の失敗を再び重ねないようにするため、クトラと話すことにした。クトラと話がしたいとラマに伝えてもらうと、朝のうちに伝えた伝言にいつでもいいよと返事が帰ってきたので、勉強が終わった午後の時間にフィーリアの部屋へと来てもらえるようにお願いした。
「来たよ~」
「いらっしゃい」
「それでフィー。話したいことって何?」
勝手知ったるなんとやらでラマに案内される前にいつもの席に座ると、すぐに用件を聞かれる。
相変わらずせっかちだけれど、好奇心からくるものなので瞳はキラキラと輝いている。こういうところがクトラの可愛いところだと思う。フィーリアくらいしか知らないのはもったいないと思うんだよね。
「ねえ、クトラ。ダウール様に知られたくないことってある?」
「は? なに、突然」
意味がわからないというように、瞳を瞬かせた。
「今さらなんだけど、ダウール様は今のクトラのことを知らないんじゃないかなって思って」
「……どういうこと?」
ますます訳がわからないという顔をされた。
そう思い至った経緯を簡単に説明することにした。
「ダウール様と話しててね。今のクトラのことを殆ど知らないんじゃないかなって。だから、ダウール様に今のクトラの魅力をいっぱい知ってもらって、可愛いところもあるんだよって教えてあげたいと思ったの」
「は? 意味がわからない。どうしてそうなったの?」
フィーリアの説明を聞いてより訳がわからないというような困惑した顔になった。
そんなにわからない説明をしたとは思っていないんだけどな……。
「だから、ダウール様の中ではまだクトラは四年前のままで止まっていると思ったの。昔の子供の頃のままだと思われてたら、もったいないじゃない? 今のクトラには魅力的なところもいっぱい増えたし、そういう良いところをいっぱい伝えたいなと思って。そうすれば、ダウール様も少しはクトラのこと意識してくれると思うの」
そうしたらダウール様ももっとクトラのことを女性として意識してくれるかもしれない。
昨日話していて、ダウール様の中でウルミス様の存在がかなり大きくなっていることを知った。だから、すごくアピールしなければ、同じスタートラインに立てないと思うんだ。それにはクトラ本人だけじゃなくて、第三者からの意見も必要だと思うんだよね。
「いや、大丈夫」
それなのにキラキラしていた瞳が輝きをなくして、クトラは拒否の言葉を口にした。
「なんで? クトラは四年前より女性らしくなったし、昔の印象のままじゃないってことを分かってもらった方がいいと思うんだけど」
「そんな必要ないよ」
言葉を重ねてもそんなことは必要ないと言われる。
いらないというように左右に手を振るクトラに、もしかして恥ずかしがって、素直になれないだけなのかもと思った。
「そりゃ、今さら素直になるのは恥ずかしいかも知れないけれど……」
「確かに恥ずかしいけども!」
「だからわたしが代わりにクトラが可愛いことを伝えようと……」
「必要ないってば」
「遠慮することないんだよ?」
「遠慮してない!」
困ったように笑いながら返事をしていたクトラは突然、絶叫した。
「だあー、面倒くさい!!」
クトラは髪の毛をガシガシと乱れるのも構わずに搔きまぜると、ギロリと瞳を動かしてフィーリアを捕らえた。
フィーリアはその視線に怯んで、詰め寄っていた身体を引く。
「……クトラ?」
突然雰囲気の変わったクトラに恐る恐る声をかける。
「好きじゃないから」
「え?」
「好きじゃなくなったの!」
は?
…………え?
好きじゃなくなった?
唸るように言われた言葉が理解できない。
あ、でも、クトラのことだから素直になれなくて、あまのじゃくが発動したのかも。
「照れなくてもいい──」
「照れてない!」
「嘘つかなくても──」
「嘘もついてない! フィー、わたしの瞳を見て? 嘘ついてるように見える?」
そう言ってフィーリアの肩を掴み、瞳をこれでもかと見開いて顔が近づいてくる。
訴える気持ちが強すぎるのか、どんどんと迫ってきて少し怖い。
「──見えないけど」
「でしょ! 本当に好きじゃないの!」
嘘をついているようには見えなかったから、そう答えたけれど。
……ん?
《好きじゃなくなったから》から《好きじゃないの》に変わってる?
それだと意味変わってくるんじゃないかなと思ったけれど、クトラも動揺してるから言い間違えたんだね。今はそんなことよりも、なぜそんなことを言い出したのか確認しなくてはならない。改めてクトラの真意を確かめる為に問いかける。
「ダウール様を好きじゃなくなったの?」
「そう」
「本当に?」
「本当に!」
クトラの瞳は真剣だった。
「信じて!」
切羽詰まったように言いつのるクトラに反射的に頷く。
「──分かった。信じる」
「……はぁ、よかったー」
心の底から安堵している姿を見て、本当に本気でクトラが言っているのだと、ようやくストンと心に落ちてきた。
……そうなんだ。
本当にクトラはダウール様を好きじゃなくなったんだ。
諦めたのか、嫌いになったのかはわからないけれど、心の底から安堵している姿からダウール様への未練はなさそうだった。ダウール様を好きなことによって失恋でクトラが傷つくことがないのだとわかって本当にホッとした。思っていたよりもクトラが傷つくことになることが苦しかったみたいだ。心の中にあった重みがすーっとなくなった。
……よかった。
知らず知らずのうちに、深く息を吐いていた。
「まあ、そういうことだからこの話はもうお終い」
フィーリアが信じたことで落ち着きを取り戻したのか、すっきりとした清々しい顔になったクトラは笑顔を見せる。
「それよりも昨日はダウールが来たんでしょ? どうだった?」
キラキラと好奇心を隠そうともしていない瞳で見つめられる。
急激な話題転換に面食らう。あまりにも唐突過ぎて、直ぐにはクトラのテンションについていけなかった。
けれど、クトラに聞かれたことで昨日のことを思い出す。
「久しぶりにダウール様と夕食を食べれて楽しかったよ。ただ少し怒らせちゃったかもしれないんだけどね」
クトラに侍従室での出来事とそれを話した時のダウール様の様子を話す。
「……相変わらずだね」
するとクトラに呆れたようにため息をつかれた。
クトラには四年前と同じようにいつものことだと思われたようだ。
確かに昔はたまにお兄を怒らせてというか不機嫌にさせてしまったことがあったけれど、今回は理由がはっきりしている。ダウール様が不機嫌になったのはフィーリアの対応がまずかったからだ。だから次会ったときにはもう一度しっかりと謝ろうと思っている。
「それにウルミス様のことを頼まれたんだ……」
クトラのことをダウール様にアピールする必要がなくなってしまった今、フィーリアにはダウール様に頼まれたことしかやることが残っていなかった。
関係を修復したいとは思っているけれど、ウルミス様に嫌われている身としてはとても気が重かった。
「なにを?」
「傷ついているから励まして欲しいって」
「は? そんなことフィーに頼んだの? バカじゃないの?」
何に対して憤慨しているのかわからないけれど、ダウール様はウルミス様が心配なんだよ。だから頼みやすいフィーリアに頼んだんだと思う。
けれど、ウルミス様にとっては嫌いな人に慰められても迷惑になるだけなはず。
クトラがまだ何か言っていたけれど、自分の思考に耽り始めたフィーリアの耳には何も入ってこなかった。
ウルミス様と友達になりたい、その気持ちはまだあった。けれど、ウルミス様はフィーリアが嫌い。ましてや嫌いな人と友達になんてなりたくないだろう。
でも可能性がゼロではないと希望も捨てきれず、かといっていい方法も思い浮かばず途方に暮れる。
とはいえ、フィーリアに会いたくもないだろうことは想像するのも難くない。
……本当にどうすればいいだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる