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60 アピール作戦 5
しおりを挟む手を引かれて立ち上がり、テーブルから離れた少し空いたところで手を離される。ダウール様は三歩後ろに下がり、フィーリアを頭の天辺から爪先へと視線を動かした。
そしてフィーリアに視線を戻すと、眩しそうに笑った。
「ああ、とても、可愛いな」
嘘偽りないとわかる声で言われて、フィーリアの胸が嬉しさで満ちた。
期待していなかったけれど、言われたかった言葉だ。
「ありがとう」
嬉しさのまま、笑顔でお礼を言うと「ああ」と返事が返ってきた。そのあとは言葉もなく見つめられ続ける。
その眼差しがなんとも言えない、見惚れているようにも見える気がして、妙な恥ずかしさに居たたまれなくなる。
ふと、脳裏にニルン様やクトラが言っていた言葉が蘇った。
『触れるのも畏れおおいけれど、それでも手をとってしまうわたしを許して欲しい』とか。
『可愛い手だね。いつまでも触っていたい』とか、そんな言葉が。
もしかして、フィーリアにも言ってくれるだろうか。
期待を込めてダウール様を見つめかえす。
けれど、ダウール様は期待していた言葉とは違う言葉を紡いだ。
「俺が最初に見たかったんだけどな」
「え?」
「いつも俺に見せてくれてただろう? 新しい服をもらった時とか、新しい本を手に入れた時とか」
拗ねたような表情になり、不満そうな顔をした。
四年前によく見た顔。
もしかしなくても、先ほどまでのよくわからないくだりは四年前のように見せに行かなかったから拗ねていたってこと?
確かにお兄は昔クトラに先に見せたりしたら、拗ねたりしていたけれど。
その時と同じ反応ということは四年前と認識が同じっていうこと? 完全に妹分として扱われているってことだよね。
「それから、とても似合ってて可愛いんだが……。勉強先に行くにはその姿は相応しくないんじゃないか? そういうのは国王である俺に見せる時だけでいいと思うんだ」
フィーリア自身も自覚していたことを言われて、素直に同意するしかなかった。
「……それは今日行ってわたしもそう思った」
「だろう? だから、もうちょっと控えめにだな。ああ、俺との食事の時は今日みたいにしてくれて構わないんだが」
「そう、だよね。時と場合に合わせなきゃね」
国王であるダウール様の前では着飾っていい。それ以外の場所ではその時に相応しい装いで。
当たり前すぎる忠告を受けてしまった。
迂闊だったと反省はしているけれど……、はあー、フィーリアが欲しいと思っていた言葉は言ってくれなかった。
ダウール様が口にする言葉は注意事項や忠告ばかり。それは妹分として心配してくれているからこそだとわかってはいる。
けれど、ニルン様やクトラには装飾された褒め言葉を使っていたようだったのに、フィーリアには一言もない。それが結婚対象とそれ以外なのだと言外に突きつけられたようで胸が苦しい。
オシャレを強化するだけじゃダメってことなんだね。
「それと、警備隊からフィーリアの護衛の志願書が届いたけれど、任命権は俺にしかないからな? 声をかけられても、わたしじゃ決められませんと答えるように。警備隊の者達がどういう人物なのかは俺のほうが知っているからな。だから俺が決める」
そんなことダウール様に言われなくても知っているし、すでにそうお断りもしましたけど?
子供扱い。
完全なる幼子扱い。
過保護で心配しすぎだと思うし、一人ではまだ何も判断できないと思われているのだろうか。
心配そうというか、子供に言い聞かせようとしているダウール様に徐々に苛立ちが募る。
女性として見られないばかりか子供扱いだなんて、無性に悔しかった。
一矢報いたい。そんな気持ちが湧き上がった。
大人になったんだと、フィーリアだって女性なのだと判らせたい。
となれば、ここはひとつ、クトラおすすめの上目遣いをしてみるのはどうだろうか。
とてもいい考えのように思えた。決めたなら即実行するべく考えを巡らせる。
どうすれば上目遣いを見せられるのだろう。まず近づかなきゃいけないよね。
うーん? どうすれば自然に近づけるかな? ──痛っ。
ぴんと引っ張られたような気がして痛みの発生した先を見れば、垂らしていた髪の毛がネックレスに絡まっていた。どうやら考え事をしているうちに無意識に髪の毛を弄っていて、偶然絡まってしまったようだ。
でもちょうど良い。
これを解いて貰うようにお願いしたら、ちょうど上目遣いできるんじゃなかろうか。
「痛っ」
わざと聞こえるように声を出す。
ダウール様がこちらを見たのを確認して、困ったように笑う。
「ダウール様、髪の毛が引っかかったみたい。解いてもらってもいい?」
ついでに小首をかしげてみる。
「──……いいよ」
フィーリアの要求に、一瞬驚きで目を見張ったダウール様は笑顔で近寄ってきた。
手が触れるほどに近くなったダウール様に、自分で近づくように促したくせにドキドキが止まらなかった。
うるさく鳴る鼓動がダウール様に聞こえてしまうのではないかと、より鼓動が速くなった。
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