シャウには抗えない

神栖 蒼華

文字の大きさ
30 / 67
第1章

30 王子の実力 Ⅱ

しおりを挟む

ルティスがウルガと共に治療室へ挨拶に行くというのでついていくことにした。
ラオスとイラザはもう少し身体を動かしたいというので、別行動になった。

「サーラさん」

部屋に入ると、治療室の中にはサーラさんがいるだけだった。

「おはよう、シャウ」
「おはようございます」

サーラさんはシャウ、ウルガと視線を巡らした後、ルティスに目をとめた。

「そちらの殿方はどちら様かしら?」
「ご挨拶が遅くなりまして申し訳ありません」

ルティスはサーラさんに向かって優雅にお辞儀する。

「私はこのたび城から派遣されて参りました治療士のユリベルティスと申します。ご指導ご鞭撻べんたつの程宜しくお願いします」
「まあ、もしかしてユリベルティス殿下でしょうか?」
「はい、今回は王子としてではなく、治療士として参りました。ですので、他の治療士と同じように対応して頂きたく思います」

そして蠱惑的に微笑んだ。
ルティスにそう言われて困ったサーラさんは視線を彷徨わせ、一緒に来ていたウルガを見つめた。

「あー、ユリベルティス殿下の仰るとおりにして下さい」
「わかりました。お願いします。ユリベルティス殿下」

サーラさんは少し困った顔をしていたけれど、覚悟を決めたのかルティスを真正面から見つめた。

「それでは、本日は私と組んでここで治療を行います。よろしいですか?」
「はい、お願いします」
「シャウも今日は私と一緒にする?」
「はい、お願いします」

顔合わせが終わったので、ウルガは戻っていった。
治療室の説明や段取りなどを話していると、来客を告げるノックが響いた。

「失礼します。呪い患者11名、負傷者17名、魔力枯渇患者34名が来ます。宜しくお願いします」

情報を伝え終わると、警備兵は他の部屋にも伝えに走って行った。
サーラさんは伝令を聞き終わると、手元の紙にサラサラと書き込むとシャウに手渡す。

「シャウ、これを各治療室とウルガ隊長に渡してくれる?」
「はい、行ってきます」
「ユリベルティス殿下、貴方には負傷者の治療をお願いします」
「わかりました」

シャウは紙を手に走り出した。

各治療室の後、ウルガのところに行くともう患者が運ばれて来ていた。

「ウルガ、これサーラさんから」
「おう、ありがとう」
「じゃあ、戻るね」

ウルガのところから戻ると、治療室の中にはもう患者でベットが埋まっていた。

「シャウ! シャウは魔力回復をお願い」
「はい」

サーラさんに指示された患者の前に行くと、魔力回復を始める。
シャウが1人の患者の魔力回復を行っている間にも、ルティスは数人の負傷者を治していた。

(嘘でしょう?!)

負傷者の治療の方が魔力回復より本来なら時間がかかる筈だった。
でも、ルティスの治療速度は桁外れに速かった。
他の治療士の負傷者の治療も見たことがあるけれど、ルティスほどには速くなかった。

怪我が治った患者がどんどん部屋から出て行くのを魔力回復しながら呆然と見送っていると、呪い患者の治療が終わったサーラさんと目があった。
サーラさんもあり得ないと目を見開いていた。
2人でつい見つめ合ってしまった。

「サーラさん」

ルティスの呼びかけに、シャウは慌てて視線を目の前の患者に戻した。

「何かしら」
「この患者に小さな呪いがありました」
「! ちょっと見せて」

サーラさんがその患者に近づき呪いの部分を確認する。

「そうね、まずはユリベルティス殿下が傷を治療してください。その後、私が呪いを治療するわ」
「わかりました」

それを聞いてルティスはすぐに患者に向き合い、治療していく。
その姿を見て、サーラさんもシャウも気合いを入れ直して目の前の患者に向き直った。

結局、ルティスは負傷者全員と魔力枯渇患者4人を回復させていた。
ルティス自身の魔力保有量が莫大ばくだいであるためかもしれないけれど、あまりにもすごい結果だった。

治療士としての腕も武人としての腕も常人の域を超えていた。
ルティスは完璧超人と言えた。


シャウは本当に頑張ろうと気合いを入れ直した。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...