29 / 67
第1章
29 王子の実力 Ⅰ
しおりを挟む「……なんでこんなことになってるの?」
ハンカチを手に訓練場に戻ってくると、訓練場の真ん中でラオスとイラザがルティスを相手に訓練用の剣を構えていた。
「ねえ、ウルガ、どういうこと?」
側で観戦していたウルガなら事情を知っているだろうと思い、近寄って話しかける。
ちらりとシャウを見たウルガは、またラオス達を見ながら口を開いた。
「ユリベルティス殿下がシャウが戻るまで時間があるから手合わせをと、ラオスとイラザに声をかけたんだよ」
「ルティスが?」
「ああ」
「それでなんで2対1なの?」
「時間がないから、2人同時でどうぞって煽っちまって」
「…それでああなったと……」
「ああ」
(僕だってそんなこと言われたら挑発に乗ってたかも、獅子族は戦闘能力には自負があるから)
シャウも3人を眺めると、ちょうど睨み合っていたラオスが動き始めるところだった。
ラオスが踏み込み斬りかかる。それをルティスは少し身体をずらすだけで躱し、イラザがラオスの後ろから一撃を振り下ろすのを、持っていた訓練用の剣で受ける。
そこにすかさずラオスが斬りかえしたが、また重心移動だけで躱した。
しばらく見ているとルティスはラオスとイラザに防戦一方に見えたのだけれど、どうやら違ったらしい。
ある瞬間から訓練用の剣を2人に繰り出し始めた。
それがなんとも嫌なタイミングで2人の連携が崩れ始めた。
ラオスとイラザは小さい頃から共に居るので、連携がそこらの大人達にも真似できないくらい息を吸うように滑らかにできる。
それなのに、そんな2人の連携をものともせず対応出来ていることに驚いた。
それからは、互いに攻撃したり躱したりと一進一退で決着が着かなそうだった。
それにしてもラオス、イラザを相手に立ち回れる剣術の腕にシャウは感心していた。
ラオスとイラザが獅子族の力を使わずに剣術だけで戦っているとしてもルティスは凄いと思った。
これなら、すぐに前線に出ても大丈夫なほどの実力を持っていた。
続く組み手を観戦していると、ふっとルティスと目があった。
すると、大きく飛び退いてラオスとイラザと距離をとる。
「シャウが帰ってきましたのでここまでにしましょう」
ルティスが訓練用の剣を下げると、ラオスとイラザも僕を見てなんとも言えない顔をした後、同じように訓練用の剣を下げる。
どうやら終わったようだった。
シャウはハンカチを返すためにルティスに近づく。
「はい、ハンカチ」
額に汗を滲ませたルティスに持っていたハンカチを渡す。
「ああ、ありがとうございます」
いつもとは違う爽やかな笑顔を浮かべ、額の汗を拭っていく。
「剣術も出来るん、のですね」
シャウの変な言葉遣いに気づいたのか、ふふっと笑う。
「シャウ、いつも話している話し方で大丈夫ですよ。シャウにはシャウのままでいて欲しいですから」
「わかった。ありがとう」
見知った人達に囲まれていると、ルティス相手にも砕けた話し方になってしまいシャウはうまく切り替えられなくて困っていた。だから、ルティスの提案はとても有り難かった。
「それで、剣術でしたか? 昔から得意なことのひとつだっただけですよ。後はそれを磨いただけです」
「そうなんだ」
言い方は自慢話に聞こえるけれど、嫌な感じは全然しなかった。
さっき言っていたように、必要だから努力した。だから、必然的に強くなったということなのだろう。
ルティスの話を聞いてると僕も頑張らなきゃなという気持ちが強くなった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる