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向日葵の海
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庭に向日葵の花が一つ蕾を付けた。一本に葉がたくさん茂り、大きな葉がドレスのように広がっていた。夏の熱い日差しにも負けず凜と立っていて、その姿は若々しくて美しい。最近の雪彦はそれを見るためだけに引き戸を開けてぼーっとしていることが増えた。水を蒔いた庭に風が吹くと涼しくて、ここに風鈴の音とラムネがあれば最高だ。
この乙女ような向日葵は義弟の嵐志が育てている。種を蒔くところから初めて、毎日欠かさずに水をやり、咲いて、枯れるまでの面倒を見ているのだ。嵐志は夏になると毎年一本だけ向日葵を育てる。これは出会った当初からそうだった。どうしてなのか。雪彦は知らない。嵐志もなにも言わない。だから雪彦も聞いていない。でも甲斐甲斐しく世話をする姿は、サン・テグジュペリの『星の王子さま』でバラを世話する王子みたいに見えた。
今日もまた嵐志は庭に出て、ホースを水道に繋いで水を蒔いていた。たまにちらりと虹が出ているのが見えた。冷蔵庫からラムネの瓶と切ったスイカを出して、開けた引き戸のとこにどかっと座る。今日も雲ひとつない晴天で、目眩がする。帽子をかぶらないと熱中症になってしまう。休憩しないかと声を掛けると、嵐志はホースの水を止めて、雪彦の隣に座った。
「あ、黄色いスイカ」
「買ってきたのを切ってみたら黄色だった」
「いいことあるかな」
「金運上がるかも」
赤いスイカに比べたらすこし甘さは少ないけれど、それでも充分においしい。今日も暑いと言いながら、蝉の声を聞き、スイカを食べる。夏の風物詩を満喫だ。雪彦がひとつ食べ終わる時には、嵐志は三つ目に手を出していた。
付けっぱなしにしていたテレビ番組が、ビーチの特集をしていた。雪彦たちが住む県の半島。客で賑わう海水浴場が映し出されて、二人してげぇ、と声を出した。
「人いっぱい……」
「マナー悪っ」
「こういうのって、特集されると行きたくなくなるんだよね、俺」
「ゆき兄の言いたいことわかる」
「あ、わかってくれる?」
「だって特集されるってことは、人がいっぱい来るってことだろ。どうせだったら綺麗な景色独り占めしたいじゃん。マナー悪いやつと一緒に見たくないし」
鬱陶しそうにサイドテールにした髪先をくるくると指に絡めながら、でも視線はテレビから離さない。本当は行きたくてうずうずしているのが、手に取るようにわかる。
「じゃあ、ちょっとドライブに行こう」
「どこに?」
「どっか、遠くに」
行き先は決めずにワンボックスカーに乗り込んだ。まだ大学生の雪彦だが、嵐志の父、つまり雪彦の義父に当たる人に宛がわれたものだ。名義もその人の名前になっているけれど、使用頻度は雪彦が一番だ。
「東か西か、北か南か」
「南」
「オーケー」
ワイヤレスで音楽プレーヤーとスピーカーを繋いでシャッフルを選択すると、冬のラブバラードが流れてきて、思わず二人して笑った。確かこれ、去年の冬にココアのCMで流れた曲だ。この炎天下に熱々のココアはない。
「シャッフルはやめよう」
そう言って夏の曲を集めたプレイリストを再生した。二年くらい前に流行った向日葵畑を歌った曲が流れた。向日葵畑、いいな。そう思いながら車を走らせた。
高速に入って軽快に飛ばすと、嵐志がいいの? と聞いてきた。
「なにが?」
「ほんとに遠くまで行っちゃって」
「おや、怖じ気付いた?」
「そんなことないけど」
七月の平日。世間では早盆の時期だけど、交通量が少ないのか多いのかわからない。実を言うと雪彦も高速をあまり使ったことがない。ベンツにウィンカーもなしに割り込みをされて、少し腹が立った。
「事故ったらそれもまたいい思い出」
「よくない」
「嵐志くんも運転することになったら気をつけてね」
「俺はまず自転車も乗れねーもん。車なんか運転できる気がしない。他人の命を預かるなんて柄じゃねーし」
嵐志はその足の速さから、自転車を使ったことがない。走った方が速い。それが嵐志の口癖だ。実際、嵐志は自転車よりも速く走ることができたし、荷物を持っていたとしても速さが衰えることはなかった。
サービスエリアでおにぎりと飲み物、少しのお菓子を買って再び走り出す。景色が街中のビルから住宅街へ、住宅街から畑へ、畑から山の中へと変わっていく。
「すごい、遠くまで来ているって感じがする」
助手席から外を見ながら嵐志がぼんやり呟いた。空模様はいっこうに変わらないのに、その下にある風景は刻々と変わっていく。
「まだ一時間しか走ってないのにね」
「どこまで行くの?」
「とりあえず、嵐志くんに指定された一番南まで」
コーラのペットボトルに口を付けて、嵐志にポテチを口にい入れてもらった。久々に食べた、ジャンクなお菓子はしょっぱくておいしい。曲が変わって、男性アイドルのサマーソングが流れ出した。標識が行き先を示している。ある地名が目に入った。それを通り過ぎてから雪彦は高速を出るためにウィンカーを出した。
サービスエリアで買ったおにぎりだけじゃお腹は満たなかったみたいだ。おなかがぐーっと音を立てた。小腹がすいているときにチョコとか飴とかを食べると、胃が刺激されてさらにお腹がすくという、アレだ。
「やっぱり足りなかったね」
「お菓子じゃ腹は膨れないな」
「嵐志くんはおにぎりはお菓子の部類に入るんだね。覚えておくよ」
「うーん、大きさによる」
高速を降りたところにあったバーガーショップで持ち帰り注文をして、再び車に乗る。ほかほかの紙袋を持って、嵐志のご機嫌が上がった。久々に食べる、と袋の中に充満する匂いを嗅いでいた。
車を発進させる前にカーナビで地図を見ると、目当てのだいたいの場所がわかった。一緒にのぞき込んでいた嵐志は頭にハテナを浮かべていたけれど、すぐ近くに海があることに気づいたようだ。
「天気もいいし、浜辺で食べようか」
「いいね。でもゆき兄、駐車場……」
今ってどこも満車なんじゃ、と続く言葉を遮った。海に関してはとっておきの情報を雪彦は持っていた。
「お義兄さんにお任せなさい」
家族連れであろう車が道路に列を連ねる中、雪彦は脇道に逸れて走り出した。港町の町並みの中を低速度でゆったりと走る。途中、家と家の間だから猫が飛び出してきた。猫をよく見かける町だ。嵐志は猫を見かける度に「ゆき兄、猫」と短く報告してきた。
海に続く道とは逆の道に入ったところにある公園の敷地に、車を止めた。ここ? と嵐志が無言で問いかけてくる。
「おいで」
それだけ言って紙袋を持って外に出た。潮の香りを含んだ風が吹いていた。嵐志と一緒に道路を横切って、堤防に付いていたコンクリートの階段を上がった。堤防の上に付くと、嵐志は感嘆の声を上げた。白い浜と、海が目の前に広がっていたのだ。
「すごい」
「すごいでしょ」
「誰もいない」
「うん。嵐志くんと、俺だけだよ」
誰一人いないのが不思議なくらいだ。近くには海水浴場があって、人がたくさんいたはずだ。車だって、道路にまだ連なっているのが見える。それでもこの場には、雪彦と嵐志だけだった。
「なんで?」
「さて、なんででしょう」
「答えてよ」
「実はここ、恭平さんから教えてもらったんだ」
「親父に?」
ここは以前義父から教えてもらった場所だった。義父は海上自衛隊の潜水士をしていて、その先輩の私有地らしい。その先輩も義父も自衛隊故に滅多に帰ってこず、雪彦に気晴らしにでも来ていいと伝えられていたのだ。
「だからこれは、俺と嵐志くんのプライベートビーチってやつだ」
雪彦が言い終わらぬうちに嵐志は駆け出した。砂に足を取られながら、もどかしそうにサンダルを脱ぎ捨てて、ジーンズの裾を捲り海へと一直線に走って行き、そのまま豪快に水しぶきを上げて海の中に入っていく。全く聞いてないな。やれやれと首を横に振って、雪彦も後を追った。
膝下まで海に浸かったところで、嵐志は足を止めた。視線は呆然と果てを見据えている。雪彦も靴を脱いで海に入っていく。足の下で、さらさらと砂が波に攫われていくのを感じながら、嵐志と同じ位置に向かった。
「どうしたの?」
「いや……」
嵐志は言葉に詰まったようで、それ以上動こうとも、話そうともしなかった。その目はなにを見ているのだろうか。同じ位置に立って、嵐志と同じ方向を見定めてみてもわからなかった。彼がなにを見ているのか。それは
嵐志だけが知っていて、結局のところ、雪彦にはわからないのが当たり前なのだ。ただ、囁くように潮騒が耳の奥に嫌と言うほど焼き付いた。
寄せる波は思ったよりも強く、気を抜いていると足を取られそうになった。鈍い青色に光る海面は果てがなく、波は止まることなく永遠に寄せて返していた。何億年も昔からの決まり事のようで、地球が滅びて海がなくならない限り、これからも続いてくように思えた。
「おなかすいたろ。ごはん、食べよっか」
嵐志はうん、と曖昧に答えた。
ピリ辛のソースがたっぷり入ったバーガーにかぶりつく。舌がひりついて痛いくらいの辛さがいい。雪彦同じものを注文した嵐志は「思ってたより辛い」とアイスティーで流し込んでいた。他に雪彦はサワークリームとチキン南蛮のバーガーを、嵐志はキャベツとトマトがたっぷり入ったバーガーを、それぞれダブルサイズで平らげた。
食後のアイスコーヒーを飲んでいるとき、変な感覚が襲ってきた。怠い、とはいかないまでも、ぼーっとする。熱があるようで、多分ない。食べ過ぎたのかもしれない。がらがらとプラスチックのカップの中で氷が鳴って、変な重さが手に残っていた。
雪彦は大樹たち兄妹に出会う前は、相当な偏食だった。一日に一回しか食事を取らなかったり、酷いときには金平糖やドライフルーツを数個しか口にしなかった時期もある。今でこそすっかり一之瀬家の食事で体調管理もされているけれど、元来の小食もあって、こうして調子に乗って食べ過ぎたときは、胃の辺りが変にざわざわするのだ。
少し横になると嵐志に告げて、砂の上にごろんと倒れた。日差しに灼かれた砂が熱かったけれど、同時にどこか心地よかった。
深い眠りは訪れず、割とすぐに目が覚めた。ずっと波の音が聞こえていて、肌がじりじりと熱かったからかもしれない。体感にして十五分程度。実際それくらいしか寝てなかったようで、太陽の位置は目を閉じる前と変わっていない。目を閉じて開いたら時間が過ぎていた、という物語にありがちな魔法は起きなかった。ぼーっと太陽を見ていると、光の線が花びらみたいに散って、向日葵みたい、と思った。
身体を起こしてまとわりついた砂を払う。滅多に人の来ない砂浜は案外綺麗な白色だった。でも沖縄の砂にはとうてい及ばないと雪彦は思う。一度、修学旅行で行った沖縄の海は、目の前の海よりも鮮やかなクリームソーダの色をしていて、遠くへ行くほど深い藍色に変わっていた。砂も珊瑚が長い時間の中で砕けたもので、いろんな形をしていて、さらさらしていた。
記憶を掘り起こしていると、義弟の姿が見えないことに気がつく。嵐志は雪彦から離れたところでばしゃばしゃと波を蹴っ飛ばしていた。靴は雪彦の前に転がったまま。たまに大きく寄せてくる波が嵐志の脛を豪快に濡らしていく。飛沫が身体に掛かってもそんなのお構いなしな様子だった。
雪彦も靴を脱いで嵐志の元に歩いて行った。爪先が水に触れて、ひやっと足下が涼しくなった。ぱしゃぱしゃと足を付けると引き込まれそうになっていく感覚に襲われた。海の魔力だ。魅了して、引きずり込まれそう。
「海はどう?」
嵐志は雪彦の方を見ずに「よくわかんねぇ」と答えた。
「わかんない?」
「海は危険だって、よく親父が言ってた。簡単に命を奪うから。心を許すと簡単にひっくり返されるから。質が悪い女よりはいいけど、って」
海上自衛隊の恭平さんらしい言い方に雪彦は笑みがこぼれた。恭平さんの言うことは正しい。海は怖い。それと対面している人だからこそ言えることだ。
「だから、こうして見ると、思ったよりも碧くて綺麗で、正直大丈夫なんじゃないかって思えてきてさ。これが一変して変わるの買って考えたらよくわかんなくなってくる」
海は危険だ。それ故に美しい。美しいのはその身に毒を隠し持っているから。二面性の美学ってやつだった。
「それは昔からずっとそうだよ。こうして変わらないで凪いでいるけど、風が吹けば激しく荒れる」
怖い? と問うと、少し、と帰ってきた。腕時計で時間を確認して、雪彦は空を見上げた。少し時間は早いけど、ちょうど頃合いかもしれない。
「見に行こうか」
「なにを?」
「もう一つの海」
ばしゃん、と二人の足にひときわ大きな波が当たって砕けた。
「海はひとつしかないだろう?」
助手席で嵐志がそう言った。車を走らせながら雪彦はくすくすと笑ってみせる。
「暗喩って知ってるかい? ものに例えることさ。ここで重要なのは『~のように』って言わないこと。雨を涙、花弁を雫、花が散ることを零れると言うみたいにね」
「今日のゆき兄、よく喋る」
「珍しい?」
「うーん……そうでもないや」
来た道を引き返して、山道に入る。整備されていなくて、がたがたと車体が揺れた。嵐志は別に不安とかないみたいで、冒険って感じがしてきた。と言った。
しばらくして【花広場】という看板が見えてきた。ペンキの手書きで、思わず見落としてしまいそうなくらい小さい看板だ。去年来たとき、雪彦はこれを見落として、山の中をぐるぐると回っていた苦い思い出がある。今回二度目の来訪だが、もうすっかり場所は覚えた。
「嵐志くんは【花広場】に来たことある?」
「ない」
「そっか。それなら、今日は天気もいいから言いものが見られる。期待してていいよ」
緑が開けて、道路沿いにビニールハウスがひとつ見えた。一角に、縄で仕切られた駐車場が見えて、そこに車を停める。ビニールハウスに寄って、中にいたおばあさんに駐車料金を渡すと、よく来たね、ときんきんに冷えたラムネを二本もらった。
ビニールハウスの中には、様々な花が並んでいた。みんな売り物だった。マリーゴールドやパンジーの苗だったり、切り売りの白百合や向日葵だったり、みな華やかな薫りを漂わせていた。
「ここはね、花の市場みたいなところなんだ。季節に合わせて花を育てて、こうして売っているんだ」
「ふーん」
「少し見ていく?」
「うん」
そのまま部屋で育てられるくらいに小さい鉢もあった。我が城の中と言わんばかりに、紫の菫が綺麗に佇んでいる。オレンジの鮮やかなマリーゴールドや、控えめな紫の桔梗が顔を並べる中、収穫したばかりの大きなスイカがまるまる一個置いてあったりした。今朝食べたばかりだけど、こうして見ると特別な気がしてまた食べたくなってくる。
嵐志の目が、ひときわ大きな向日葵に向けられた。思わず雪彦も声を漏らす。まさに大輪と称していいほどの凜々しさがあった。
嵐志は頬を赤くさせているけれど、どこか寂しそうにその向日葵を見ていた。けれど、すぐに顔を背けて、大股でビニールハウスの中を歩いて行ってしまった。
そういえば、嵐志が今朝水をあげていた向日葵は、まだ蕾のままだった。
嵐志はビニールハウスを出て、どんどんと歩いて行った。後を追った雪彦は、一瞬嵐志がどんな顔をしていたのか見てしまった。目が潤んでいた。泣き出す一歩手前。身体の内側からぶわっと熱くなって、頬が引き攣るのを感じた。やらかした。星祭りのとき同様、嵐志の柔いところを掬い損ねた。
声を掛けると、嵐志はぐいっと目元を腕で拭った。
「へーき」
先回りして答えを言われた。これを言われると雪彦はなにも言えなくなる。これ以上聞かないで、そう言われているみたいだった。
「……ごめん」
「なんでゆき兄が謝んの?」
振り向いた嵐志はにっと笑って雪彦の表情筋をほぐすみたいに頬をつねった。
「俺はへーきって言ってんだから、へーきなんだって。ゆき兄が気にすることなんてなーいの」
端から見たら、拗ねた彼女を宥める彼氏みたいな図だなって考えたら、可笑しくなって笑い出した。嵐志にもそのことを話したら、「ゆき兄を取ったって兄者に誤解されるからやめて」と表情を硬くしていた。
嵐志はたびたび、大樹に似た仕草をする。さっきの頬をつねるのもそうだし、なにも言わないで自分の中に隠しておくのもそうだ。だから、たまに見間違えることがある。雪彦は、嵐志が自分に向ける好意が憧れだと知っている。決して別の好意にならない可能性がないことも知っている。だからこそ、くすぐったくて変な感じがたまにするのだ。
「見せたいものって、どこ?」
「こっち」
反対方向に行こうとする嵐志の腕を引っ張って、雪彦は歩き出す。遠くに黄色の花畑が見えた。近づくにつれ、嵐志の目が驚きに見開かれていく。
「あそこ、向日葵」
指を指す先に、大きな花をたくさん開いた向日葵が視界を埋め尽くしていた。ふらふらと嵐志が雪彦の手を離して、走り出す。海を見たときと違って、おぼつかない足取りだ。なんだか危なっかしい足取りで、雪彦もすぐに後を追った。
「たくさんある……」
背の高い向日葵を仰いで、嵐志はうわごとのように呟いた。
「うん、たくさんあるね」
「こんなにたくさんあると、全部を見て回れない」
独り言なのか、雪彦に言ったのか、嵐志は向日葵畑の中に入っていった。嵐志は、自分の顔と比べると一回りも大きい向日葵の花に手をやって、まるで祈るように頬を寄せていた。
大輪の向日葵の花。向日葵の花言葉を、今更ながらに雪彦は思い出していた。
「………『貴方だけを見つめる』、か」
向日葵の花言葉がそう言われているのには諸説ある。有力なものは向日葵の習性だ。太陽が昇る頃に花開き。太陽を追いかけるように首を巡らせ、沈む頃に花を閉じる。太陽と共に、と言う意味を込めた花言葉。それがいつしか恋い焦がれる少女を連想させたのか、今では「情熱」「崇拝」などの言葉もあるくらいだ。
背の高い雪彦と同じくらいの位置に向日葵の花があるのは、なんだか変な感じだ。花の顔をした人間と並んで立っている気分で、ついつい「ごきげんよう」と話しかけてしまいそうだった。
花に大きな熊蜂が留まって、くるくると動き回っている。一生懸命に蜜を集めて、また別の花へと飛び去っていく。そういえば熊蜂は匂いが強い官能的な花によく来るような気がする。春にはよく藤の花に来ていたのを思い出した。
嵐志の姿は見えなくなっていた。ずいぶん遠くまで行ってしまったようだ。隣で涼しい風が吹いた。なんだろう、この寂しい感じは。それでも探しに行こうとは思わなかった。頭を冷やす時間が必要だ。彼も。自分も。
向日葵畑の中に人が通った跡がある。そこを他の人も通るものだから、ごく自然と道ができる。獣道ってやつ。ここでは大きな葉っぱや茎が踏みつけられてできた緑色の道だった。
ふと見ると、花が切り取られた跡がある茎を見つけた。そういえば、有料だけど五本までなら切り取って持っていってもいいんだっけ。看板に書いてあった気がする。鋭利な切り口をそっと指でなぞる。地下から吸い上げた水が雪彦の指を伝って流れていった。これを、彼が見たらなんて思うんだろう。可哀想って思うだろうか。
きちんと整備された通り道に、ベンチがひとつ置かれていた。幸い誰も座っていない。よっこいせ、と年寄り臭く口をついて座る。こうして見上げると、向日葵の背の高さを思い知らされる。雪彦よりもずっと上の方で花を咲かせているのがよく見えた。それをぼーっと眺めていると、少しだけむなしさがこみ上げてきた。水の匂いと、土の匂いと、葉っぱの青臭い匂いが入り交じって雪彦の中に入ってくる。それがなんの作用を起こしたのか、身体の中で得体の知れない感情が渦巻いていた。
ふぅ、と息を吐いて肘掛けにしな垂れかかる。
「……どうしてそこまで、君たちは太陽を目指すんだい? 太古の昔から咲き誇っているのなら、届かないことなんて、とうに知っているだろう?」
答えなんか返ってこないまま、強い風がひとつ、拭いた。
「ゆき兄」
目の前に嵐志が立っていた。その手に握っているものを見て、雪彦は眉をひそめた。
「それ……」
「あぁ、これ?」
切り取った向日葵の花が五本。花の大きさと葉の枚数と、バランスよく切り取られていた。嵐志は手にしていたものに視線を落として、ずいっと雪彦に差し出してきた。ん? と首を傾げていると、嵐志は「あげる」とぼそっと言った。
「俺に?」
受け取ると甘い香りがふわっと漂った。嵐志は雪彦の隣に座って、疲れたのかふーっと息を吐いた。嵐志からも向日葵の匂いがして、すんすん、と嗅いだら嫌がられた。
「花……」
「え?」
「花を切り取るの、嵐志くんは躊躇うかと思った」
「そう?」
「だって人間で言ったら首切りでしょ」
嵐志の首にとん、と手刀をお見舞いする。
「そうだけど……」嵐志はもごもごと語尾が小さく萎ませた。ちらっと雪彦を見上げてきた。「ゆき兄、なんか元気なかったから……」
「……それだけ?」
「それだけ」
もういいだろ、と嵐志はぷいっとそっぽを向いてしまった。その初心な反応に思わず雪彦はふふっ、と声を漏らした。ここまで思われているとは思わなかった。それが嬉しくて、もらった向日葵の花に顔を寄せた。水分を含んだ花弁が冷たくて、顔の熱を冷ましていく。太陽の恋人候補ってのは、ずいぶんとひんやりしているものだ。
「お礼に良いもの見せてあげる」
「ゆき兄の良いものは信用できない」
「ついておいで」
嵐志の腕を取って雪彦は歩き出した。
山の稜線を這うように遊歩道が続き、そこを雪彦と嵐志は歩いて行く。ウォーキングに使われているようで頂上までの距離が書かれた看板がいくつか立っていた。斜面自体は緩やかだけど所々で足場が悪いところもある。ひゅうと風が吹いた。その甲高い音を聞いた嵐志が足を速めた。たんたんと軽快に駈けて、雪彦を追い抜いていった。雪彦も走って後を追う。
稜線が切れて視界が一気に開けた。すっと光が差していて、眩しさに目を細める。眩しいのは光のせいだけではない。向日葵だ。視界いっぱいに鮮やかな黄色が広がっていた。黄色の花びらが光を反射してさらに明るく見えるのだ。先ほどの向日葵畑が、ざぁっと風に吹かれて波のようにさざめいていた。
息を呑む音が聞こえた。
そっと盗み見ると、嵐志の両目が大きく見開かれていて微かに潤んでいた。その横顔が綺麗に光で縁取られていて、そのまま景色に溶け込んでしまいそうなくらいに、美しかった。
そしてついに、彼の目からぽろっと雫が零れた。
ほろほろとビー玉みたいに雫が転がって嵐志の黒いTシャツに染みを作っていた。
「母さんがさ、向日葵を育てていたんだ」
泣いていることもわかっていないみたいに嵐志が静かに話し出した。
彼の母は花を愛でる人だと聞いた。季節の花を庭に植えて世話をしていて、一之瀬家の庭は小さいけれど賑やかだった。雪彦はその庭を見たことがない。その前に、彼らの母親は亡くなってしまっていた。
「母さんが入院してから、庭に花が咲かなくなった。俺は、向日葵一つしか咲かせることができなかった。大事なものは、一つだけあればいい。そう思っているけど、実際はそうはいかないんだもんなぁ」
その声に涙色が混じる。
「だってさ、こんなにたくさん会ったら、想いが散らばりそうで、怖いんだもの。同じものの、ありふれた一つになりそう」
あぁ、と雪彦は思った。『星の王子さま』と同じだ。違っているのは、王子さまはありきたりなバラの存在を知らなかった。嵐志は敢えてありふれた向日葵から目を逸らしていたこと。
ひっく、としゃくり上げ始めた。どうした? と聞くと嵐志はただ首を横に振った。
「わかんねぇ、なんで、なんで止まんねぇの?」
どうやら嵐志は、感情の高ぶりが涙になって現れるタイプなのかもしれない。日よけに羽織っていたストールの裾で、べしょべしょになった嵐志の顔を丁寧に拭ってやった。
「だって、だってっ、大きすぎて、なんかわけわかんない。全部向日葵に持ってかれて、なにも考えられなくなるっ」
「……いいよ、なにも考えられなくなっちゃえ。今は夏だ。全部おかしくなって、狂っちゃっても問題ない。夏は人をおかしくさせる」
「……ゆき兄、ずるい」
「なにが」
「そうやってすぐ甘えさせようとしてくる」
「甘えたくない?」
「甘えたくない」
口ではそう言っているけれど、両手で雪彦の服をぎゅっと握って離そうとしない。親猫とはぐれた子猫みたいに震えている。背中をさすってやると、肩口に顔を埋めてきた。震えた声で怖い、と小さく耳元で囁かれた。
大丈夫、そうやって自分の感情を、知らなかったものを一つずつ知っていくんだ。そうやって、自分をわかっていくんだ。わからなかったことがわかったんだから、それは君の立派な成長だ。君の大事な向日葵も、必ず咲くからさ。
夏陽が傾きかけている。見下ろしている二人なんか知りもしないで、向日葵はずっと太陽を見つめていた。芳しい風が強く吹いて、向日葵の海をまた大きく揺らしていった。
この乙女ような向日葵は義弟の嵐志が育てている。種を蒔くところから初めて、毎日欠かさずに水をやり、咲いて、枯れるまでの面倒を見ているのだ。嵐志は夏になると毎年一本だけ向日葵を育てる。これは出会った当初からそうだった。どうしてなのか。雪彦は知らない。嵐志もなにも言わない。だから雪彦も聞いていない。でも甲斐甲斐しく世話をする姿は、サン・テグジュペリの『星の王子さま』でバラを世話する王子みたいに見えた。
今日もまた嵐志は庭に出て、ホースを水道に繋いで水を蒔いていた。たまにちらりと虹が出ているのが見えた。冷蔵庫からラムネの瓶と切ったスイカを出して、開けた引き戸のとこにどかっと座る。今日も雲ひとつない晴天で、目眩がする。帽子をかぶらないと熱中症になってしまう。休憩しないかと声を掛けると、嵐志はホースの水を止めて、雪彦の隣に座った。
「あ、黄色いスイカ」
「買ってきたのを切ってみたら黄色だった」
「いいことあるかな」
「金運上がるかも」
赤いスイカに比べたらすこし甘さは少ないけれど、それでも充分においしい。今日も暑いと言いながら、蝉の声を聞き、スイカを食べる。夏の風物詩を満喫だ。雪彦がひとつ食べ終わる時には、嵐志は三つ目に手を出していた。
付けっぱなしにしていたテレビ番組が、ビーチの特集をしていた。雪彦たちが住む県の半島。客で賑わう海水浴場が映し出されて、二人してげぇ、と声を出した。
「人いっぱい……」
「マナー悪っ」
「こういうのって、特集されると行きたくなくなるんだよね、俺」
「ゆき兄の言いたいことわかる」
「あ、わかってくれる?」
「だって特集されるってことは、人がいっぱい来るってことだろ。どうせだったら綺麗な景色独り占めしたいじゃん。マナー悪いやつと一緒に見たくないし」
鬱陶しそうにサイドテールにした髪先をくるくると指に絡めながら、でも視線はテレビから離さない。本当は行きたくてうずうずしているのが、手に取るようにわかる。
「じゃあ、ちょっとドライブに行こう」
「どこに?」
「どっか、遠くに」
行き先は決めずにワンボックスカーに乗り込んだ。まだ大学生の雪彦だが、嵐志の父、つまり雪彦の義父に当たる人に宛がわれたものだ。名義もその人の名前になっているけれど、使用頻度は雪彦が一番だ。
「東か西か、北か南か」
「南」
「オーケー」
ワイヤレスで音楽プレーヤーとスピーカーを繋いでシャッフルを選択すると、冬のラブバラードが流れてきて、思わず二人して笑った。確かこれ、去年の冬にココアのCMで流れた曲だ。この炎天下に熱々のココアはない。
「シャッフルはやめよう」
そう言って夏の曲を集めたプレイリストを再生した。二年くらい前に流行った向日葵畑を歌った曲が流れた。向日葵畑、いいな。そう思いながら車を走らせた。
高速に入って軽快に飛ばすと、嵐志がいいの? と聞いてきた。
「なにが?」
「ほんとに遠くまで行っちゃって」
「おや、怖じ気付いた?」
「そんなことないけど」
七月の平日。世間では早盆の時期だけど、交通量が少ないのか多いのかわからない。実を言うと雪彦も高速をあまり使ったことがない。ベンツにウィンカーもなしに割り込みをされて、少し腹が立った。
「事故ったらそれもまたいい思い出」
「よくない」
「嵐志くんも運転することになったら気をつけてね」
「俺はまず自転車も乗れねーもん。車なんか運転できる気がしない。他人の命を預かるなんて柄じゃねーし」
嵐志はその足の速さから、自転車を使ったことがない。走った方が速い。それが嵐志の口癖だ。実際、嵐志は自転車よりも速く走ることができたし、荷物を持っていたとしても速さが衰えることはなかった。
サービスエリアでおにぎりと飲み物、少しのお菓子を買って再び走り出す。景色が街中のビルから住宅街へ、住宅街から畑へ、畑から山の中へと変わっていく。
「すごい、遠くまで来ているって感じがする」
助手席から外を見ながら嵐志がぼんやり呟いた。空模様はいっこうに変わらないのに、その下にある風景は刻々と変わっていく。
「まだ一時間しか走ってないのにね」
「どこまで行くの?」
「とりあえず、嵐志くんに指定された一番南まで」
コーラのペットボトルに口を付けて、嵐志にポテチを口にい入れてもらった。久々に食べた、ジャンクなお菓子はしょっぱくておいしい。曲が変わって、男性アイドルのサマーソングが流れ出した。標識が行き先を示している。ある地名が目に入った。それを通り過ぎてから雪彦は高速を出るためにウィンカーを出した。
サービスエリアで買ったおにぎりだけじゃお腹は満たなかったみたいだ。おなかがぐーっと音を立てた。小腹がすいているときにチョコとか飴とかを食べると、胃が刺激されてさらにお腹がすくという、アレだ。
「やっぱり足りなかったね」
「お菓子じゃ腹は膨れないな」
「嵐志くんはおにぎりはお菓子の部類に入るんだね。覚えておくよ」
「うーん、大きさによる」
高速を降りたところにあったバーガーショップで持ち帰り注文をして、再び車に乗る。ほかほかの紙袋を持って、嵐志のご機嫌が上がった。久々に食べる、と袋の中に充満する匂いを嗅いでいた。
車を発進させる前にカーナビで地図を見ると、目当てのだいたいの場所がわかった。一緒にのぞき込んでいた嵐志は頭にハテナを浮かべていたけれど、すぐ近くに海があることに気づいたようだ。
「天気もいいし、浜辺で食べようか」
「いいね。でもゆき兄、駐車場……」
今ってどこも満車なんじゃ、と続く言葉を遮った。海に関してはとっておきの情報を雪彦は持っていた。
「お義兄さんにお任せなさい」
家族連れであろう車が道路に列を連ねる中、雪彦は脇道に逸れて走り出した。港町の町並みの中を低速度でゆったりと走る。途中、家と家の間だから猫が飛び出してきた。猫をよく見かける町だ。嵐志は猫を見かける度に「ゆき兄、猫」と短く報告してきた。
海に続く道とは逆の道に入ったところにある公園の敷地に、車を止めた。ここ? と嵐志が無言で問いかけてくる。
「おいで」
それだけ言って紙袋を持って外に出た。潮の香りを含んだ風が吹いていた。嵐志と一緒に道路を横切って、堤防に付いていたコンクリートの階段を上がった。堤防の上に付くと、嵐志は感嘆の声を上げた。白い浜と、海が目の前に広がっていたのだ。
「すごい」
「すごいでしょ」
「誰もいない」
「うん。嵐志くんと、俺だけだよ」
誰一人いないのが不思議なくらいだ。近くには海水浴場があって、人がたくさんいたはずだ。車だって、道路にまだ連なっているのが見える。それでもこの場には、雪彦と嵐志だけだった。
「なんで?」
「さて、なんででしょう」
「答えてよ」
「実はここ、恭平さんから教えてもらったんだ」
「親父に?」
ここは以前義父から教えてもらった場所だった。義父は海上自衛隊の潜水士をしていて、その先輩の私有地らしい。その先輩も義父も自衛隊故に滅多に帰ってこず、雪彦に気晴らしにでも来ていいと伝えられていたのだ。
「だからこれは、俺と嵐志くんのプライベートビーチってやつだ」
雪彦が言い終わらぬうちに嵐志は駆け出した。砂に足を取られながら、もどかしそうにサンダルを脱ぎ捨てて、ジーンズの裾を捲り海へと一直線に走って行き、そのまま豪快に水しぶきを上げて海の中に入っていく。全く聞いてないな。やれやれと首を横に振って、雪彦も後を追った。
膝下まで海に浸かったところで、嵐志は足を止めた。視線は呆然と果てを見据えている。雪彦も靴を脱いで海に入っていく。足の下で、さらさらと砂が波に攫われていくのを感じながら、嵐志と同じ位置に向かった。
「どうしたの?」
「いや……」
嵐志は言葉に詰まったようで、それ以上動こうとも、話そうともしなかった。その目はなにを見ているのだろうか。同じ位置に立って、嵐志と同じ方向を見定めてみてもわからなかった。彼がなにを見ているのか。それは
嵐志だけが知っていて、結局のところ、雪彦にはわからないのが当たり前なのだ。ただ、囁くように潮騒が耳の奥に嫌と言うほど焼き付いた。
寄せる波は思ったよりも強く、気を抜いていると足を取られそうになった。鈍い青色に光る海面は果てがなく、波は止まることなく永遠に寄せて返していた。何億年も昔からの決まり事のようで、地球が滅びて海がなくならない限り、これからも続いてくように思えた。
「おなかすいたろ。ごはん、食べよっか」
嵐志はうん、と曖昧に答えた。
ピリ辛のソースがたっぷり入ったバーガーにかぶりつく。舌がひりついて痛いくらいの辛さがいい。雪彦同じものを注文した嵐志は「思ってたより辛い」とアイスティーで流し込んでいた。他に雪彦はサワークリームとチキン南蛮のバーガーを、嵐志はキャベツとトマトがたっぷり入ったバーガーを、それぞれダブルサイズで平らげた。
食後のアイスコーヒーを飲んでいるとき、変な感覚が襲ってきた。怠い、とはいかないまでも、ぼーっとする。熱があるようで、多分ない。食べ過ぎたのかもしれない。がらがらとプラスチックのカップの中で氷が鳴って、変な重さが手に残っていた。
雪彦は大樹たち兄妹に出会う前は、相当な偏食だった。一日に一回しか食事を取らなかったり、酷いときには金平糖やドライフルーツを数個しか口にしなかった時期もある。今でこそすっかり一之瀬家の食事で体調管理もされているけれど、元来の小食もあって、こうして調子に乗って食べ過ぎたときは、胃の辺りが変にざわざわするのだ。
少し横になると嵐志に告げて、砂の上にごろんと倒れた。日差しに灼かれた砂が熱かったけれど、同時にどこか心地よかった。
深い眠りは訪れず、割とすぐに目が覚めた。ずっと波の音が聞こえていて、肌がじりじりと熱かったからかもしれない。体感にして十五分程度。実際それくらいしか寝てなかったようで、太陽の位置は目を閉じる前と変わっていない。目を閉じて開いたら時間が過ぎていた、という物語にありがちな魔法は起きなかった。ぼーっと太陽を見ていると、光の線が花びらみたいに散って、向日葵みたい、と思った。
身体を起こしてまとわりついた砂を払う。滅多に人の来ない砂浜は案外綺麗な白色だった。でも沖縄の砂にはとうてい及ばないと雪彦は思う。一度、修学旅行で行った沖縄の海は、目の前の海よりも鮮やかなクリームソーダの色をしていて、遠くへ行くほど深い藍色に変わっていた。砂も珊瑚が長い時間の中で砕けたもので、いろんな形をしていて、さらさらしていた。
記憶を掘り起こしていると、義弟の姿が見えないことに気がつく。嵐志は雪彦から離れたところでばしゃばしゃと波を蹴っ飛ばしていた。靴は雪彦の前に転がったまま。たまに大きく寄せてくる波が嵐志の脛を豪快に濡らしていく。飛沫が身体に掛かってもそんなのお構いなしな様子だった。
雪彦も靴を脱いで嵐志の元に歩いて行った。爪先が水に触れて、ひやっと足下が涼しくなった。ぱしゃぱしゃと足を付けると引き込まれそうになっていく感覚に襲われた。海の魔力だ。魅了して、引きずり込まれそう。
「海はどう?」
嵐志は雪彦の方を見ずに「よくわかんねぇ」と答えた。
「わかんない?」
「海は危険だって、よく親父が言ってた。簡単に命を奪うから。心を許すと簡単にひっくり返されるから。質が悪い女よりはいいけど、って」
海上自衛隊の恭平さんらしい言い方に雪彦は笑みがこぼれた。恭平さんの言うことは正しい。海は怖い。それと対面している人だからこそ言えることだ。
「だから、こうして見ると、思ったよりも碧くて綺麗で、正直大丈夫なんじゃないかって思えてきてさ。これが一変して変わるの買って考えたらよくわかんなくなってくる」
海は危険だ。それ故に美しい。美しいのはその身に毒を隠し持っているから。二面性の美学ってやつだった。
「それは昔からずっとそうだよ。こうして変わらないで凪いでいるけど、風が吹けば激しく荒れる」
怖い? と問うと、少し、と帰ってきた。腕時計で時間を確認して、雪彦は空を見上げた。少し時間は早いけど、ちょうど頃合いかもしれない。
「見に行こうか」
「なにを?」
「もう一つの海」
ばしゃん、と二人の足にひときわ大きな波が当たって砕けた。
「海はひとつしかないだろう?」
助手席で嵐志がそう言った。車を走らせながら雪彦はくすくすと笑ってみせる。
「暗喩って知ってるかい? ものに例えることさ。ここで重要なのは『~のように』って言わないこと。雨を涙、花弁を雫、花が散ることを零れると言うみたいにね」
「今日のゆき兄、よく喋る」
「珍しい?」
「うーん……そうでもないや」
来た道を引き返して、山道に入る。整備されていなくて、がたがたと車体が揺れた。嵐志は別に不安とかないみたいで、冒険って感じがしてきた。と言った。
しばらくして【花広場】という看板が見えてきた。ペンキの手書きで、思わず見落としてしまいそうなくらい小さい看板だ。去年来たとき、雪彦はこれを見落として、山の中をぐるぐると回っていた苦い思い出がある。今回二度目の来訪だが、もうすっかり場所は覚えた。
「嵐志くんは【花広場】に来たことある?」
「ない」
「そっか。それなら、今日は天気もいいから言いものが見られる。期待してていいよ」
緑が開けて、道路沿いにビニールハウスがひとつ見えた。一角に、縄で仕切られた駐車場が見えて、そこに車を停める。ビニールハウスに寄って、中にいたおばあさんに駐車料金を渡すと、よく来たね、ときんきんに冷えたラムネを二本もらった。
ビニールハウスの中には、様々な花が並んでいた。みんな売り物だった。マリーゴールドやパンジーの苗だったり、切り売りの白百合や向日葵だったり、みな華やかな薫りを漂わせていた。
「ここはね、花の市場みたいなところなんだ。季節に合わせて花を育てて、こうして売っているんだ」
「ふーん」
「少し見ていく?」
「うん」
そのまま部屋で育てられるくらいに小さい鉢もあった。我が城の中と言わんばかりに、紫の菫が綺麗に佇んでいる。オレンジの鮮やかなマリーゴールドや、控えめな紫の桔梗が顔を並べる中、収穫したばかりの大きなスイカがまるまる一個置いてあったりした。今朝食べたばかりだけど、こうして見ると特別な気がしてまた食べたくなってくる。
嵐志の目が、ひときわ大きな向日葵に向けられた。思わず雪彦も声を漏らす。まさに大輪と称していいほどの凜々しさがあった。
嵐志は頬を赤くさせているけれど、どこか寂しそうにその向日葵を見ていた。けれど、すぐに顔を背けて、大股でビニールハウスの中を歩いて行ってしまった。
そういえば、嵐志が今朝水をあげていた向日葵は、まだ蕾のままだった。
嵐志はビニールハウスを出て、どんどんと歩いて行った。後を追った雪彦は、一瞬嵐志がどんな顔をしていたのか見てしまった。目が潤んでいた。泣き出す一歩手前。身体の内側からぶわっと熱くなって、頬が引き攣るのを感じた。やらかした。星祭りのとき同様、嵐志の柔いところを掬い損ねた。
声を掛けると、嵐志はぐいっと目元を腕で拭った。
「へーき」
先回りして答えを言われた。これを言われると雪彦はなにも言えなくなる。これ以上聞かないで、そう言われているみたいだった。
「……ごめん」
「なんでゆき兄が謝んの?」
振り向いた嵐志はにっと笑って雪彦の表情筋をほぐすみたいに頬をつねった。
「俺はへーきって言ってんだから、へーきなんだって。ゆき兄が気にすることなんてなーいの」
端から見たら、拗ねた彼女を宥める彼氏みたいな図だなって考えたら、可笑しくなって笑い出した。嵐志にもそのことを話したら、「ゆき兄を取ったって兄者に誤解されるからやめて」と表情を硬くしていた。
嵐志はたびたび、大樹に似た仕草をする。さっきの頬をつねるのもそうだし、なにも言わないで自分の中に隠しておくのもそうだ。だから、たまに見間違えることがある。雪彦は、嵐志が自分に向ける好意が憧れだと知っている。決して別の好意にならない可能性がないことも知っている。だからこそ、くすぐったくて変な感じがたまにするのだ。
「見せたいものって、どこ?」
「こっち」
反対方向に行こうとする嵐志の腕を引っ張って、雪彦は歩き出す。遠くに黄色の花畑が見えた。近づくにつれ、嵐志の目が驚きに見開かれていく。
「あそこ、向日葵」
指を指す先に、大きな花をたくさん開いた向日葵が視界を埋め尽くしていた。ふらふらと嵐志が雪彦の手を離して、走り出す。海を見たときと違って、おぼつかない足取りだ。なんだか危なっかしい足取りで、雪彦もすぐに後を追った。
「たくさんある……」
背の高い向日葵を仰いで、嵐志はうわごとのように呟いた。
「うん、たくさんあるね」
「こんなにたくさんあると、全部を見て回れない」
独り言なのか、雪彦に言ったのか、嵐志は向日葵畑の中に入っていった。嵐志は、自分の顔と比べると一回りも大きい向日葵の花に手をやって、まるで祈るように頬を寄せていた。
大輪の向日葵の花。向日葵の花言葉を、今更ながらに雪彦は思い出していた。
「………『貴方だけを見つめる』、か」
向日葵の花言葉がそう言われているのには諸説ある。有力なものは向日葵の習性だ。太陽が昇る頃に花開き。太陽を追いかけるように首を巡らせ、沈む頃に花を閉じる。太陽と共に、と言う意味を込めた花言葉。それがいつしか恋い焦がれる少女を連想させたのか、今では「情熱」「崇拝」などの言葉もあるくらいだ。
背の高い雪彦と同じくらいの位置に向日葵の花があるのは、なんだか変な感じだ。花の顔をした人間と並んで立っている気分で、ついつい「ごきげんよう」と話しかけてしまいそうだった。
花に大きな熊蜂が留まって、くるくると動き回っている。一生懸命に蜜を集めて、また別の花へと飛び去っていく。そういえば熊蜂は匂いが強い官能的な花によく来るような気がする。春にはよく藤の花に来ていたのを思い出した。
嵐志の姿は見えなくなっていた。ずいぶん遠くまで行ってしまったようだ。隣で涼しい風が吹いた。なんだろう、この寂しい感じは。それでも探しに行こうとは思わなかった。頭を冷やす時間が必要だ。彼も。自分も。
向日葵畑の中に人が通った跡がある。そこを他の人も通るものだから、ごく自然と道ができる。獣道ってやつ。ここでは大きな葉っぱや茎が踏みつけられてできた緑色の道だった。
ふと見ると、花が切り取られた跡がある茎を見つけた。そういえば、有料だけど五本までなら切り取って持っていってもいいんだっけ。看板に書いてあった気がする。鋭利な切り口をそっと指でなぞる。地下から吸い上げた水が雪彦の指を伝って流れていった。これを、彼が見たらなんて思うんだろう。可哀想って思うだろうか。
きちんと整備された通り道に、ベンチがひとつ置かれていた。幸い誰も座っていない。よっこいせ、と年寄り臭く口をついて座る。こうして見上げると、向日葵の背の高さを思い知らされる。雪彦よりもずっと上の方で花を咲かせているのがよく見えた。それをぼーっと眺めていると、少しだけむなしさがこみ上げてきた。水の匂いと、土の匂いと、葉っぱの青臭い匂いが入り交じって雪彦の中に入ってくる。それがなんの作用を起こしたのか、身体の中で得体の知れない感情が渦巻いていた。
ふぅ、と息を吐いて肘掛けにしな垂れかかる。
「……どうしてそこまで、君たちは太陽を目指すんだい? 太古の昔から咲き誇っているのなら、届かないことなんて、とうに知っているだろう?」
答えなんか返ってこないまま、強い風がひとつ、拭いた。
「ゆき兄」
目の前に嵐志が立っていた。その手に握っているものを見て、雪彦は眉をひそめた。
「それ……」
「あぁ、これ?」
切り取った向日葵の花が五本。花の大きさと葉の枚数と、バランスよく切り取られていた。嵐志は手にしていたものに視線を落として、ずいっと雪彦に差し出してきた。ん? と首を傾げていると、嵐志は「あげる」とぼそっと言った。
「俺に?」
受け取ると甘い香りがふわっと漂った。嵐志は雪彦の隣に座って、疲れたのかふーっと息を吐いた。嵐志からも向日葵の匂いがして、すんすん、と嗅いだら嫌がられた。
「花……」
「え?」
「花を切り取るの、嵐志くんは躊躇うかと思った」
「そう?」
「だって人間で言ったら首切りでしょ」
嵐志の首にとん、と手刀をお見舞いする。
「そうだけど……」嵐志はもごもごと語尾が小さく萎ませた。ちらっと雪彦を見上げてきた。「ゆき兄、なんか元気なかったから……」
「……それだけ?」
「それだけ」
もういいだろ、と嵐志はぷいっとそっぽを向いてしまった。その初心な反応に思わず雪彦はふふっ、と声を漏らした。ここまで思われているとは思わなかった。それが嬉しくて、もらった向日葵の花に顔を寄せた。水分を含んだ花弁が冷たくて、顔の熱を冷ましていく。太陽の恋人候補ってのは、ずいぶんとひんやりしているものだ。
「お礼に良いもの見せてあげる」
「ゆき兄の良いものは信用できない」
「ついておいで」
嵐志の腕を取って雪彦は歩き出した。
山の稜線を這うように遊歩道が続き、そこを雪彦と嵐志は歩いて行く。ウォーキングに使われているようで頂上までの距離が書かれた看板がいくつか立っていた。斜面自体は緩やかだけど所々で足場が悪いところもある。ひゅうと風が吹いた。その甲高い音を聞いた嵐志が足を速めた。たんたんと軽快に駈けて、雪彦を追い抜いていった。雪彦も走って後を追う。
稜線が切れて視界が一気に開けた。すっと光が差していて、眩しさに目を細める。眩しいのは光のせいだけではない。向日葵だ。視界いっぱいに鮮やかな黄色が広がっていた。黄色の花びらが光を反射してさらに明るく見えるのだ。先ほどの向日葵畑が、ざぁっと風に吹かれて波のようにさざめいていた。
息を呑む音が聞こえた。
そっと盗み見ると、嵐志の両目が大きく見開かれていて微かに潤んでいた。その横顔が綺麗に光で縁取られていて、そのまま景色に溶け込んでしまいそうなくらいに、美しかった。
そしてついに、彼の目からぽろっと雫が零れた。
ほろほろとビー玉みたいに雫が転がって嵐志の黒いTシャツに染みを作っていた。
「母さんがさ、向日葵を育てていたんだ」
泣いていることもわかっていないみたいに嵐志が静かに話し出した。
彼の母は花を愛でる人だと聞いた。季節の花を庭に植えて世話をしていて、一之瀬家の庭は小さいけれど賑やかだった。雪彦はその庭を見たことがない。その前に、彼らの母親は亡くなってしまっていた。
「母さんが入院してから、庭に花が咲かなくなった。俺は、向日葵一つしか咲かせることができなかった。大事なものは、一つだけあればいい。そう思っているけど、実際はそうはいかないんだもんなぁ」
その声に涙色が混じる。
「だってさ、こんなにたくさん会ったら、想いが散らばりそうで、怖いんだもの。同じものの、ありふれた一つになりそう」
あぁ、と雪彦は思った。『星の王子さま』と同じだ。違っているのは、王子さまはありきたりなバラの存在を知らなかった。嵐志は敢えてありふれた向日葵から目を逸らしていたこと。
ひっく、としゃくり上げ始めた。どうした? と聞くと嵐志はただ首を横に振った。
「わかんねぇ、なんで、なんで止まんねぇの?」
どうやら嵐志は、感情の高ぶりが涙になって現れるタイプなのかもしれない。日よけに羽織っていたストールの裾で、べしょべしょになった嵐志の顔を丁寧に拭ってやった。
「だって、だってっ、大きすぎて、なんかわけわかんない。全部向日葵に持ってかれて、なにも考えられなくなるっ」
「……いいよ、なにも考えられなくなっちゃえ。今は夏だ。全部おかしくなって、狂っちゃっても問題ない。夏は人をおかしくさせる」
「……ゆき兄、ずるい」
「なにが」
「そうやってすぐ甘えさせようとしてくる」
「甘えたくない?」
「甘えたくない」
口ではそう言っているけれど、両手で雪彦の服をぎゅっと握って離そうとしない。親猫とはぐれた子猫みたいに震えている。背中をさすってやると、肩口に顔を埋めてきた。震えた声で怖い、と小さく耳元で囁かれた。
大丈夫、そうやって自分の感情を、知らなかったものを一つずつ知っていくんだ。そうやって、自分をわかっていくんだ。わからなかったことがわかったんだから、それは君の立派な成長だ。君の大事な向日葵も、必ず咲くからさ。
夏陽が傾きかけている。見下ろしている二人なんか知りもしないで、向日葵はずっと太陽を見つめていた。芳しい風が強く吹いて、向日葵の海をまた大きく揺らしていった。
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