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第5話
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「こんにみあ~!!!
今日も楽しく絶望してる?
ゴホッ……実は、ちょっと風邪? ひいちゃったかも?
え、『ミアは風邪ひかないはず』?
おい、ナチュラルにディスるのやめろ。あはは。
ちょっと熱あるっぽいけど、まあ平気。
『何度?』、体温計ないんだよね……ゴホッゴホッ。
あ、いまのマジ、振りとかじゃない、あははは、ごめ、
ゴホッ…あっ!」
◇
画面が大きく揺れ、画像合成のアルゴリズムが外れた、
一瞬、カメラを止めようとする細い指が映った。私は、そういう指をシェルターで亡くなる前の人たちの寝床で見てきた。
「先輩、ミア、やばくないっすか」
私は、PCを見ながら落ち着かない声を出した。
「……本人が風邪っていってんだから、風邪だろ」
「怪我もしてるんすよ。いる場所がわかれば、薬渡せるのに。こないだの『遠征』で見たのとか、過去映像とか、ヒントになる気がするんすよ」
「行ってどうすんだ。相手は身バレしたくないんだろ?
「薬置いてすぐ帰ってくればいいじゃん」
「……はっきり言うぞ、危ないんだよ。『遠征』にいくとき、どれだけ慎重にやってると思ってんだ。ドローンに学習されたらシャレになんねえぞ」
「…………」
「お前、家族探したいって言って遠くへ出てって、帰ってきた奴いねーの知ってんだろ。勝手に行くのだけはやめろ」
「……でも私は、V豚だから」
そう私が言うと、先輩が基盤をいじる手を止めた。
「――配信聞けなくなるの嫌なんですよ。私は探しますよ、ミアのいる場所」
「おせっかいだと、こういう世界は生きにくいぞ」
先輩は背中を向けて、電源室の方に向かった。
私は顔をしかめて、その背中に向けて、ぶーと鳴いた。
◇
「次のチャットは……え、『薬渡したい』?
……でもここがどこか分からんしなあ。あはは。ありがとう……
……気持ちだけで嬉しいよ。
いい子はあんまり遠くまで出歩かないように! お姉さんとの約束だ。
――今日は短くてごめんね、チャンネル登録・高評価よろみあー!」
◇
とにかく、やれることをやるしかない。
私は、配信アーカイブを見直した。横断歩道とかタイルとかグラフィティとかドローンの羽音とか自然音とか『ヒント』らしきものを紙に書き出す。そこに、『遠征』で見た情報も加える。
先輩は、全然手伝ってくれなかった。顔合わせづらいのか、どこかに引きこもったままだ。いい歳して子供なのだ。あのくそナード。
それでも私は、数少ない手がかりを、関係性や時系列で並べて仮説を組み立てていった。
ようやく、ミアいそうな場所が、タカサキ市を中心とした半径50kmほどに絞られてきた。
だが、それは夜を数十日使っても回りきれない広さだった。
決め手が足りない。早くしないと。
頭が知恵熱でふらふらする。ろくに学校教育を受けられなかったこの頭脳ではもう限界だ。
すげー悔しいが、奴に頼むしかないか。
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